行動制限令(MCO)が発効した3月18日朝にマレーシアに航空便で到着した旅行者が、「不法入国者」扱いに近い非人道的で劣悪な環境に長期間置かれていた事が「マレーシアBIZナビ」の取材で分かった。
前日の深夜に関西空港からクアラルンプール国際空港・格安航空ターミナル(KLIA2)行きのエアアジアX機に搭乗した日本人乗客らによると、到着後に入国管理局のゲート前で停められ、入国管理局のオフィスでパスポートや携帯電話などの手荷物を取り上げられてしまった。入管の係官からは「ロックダウンしたので入国できない。あなたたちは日本に帰らなければならない」と告げられたという。
日本に一時帰国していた日本企業の駐在員Sさんは、行動制限令(MCO)が発令されるとの情報を受けて急遽マレーシアに戻ることを決めた。関西空港ではエアアジアXが普通に搭乗手続きを行なったため、KLIA2に到着した際にこのような悲惨な状況に置かれるとは思っていなかった。携帯電話がないので外部に非常事態について連絡することもできず、「Sが行方不明になった」と会社で大騒ぎになったという。
当日朝には他にも到着便があったが、それらに乗っていた乗客が入国管理局職員によってトイレの近くの1カ所に集められていた。みんな床で寝るしかなく「3密状態」だったという。Sさんはこれが原因でクラスタが発生したら大変なことになると感じた。欧米人らが大声で係官に不満をぶちまけていたという。
待遇も悪く、配給される食事はパック入りの弁当で、備え付けの給水機だけが頼りだった。Sさんは食べなかったという。みんな着替えもなく、シャワーなどもないのでトイレで身体を拭くぐらいしか出来なかった。エアコンが効き過ぎて寒かったが改善を求めても聞き入られず、多くの旅客は寒さで震えて過ごした。どこからか段ボールを見つけてきて寝ていた人もいたが、没取されてしまったという。
政令で入国が禁じられたので入管が入国拒否するのはある意味仕方がないともいえるが、入国できないにも関わらず搭乗を認めた責任はエアアジアXにある。にも関わらずエアアジアXの係員の対応も悪く、預け荷物について係員に聞いてもまるで犯罪者に対するような扱いで、「座ったまま話せ」という高飛車な態度だった。
本国に送還されることになっているといっても、MCOのために国際便は次々にキャンセルとなって帰国便もなかなか決まらない。帰国便は基本的に出入国管理局が手配したという。Sさんは幸い19日に帰国できたが、便数が少ない路線であった場合はかなり長期間KLIAに留め置かれた。タイ・クラビから来たあるタイ及びマレーシア在住の日本人は、クラビ線が飛ばないため1週間もKLIA2で暮らす羽目となった。最終的に関空便に切り替えて日本に向かったという。
なお日本で待機していたSさんは、ようやく3週間ほど前にマレーシアに無事戻ることができた。しかしそれもスンナリいったわけでなく、18日の「強制送還」について聞かれたり、高い金を払って出発前に受けたPCR検査について入国の際に無効だといわれて抗原検査を受けさせられたという。
「マレーシアBIZナビ」でも度々報じているように、MCO発表をはじめマレーシア政府の決定は唐突なものが多かった。18日の出来事は氷山の一角とみられるが、政府上層部と現場の間の意思の疎通がとれずにトラブルになるケースはいつでも起こりうる。当分の間は十分に注意が必要だ。
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