第499回 マレーシアの5月の輸出額、米国向けが中国向けを上回る

6月20日、統計局は2024年5月の貿易統計を発表しました。輸出は前年同月比7.3%増、輸入は前年同月比13.8%増となりました。輸出額は1282.2億リンギとなり、5月としては過去最高を記録しました。

図1はマレーシアの過去3年間の月別輸出額の推移を示したものです。2024年(橙線)は2,3月は2023年(青線)とほぼ同水準でしたが、4,5月と2ヶ月連続で2023年を大きく上回りました。5月については通年で過去最高の輸出額を記録した2022年(灰線)も上回っています。2023年4月頃から続いてきた輸出の不振はようやく底を打ったように見えます。

5月の輸出における注目すべき動向としては、米国向けの輸出額が中国向け輸出を上回った点があげられます。図2はマレーシアの米中向けの月別輸出額の推移を2008年1月から2024年5月まで示したものです。米国向けの輸出額が中国向けを上回るのは、2009年2月以来、実に15年3ヶ月ぶりとなります。

2009年は世界金融危機の影響で米国向けの輸出が落ち込んだため中国向け輸出がそれを上回り、以降、長く中国向け輸出が米国向け輸出を上回り続けていました。ナジブ政権下の2013年12月には中国向け輸出は米国向け輸出の2.2倍に達していましたが、2022年以降、両国向けの輸出額が接近しはじめ、2024年5月に遂に逆転したことになります。

6月19日、中国の李強首相と会談したアンワル首相はBRICSに加盟する意向を表明しました。また、翌20日にはマレーシアと中国が南シナ海の領海問題について2国間協議を開始することが報じられました。ナジブ政権下で蜜月状態であった両国は、2018年の政権交代でやや距離を置きましたが、再び接近しつつあるように見えます。

一方で、経済面では米国向け輸出が今回、中国向けを15年ぶりに上回っており、マレーシアはアンワル首相の言葉通り、米中両国に対して中立という立場を実際に実現していると言えます。

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所海外調査員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp