第874回:高齢化社会との向き合い方(1)高齢者をお荷物に感じる意識
前回は、留学の長さは仕事のパフォーマンスに影響を与えないというお話でした。留学は時間よりも中身が大切といえます。つまり、日本は様々な国の人たちとの付き合い方を学ぶ必要があります。同時に、少子高齢化の中で、日本人同士の付き合い方にも変化が生まれています。そこで、今回から、高齢者との付き合い方について書きます。
Hövermann & Messner(2023)は、World Values Surveyに収録された、日本を含む59カ国 70,456人分のデータを用いた分析により、お金持ちになることや社会的に成功することを重視する「市場化されたメンタリティ」、分かり易い言葉に直せば「ハングリー精神」を強く持つ人ほど、高齢者を社会のお荷物と感じる度合いが大きいことを示しています。これは、お金や成功に執着する人ほど、高齢者を支えるための社会的負担の増加による分け前の低下に敏感なためです。また、高齢化の速度が速い国ほど、高齢者をお荷物と感じる度合いが高いことも示されています。そのため、儒教の影響により高齢者を敬う文化を持つことで知られる東アジア諸国で、欧米諸国よりも高齢者に対する否定的な見方が強いという逆説的な結果になっています。
彼らは別の論文で、このハングリー精神が移民に対する排斥意識とも相関することを示しています(Hövermann & Messner, 2019)。従って、日本人がしばしば新興国の人々を見下すような態度を取ってしまうのは、自分たちの分け前が少なくなってしまうかも知れないという脅威の表れかも知れませんし、一部の人たちに見られるような高齢者を馬鹿にするような意識とも根っこでつながっているのかも知れません。
Hövermann, A., & Messner, S. F. (2019). Marketization and anti-immigrant attitudes in cross-national perspective. Social Science Research, 84, 102326. https://doi.org/10.1016/j.ssresearch.2019.06.017
Hövermann, A., & Messner, S. F. (2023). Explaining when older persons are perceived as a burden: A cross-national analysis of ageism. International Journal of Comparative Sociology, 64(1), 3-21. https://doi.org/10.1177/00207152221102841
國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、東北大学客員准教授、国際経済労働研究所理事、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、産業創出学の構築に向けた研究に従事している。
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