第881回:高齢化社会との向き合い方(8)ICTの普及はリスクを伴う
前回は、ICTの普及が高齢者の孤立を防ぐ可能性があるというお話でした。しかし、良い話ばかりではないようです。Parti(2023)が米国で行ったアンケート調査に基づく研究の結果は、ICTの普及により、高齢者が犯罪に巻き込まれるリスクが高まる可能性があることを示しています。具体的には、ICTの使用時間が長く、ICTのスキルに自信のある高齢者ほど、オンライン詐欺に巻き込まれるリスクが高いことが示されました。詐欺に遭うくらいなので、この「自信」は、技術に裏づけられたものではなく、「過信」に過ぎないものです。そのため、既に退職した高齢者よりも、ICTを使用する機会の多い、現役で仕事をしている高齢者のほうが詐欺に遭い易い傾向がありました。また、被害に遭った経験のある高齢者は、被害の後もクレジットカードの凍結などの対策を講じない傾向にありました。
さらに、被害があったことを親しい家族などに報告しない人も少なくありませんでした。被害にあったことを周囲に打ち明けない理由についてアンケート調査の結果は明らかにしていませんが、論文の著者は、不注意を責められることを恐れて打ち明けられない高齢者が少なくない可能性を論じています。被害を打ち明けられないことは、それだけ周囲が気づいてあげられないことを意味し、将来のより大きな被害を招く原因にもなります。
このように、高齢者へのICTの普及は、便利さや幸福感をもたらすという良い側面がある一方、被害に巻き込まれ易くなるという悪い側面があります。従って、高齢者がICTを習得する際には、彼らが誤った利用をしないように適切な指導を行ったり、利用において生じる悩みを気軽に打ち明けたりできるように、家族や職場の上司などの周りの人間と信頼関係を構築することが必要です。
Parti, K. (2023). What is a capable guardian to older fraud victims? Comparison of younger and older victims’ characteristics of online fraud utilizing routine activity theory. Frontiers in Psychology, 14, 1118741. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2023.1118741
國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、東北大学客員准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、産業創出学の構築に向けた研究に従事している。
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