第510回:マレーシアの2024年第3四半期のGDP成長率は5.3%、通年での5%台の成長がほぼ確実に
11月15日、バンク・ネガラはマレーシアの2024年第3四半期のGDP成長率を前年同期比5.3%増と発表しました。これで第1四半期からの推移は4.2%、5.9%、5.3%で、第3四半期までの合計で前年同期比5.2%増となっています。第4四半期のGDPが前年同期比4.3%増を下回らなければ、通年では5%成長が達成されます。
月別のGDP成長率を見ると、7月が7.4%増、8月が4.7%増、9月が4.0%と減速してきており、やや心配です。ただ、11月19日に発表されたマレーシアの10月の輸出額は前年同月比1.6%増で、不調だった9月の0.3%減からやや持ち直しています。目立つのは米国向け輸出で、10月は32.4%増でシンガポールを上回って国別で首位に立っています。輸出の中心である電子・電機産業の輸出も9月の1.2%減から10月は7.6%と回復しており、ずるずると悪くなるようには見えません。今後は、トランプ関税を見越した輸出の前倒しも考えられます。
産業別に見るとサービス業は第2四半期の5.9%増から5.2%増へと減速する一方、製造業は4.7%増から5.6%増に上向いています。目立つのは建設業で、第2四半期の17.3%増に続いて第3四半期も19.9%増と好調が続いています。
支出項目別では民間消費が第2四半期の6.0%増から4.8%増に減速する一方で、粗固定資本形成が11.5%増から15.3%増に加速しています。
これまで、マレーシア経済は長く民間消費が牽引する構造が続いていましたが、ここにきて、民間投資や建設部門が経済を牽引するという、1990年代を彷彿させる状態になっています。
図はマレーシアの四半期GDP、民間消費および民間投資の推移を示したものです。民間消費・民間投資は2019年第1四半期を100とした場合の水準を示しています。民間消費(青線)については、2020年第2四半期を底に順調に回復し、2023年の段階でコロナ禍前を上回っていることが分かります。一方で、民間投資(橙線)については2021年第4四半期を底としながらも回復が鈍く、ようやく2024年になってコロナ禍前に並んだところです。
トランプ政権下で2025年は輸出の先行きが怪しくなる可能性があり、マレーシアの景気が好調に推移するためには、これまで経済を引っ張ってきた民間消費に加えて、民間投資の好調さが続くことが重要になってきます。
熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp |