第515回 2024年のマレーシアの貿易はどう変化したか:輸入編
マレーシアの2024年の輸入は前年比13.2%増の1兆3708億リンギとなり、前年の6.4%減から増加に転じました。今回は、マレーシアの2024年の米中向けの輸入がどのように変化したのかを品目別に分析していきます。
表1,表2はそれぞれ2024年のマレーシアの対米国、対中国の輸入額を上位10品目を前年との比較でみたものです。2024年のマレーシアの対米輸入額は前年比42.1%と大幅増加し、国別では中国、シンガポールに続く3位となりました。
品目別に見ると、2位の「コンピュータ・同部品」が約11倍、3位の「半導体製造装置」が2.7倍になっていることが分かります。コンピュータ・同部品についてより詳しい品目を確認すると、CPU/GPUを含む項目が約2倍に増加しており、さらにサーバー本体が12.5倍、ネットワークやインターフェイス関連のボードが57倍と大幅に増加していることが分かります。これは、マレーシアにおける昨今のデータセンター建設ラッシュが影響しているものと考えられます。
4位の「ターボジェットエンジン」が約4倍になっていますが、これは航空機用のエンジンで、ボーイング社がクダ州に東南アジアで初となる100%子会社である生産拠点を開設したことなどが影響していると考えられます。
一方で、2024年のマレーシアの対中輸入額は前年比14.8%と拡大し、2位のシンガポールの1.8倍という圧倒的な差で国別輸入先の1位となっています。1位の集積回路をはじめ、幅広い電子・電機製品・部品が上位を占め、その多くについて輸入額が増加しています。例外的に減少しているのが9位の「半導体デバイス」ですが、さらに品目を細かく見ていくと興味深いことが分かります。
マレーシアが中国から輸入している「半導体デバイス」の中で、輸入が半減しているのは太陽光発電モジュールと半導体部品です。前者は米国からの制裁で、マレーシアが太陽光パネルの迂回生産拠点として機能しにくくなっていることを反映していると考えられ、後者は米国向けの輸出が多い半導体のサプライチェーンから中国が排除されつつあることを想起させます。一方で、同じカテゴリーでも輸入が急増しているのがLED、センサー、電子部品で、米国からの制裁を受けない品目については中国製の部品が多く調達されていることが分かります。
以上のように2024年のマレーシアの米中両国からの輸入については、やはり米中対立や米国の貿易政策の影響を強く受けていることが分かります。
熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp |