【総点検・マレーシア経済】第513回 マレーシアの「トランプ関税」を見据えた駆け込み輸出の状況

第513回 マレーシアの「トランプ関税」を見据えた駆け込み輸出の状況

2024年11月のマレーシアの輸出は前年同月比3.7%増となりました。10月に0.4%減となってから2カ月連続で増加し、持ち直しているように見えます。しかし、実際には米国向けの輸出が異常に伸びていることが大きく影響しており、輸出全体は低調だと言えます。

 

図はマレーシアの2024年の月別の輸出額を全輸出(青線)と米国向けを除いた輸出(橙線)で示したものです。全輸出では10月以降、マレーシアの輸出は持ち直しているように見えますが、米国向けを除いた輸出を見ると、9月以降マイナス幅を徐々に拡大しており、全く異なる傾向が見られます。

米国向けの輸出が大幅に伸びているのは全世界に対して米国が一律に10%〜20%の関税を課すといういわゆる「トランプ関税」のリスクに対し、各企業が輸出の前倒しで対応しているためであると考えられます。その結果、マレーシアの対米輸出は10月は前年同月比32.5%増、11月は57.3%増と異常な伸びを示しています。

表はマレーシアの2024年11月の対米輸出上位10品目の前年同月比での変化を見たものです。輸出額1,2位の集積回路と記録メディアがそれぞれ153.5%増、458.4%増とすさまじい伸びを示していることが分かります。ちなみに上位10品目で唯一減少となっている「半導体デバイス」をより詳しく見ると、大幅に減少しているのは「太陽光発電モジュール」であることが分かります。これは、米商務省がマレーシア、ベトナム、タイ、カンボジアの4カ国の主に中国企業に対してアンチダンピング関税を10月1日から課している影響であると思われます。

以上のように、マレーシアの現在の輸出は米国向けの駆け込み輸出によって支えられており、これは2024年のGDP成長率を押し上げると同時に、2025年のいずれかの時期で反動が生じ、経済成長率を押し下げる要因になると考えられます。

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp