第505回 ブミプトラ経済変革計画2035とは何か(2)
マレーシア政府は2024年8月19日、ブミプトラ経済変革計画2035(PuTERA2035)を発表しました。この計画は2035年までの約10年間で実施され、ブミプトラの経済参加・所有・支配を拡大し、他の民族との経済格差を縮小することを目的としています。
アンワル首相はPuTERA2035の前文や発言で、それがブミプトラ以外の人々の利益を脅かさないものであることを強調しています。実際に、PuTERA2035の多くの数値目標は、ブミプトラの経済水準を多民族に関係なく引き上げることを目指すもので、例えば「ブミプトラの極度貧困率を0%にする」というようなものです。一方で、連載第504回で指摘した3つについては、民族間の分配の問題にかかわるものです。
中でも、「ブミプトラ個人および機関による株式所有比率を2020年の18.4%から2035年に30%に引き上げる」という目標は重要です。これは、1971年の新経済政策から掲げられてきたブミプトラの株式所有比率を30%にまで引き上げる、という目標を引き継ぐものです。このブミプトラの株式所有比率30%の目標については、2006年にマハティールに近いシンクタンクが「既に30%目標は達成されている」という試算を発表して物議を醸しました。というのも、もしこれが達成されていれば、ブミプトラ優遇政策を続ける根拠のひとつが失われてしまうためです。
このブミプトラの株式所有比率には「個人といくつかのブミプトラ委任機関による保有が含まれる」とありますが、具体的にどのような機関による保有が含まれるかは明記されていません。おそらく、PNBや巡礼基金は含まれるが、カザナ・ナショナルやEPFは含まれない、というようなことだと筆者は推測します。つまり、政府の株式保有はブミプトラによる株式保有とイコールではない、というのが、いまだに30%目標が達成されていないとされる大きな理由であると考えます。
PuTERA2035の中では、この目標を達成するための具体策として、イスラム信託基金の強化やブミプトラ企業の業績を向上させるためのファンドの設立、上場企業の民族別株式保有比率の公開義務づけ、ブミプトラ企業の上場の促進などがあげられています。
こうしてみると、PuTERA2035は民族間の分配問題に最も関係している、ブミプトラの株式所有比率を30%に高めるという目標についても、具体的な政策はブミプトラ企業の支援が中心で、民族間の再分配的な政策ではないことが分かります。つまり、PuTERA2035をブミプトラ政策の強化としてことさらに警戒する必要はないと筆者は考えます。
熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp |