第878回:高齢化社会との向き合い方(5)高齢化した社会では高齢者が差別され難い?

前回は、年齢の近い者同士の集まりが、異なる年齢層に対するステレオタイプの温床になり易いというお話でした。今回は、高齢化とエイジズム(年齢を理由とした差別)の関係についてです。

これまでに人口統計学的な手法で行われた研究が明らかにしたことは大別して2つあります。一つは、高齢化の「速度」が速いほどエイジズムが強まるというもので、もう一つは、高齢者の「割合」が高まるほどエイジズムが弱まるというものです(Hövermann and Messner, 2023)。これら一見すると相矛盾する結果は、負担感が急激に高まると高齢者への不満が大きくなるが、皆が高齢者ばかりの社会では怒りの矛先の向かうあてがなく、かえって不満が高まり難いことを意味します。日本は高齢化の速度も高齢者の割合も世界最高水準なので、両者が綱引きをすることでエイジズムは強くも弱くもなり難いのです。そのため、世界価値観調査(Inglehart et al., 2014)に収録された「Older people are a burden on society(お年寄りは社会のお荷物である。強く反対~強く賛成の4択から回答)」で測られる日本のエイジズムの大きさは、図に示すとおり55ヵ国中31位で、ちょうど真ん中あたりです。※調査の行われた2010~2014年当時の数字を元に筆者算出・作成。高齢化率(65歳以上の全人口に占める比率)および高齢化速度(直近10年間の高齢化率の変化)の算出には、国連および世銀のデータベースを用いた。

Hövermann, A., & Messner, S. F. (2023). Explaining when older persons are perceived as a burden: A cross-national analysis of ageism. International Journal of Comparative Sociology, 64(1), 3-21. https://doi.org/10.1177/00207152221102841

Inglehart, R., Haerpfer, C., Moreno, A., Welzel, C., Kizilova, K., Diez-Medrano, J., Lagos, M., Norris, P., Ponarin, E., & Puranen, B. et al. (eds.). (2014). World Values Survey: Round Six – Country-Pooled Datafile Version, Madrid: JD Systems Institute. https://www.worldvaluessurvey.org/WVSDocumentationWV6.jsp

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、東北大学客員准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、産業創出学の構築に向けた研究に従事している。
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