第549回:インドネシアの有力イスラム団体が巨額資金を移動

Q: ムハマディアの動向がインドネシアのイスラム銀行市場で注目を集めているようですが?

A: インドネシアの有力イスラム団体が1,200億円以上の預金を特定のイスラム銀行から引き上げたことに、注目が集まっている。社会貢献活動を活性化させ、イスラム銀行の買収や新銀行設立も取り沙汰されている。

今回の騒動の中心は、インドネシアで2番目に規模が大きいイスラム団体であるムハマディアだ。ムハマディアは、1912年設立の近代改革派グループで、1926年に設立された最大の保守派団体ナフダトゥル・ウラマーにつぐ勢力である。ムハマディアは、社会活動に力を入れており、数多くの学校や病院を運営していることで知られている。

そのムアマディアが6月、インドネシア最大のイスラム銀行であるバンク・シャリア・インドネシア(BSI)から、約13兆ルピア(約1,265億円)の預金を引き下ろして、他のイスラム銀行に分散させたことが明らかになった。BSIの2024年第1四半期の財務諸表によれば、同行が引き受けていた預金残高は70兆ルピアであることから、実にその18%が引き下ろされた計算になる。

今回の措置の理由についてムハマディア関係者によれば、一つは預金を集中させることで生じるリスクを分散させることと、もう一つは代わりに預金を引き受けた他行が融資を積極的に行うことで、多様な社会貢献が行なえるとしている。またこの措置は、BSIが2021年に合併した当時から検討していたとしている。

インドネシア金融庁(OJK)は7月、ムハマディアがより直接的に銀行業に参画できるよう、銀行買収や新銀行設立を支援することを明らかにした。13兆ルピアは、イスラム銀行の総資産トップ10入りできる規模である。巨大な資金を持つイスラム団体が自ら銀行を運営するという、新しい局面も視野に入りそうだ。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。