第876回:高齢化社会との向き合い方(3)日本の高齢者の元気が無い理由
前回は、国民文化としての「男性らしさ」が高齢者差別に関係するというお話でした。
ホフステードの文化軸には「男性らしさ」を加えて全部で6つあり、そのうちの1つに「人生の楽しみ方」があります。この尺度によれば、世界は、充足的な社会と抑制的な社会に分けられます。充足的な社会は、人生を味わい、楽しむことに関わる人間の欲求を自由に満たそうとする社会です。一方、抑制的な社会は、厳しい社会規範によって欲求の充足を抑え、制限すべきだという考え方を持つ社会です。マレーシアは、97ヵ国の中で30番目に充足的な社会(68番目に抑制的な社会)であり、比較的、充足的な社会です。一方、日本は、53番目に充足的な社会(45番目に抑制的な社会)であり、比較的、抑制的な社会であるといえます(Hofstede et al., 2010)。先行研究は、充足的な社会ほど死亡率が低く(Hofstede et al., 2010)、平均寿命が長い傾向にあることを示しています(Gamlath, 2017)。この原因については、充足的な社会では、通常、主観的な幸福感が高く、また幸福であることを肯定的に捉えるため、心血管疾患などのストレス関連疾患による死亡が抑制されるためであると考えられています(ただし、充足的な社会には、ファーストフードやソフトドリンクをより多く消費する傾向があるため、肥満になる可能性が高いという負の側面があります)。
つまり、人生を楽しむ充足的な社会は、高齢者にとって生き易い社会といえます。高齢者がイキイキとした社会であれば、年齢を理由とした差別や偏見も起こり難いと考えられます。日本は健康的な食生活や高い医療技術のお陰で長寿を維持していますが、抑制的な文化がマイナスに働くことで、高齢者は、生き長らえながらも、イキイキとしていないのかも知れません。耐え忍ぶことを良しとする社会から、人生を楽しむことを良しとする社会に変わることで、高齢者が元気になり、差別を受け難くなると考えられます。
Gamlath, S. (2017). Human development and national culture: A multivariate exploration. Social Indicators Research, 133, 907-930. https://doi.org/10.1007/s11205-016-1396-0
Hofstede, G., Hofstede, G. J., and Minkov, M. (2010). Cultures and Organizations: Software of the Mind. Revised and expanded 3rd edition, New York: McGraw-Hill.
國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、東北大学客員准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、産業創出学の構築に向けた研究に従事している。
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