第514回 2024年のマレーシアの貿易はどう変化したか:輸出編

マレーシアの2024年の輸出は前年比5.7%増の1兆5077億リンギとなり、前年の8.0%減からやや持ち直しました。ただ、これには「トランプ関税」に備えた第4四半期の駆け込み輸出が含まれており、今後どうなるかは予断を許しません。連載の今回と次回では、マレーシアの2024年の米中向けの貿易がどのように変化したのかを品目別に分析していきます。

表1,表2はそれぞれ2024年のマレーシアの対米国、対中国の輸出額を上位10品目を前年との比較でみたものです。2024年のマレーシアの対米輸出は前年比23.2%増加し、国別ではシンガポールに次いで2位となり、3位の中国を上回りました。アメリカ向け輸出が通年で中国を上回ったのは2008年以来16年ぶりとなります。

品目別にみると、全般的に大きく増加していますが、記憶装置・記憶媒体の輸出が2.8倍に増えているのが目立ちます。一方で、上位10品目で唯一減少しているのが半導体デバイスで22%減となっています。内訳を詳しく見ると、太陽光パネルモジュールが33.1%と大幅減、一方で未組み立ての太陽光発電セルが58.4%増となっています。ここからは、米国の太陽光パネルに対する制裁を回避するため、マレーシアから完成品ではなく部品を米国に送っていることが読み取れます。

一方、中国向けの輸出は前年比2.2%減となりました。対中輸出は大幅に落ち込んでいるわけではありませんが、減少が目立つのは輸出額1位の集積回路で、前年比15.6%減となっています。内訳を詳しく見ると、集積回路の完成品の輸出額は前年並みなのに対し、半導体の部品は前年比57.2%減と大幅に減少しています。これは、米中対立で中国産の半導体を米国に輸出することが困難になっていることで、その生産に用いる部材のマレーシアからの輸出が大幅に落ち込んでいると推測できます。

このようにみてくると、2024年のマレーシアの米中向け輸出の変化は、米中対立と米国の通商政策に敏感に反応してたものといえます。2025年はトランプ政権下でどのような通商政策が打ち出されるか不透明で、マレーシアの米中向けの輸出もそれに対応して大きく変化する可能性があります。

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp