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コロナ下での対応-マレーシア日本通運 早瀬様

新型コロナウイルス「Covid-19」感染抑制対策として、マレーシア政府は社会・経済活動を厳しく制限した行動制限令(MCO)を3月18日付けで発令。国境が閉鎖され国内移動が制限された中で試行錯誤しながら物流を守ったマレーシア日本通運社長、早瀬彰哉さんに苦労話を伺った。

目次

「物流は止めてはならない」

——3月18日にMCOが発令されました。

早瀬:弊社は物流業者ということで必需サービスというカテゴリーになりましたので規模を縮小した上でですが、事業が続けてこられました。企業理念に「運輸の使命に徹して」とありますが、「物流は止めてはならない」という思いを持って、業務を続けてきました。

——急な発表だったので混乱はなかったですか?

早瀬:MCO発令時点では、必需サービスのカテゴリーが不明確な部分がありました。また、どうしたら感染しないかといったスタンダードがあまり無かったので、コロナに対応するSOPは走りながら考えていこうということでやってきました。当初のオペレーションは通常の2〜3割ぐらいでした。最初は必需品を扱う顧客だけでしたが、その後、必需品のカテゴリーが増えたり、MITIから許可を得た顧客の荷物など、徐々に取り扱いが増えてきました。

——取締りも始まるし、最初は状況がよく分からず不安だったのでは?

早瀬:物流については医薬品や食品などの必需品は規制外だったので、とりあえず初日は状況をみて、顧客にも聞いてみてから対応を決めようと思いました。
道路封鎖など不透明な状況があったので、とりあえず行ける人は出社することとし、警察に止められたら必需サービスと説明出来るよう社員に会社のレターを持たせて出勤してもらいました。

——その後の対応は?

早瀬:MCOの内容が少しづつはっきりしてきた段階でそれに合わせた対応をとったので、顧客から依頼を受けても運べないという事態は避けられました。当社は航空輸送や海上輸送、陸上輸送、倉庫などやっていますが、最も影響があったのは航空輸送ですね。海上輸送は船会社の減便が一部ある程度でしたし、陸運は自社トラックを保有しているので支障があったといってもトラックが警察によく止められるぐらいでした。

チャーター便飛ばして対応

——航空貨物の問題とは?

早瀬:航空貨物は貨物便が少し飛んでいましたが、人が動かないので旅客便がほとんど飛ばない。これには困りました。当初は医薬品やマスクなどの医療関係の緊急輸送が多かったのですが、貨物を空港に止めない為に当社で飛行機をチャーターし、5、6月で合計30機ぐらいを中国や日本に飛ばして、緊急貨物が止まらないようにしました。

——海運では港の作業が滞ったと聞きました。

早瀬:海運ではクラン港で輸入貨物が止まりました。政府は必需品でなければ運んではいけないと言っていたのですが、何度か期間を限定して港から輸送してよいという特別措置がとられたので、混雑はしましたが荷物が動くようになりました。ただ運び出しても工場が動いていないので製造できないという問題、店舗が閉まっているので販売できないという問題があって、港に置いておけない荷物のための倉庫の手配が大変でした。当社の倉庫も可能な限り提供しました。

——輸送量が減って輸送料金に変動はあったのですか?

早瀬:物量が減っているので海上輸送も便数は減りました。通常は物量が減ると料金が下がるのですが、今回は輸送能力の低下により航空輸送も海上輸送も料金は上がりました。顧客からは「なぜなんだ」と質問を受けることもあり、フォーワーダー(利用運送業者)として間に立って説明するのに苦労しましたね。

——輸送料金が上がるのは顧客にとっては負担ですね。

早瀬:国内だけで完結すればいのですが、国際貿易では相手がある話です。サプライチェーンの問題ですね。例えば中国では経済が復活しているのに物が送れないということになってしまいます。他の国が供給しているのにマレーシアからは供給できないと、マレーシアから買ってくれなくなって顧客をとられてしまうので、費用はかかっても送らないといけないお客様もありました。普段以上に輸送モード、輸送ルートなどリードタイムとコストをみながら最適な提案が求められる場合が多かったです。

  警察への説明で苦労

——倉庫については?

Eコマース商品や医薬品は認められていましたが、警察が何度も査察に来ました。「何をやっているのか」と聞かれ、必需品のオペレーションであると説明して帰ってもらいました。翌日にもう一度警察に出頭して説明しろと言われたケースもありました。警察官も運輸省の指示とか通産省の認可など、不明確な事も多く、よく分かっていなかったのではないかと思いますね。

——警察になんらかの通報があったのかもしれませんね。

早瀬:従業員に出社を求める際にも、単に「シフトで会社に出て来い」ではなく「我々は社会のために物流を動かさないといけない。必要な仕事であり、我々がいないと困る会社もある。だから我々は出社するのだ」ときちんと説明するように各現場に指示しました。他の日系企業からは社員に出勤させるのが難しいという話を聞きましたが、当社の場合は社員が出社を拒むという話はなかったです。感染リスクのある中で働いてくれた事はありがたいと思っています。

働き方を見直す機会に

——勤務体制はどうなりましたか?

早瀬:当社の場合は、総務とか経理とか管理系と営業系は基本的に在宅勤務としました。現場で貨物を扱ったり物を運ぶ者だけが仕事の量に応じて出社していました。最初は取扱量が通常の2割程度だったので、従業員を3つぐらいにチームに分け、3日間ぐらいで完全ローテーションにしていました。感染防止のため各チームどうしはまったく接触させないようにしました。もし感染者が出てもそのチームを外せばいいという訳です。4月ぐらいまではそれでまわしました。

——そのうち規制が緩和されて取扱量が回復してきますね。

早瀬:4月に入り取扱量が5割ぐらいに回復すると2チームに分けて対応しましたが、5月ぐらいになると7〜8割ぐらいになっていましたので、こんどはチーム分けができなくなりました。そうなるともし感染者が出ると、隔離の必要があるため荷物を止めてしまうことになります。顧客には「シフトを組まないと感染者が出た場合に配送が遅れるリスクがあります」と説明していました。とりあえず今は感染しないようにやるしかないので、倉庫の中でもエリアを分けてその中で作業するようにして、できるだけ接触を減らし他の従業員にうつさない工夫をしています。

——社員が在宅勤務に慣れてしまったりしませんか?

早瀬:会社に来ざるを得ない社員については、シフトを組んで半分ずつにしようと言っても、結構みんな会社に来るんですね。居心地がいいんでしょうかね(笑)。逆にこうしたことがあったので、コロナが収まったから在宅勤務をすべて止めようというのではなく、 感染防止の為にも在宅勤務できる人は在宅勤務を続けるといったように、会社に来ることが仕事ではなく、仕事の内容と目標を明確にしていくという社内全体の働き方を見直す機会にはなりましたね。

——振り返ってみられて政府の対応や御社の対応について採点は?

早瀬:政府のMCOの発表は非常に急で、日本とか他の国に比べて当初の制限は厳しかったです。何がベストだったかというのは難しいですが、政府の対応はそれなりに良かったと思います。産業活動を正常化するために産業界からの声に耳を傾けてうまく対処してきたと思います。当社の対応については、航空機など輸送インフラが減るなどの逆風の中にあって物流を止めずに顧客の要望に応えてかなりうまくやれたと思います。事業としては、多くのトラックと運転手を抱えた中で仕事が激減した陸上輸送部門が大きな影響を受けました。

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