【従業員の勤労意欲を高めるために】第894回:やりがい搾取(9)搾取はどこまで許されるのか?

第894回:やりがい搾取(9)搾取はどこまで許されるのか?

前回は、職種別の搾取の実態に関する研究が乏しいことや、女性や地位の低い若者がやりがい搾取のターゲットになり易いことを述べました。

加えて、既存のやりがい搾取研究においては、「どの程度の不均衡が許容されるのか」について、経営者の視点からの分析が不足しています。もしも不均衡が常に従業員の否定的な経済行動や精神的・身体的障害につながるのであれば、長期的で合理的な視点を持つ経営者は搾取を避けたいと思うでしょう。しかし、長年にわたり、経営者が内発的動機づけ理論やリーダーシップ理論などを参考に従業員から報酬を超えた努力を引き出すための努力をしてきたことも事実です。このことは、少なくとも経営者の短期的な視点からは、搾取に一定のメリットがあることを意味します。もしもやりがい搾取と努力・報酬の不均衡(ERI)が誰の目からも明らかに有害であるならば、経営者はとっくの昔にそれを放棄していたでしょう。

一見すると「許容できる不均衡を見つけるための研究」という考えは傲慢に聞こえます。しかし、不均衡を許容する経営者であると世間から見られたくないために内発的動機づけや変革的リーダーシップなどの美しい言葉に頼る経営者は、劣悪な労働条件を隠すために人材採用の現場で「ウチの仕事はチャレンジングですよ」などと言い真実を隠蔽する行為に近いといえます。どの程度の不均衡が有害であるかが明らかになれば、組織やそのメンバーの凋落につながる不合理な搾取がより目立つため、労働者にとっても有益なものとなる可能性があります。

しかし、やりがい搾取やERIに対する耐性を明らかにする研究がランダム化比較試験などを採用すると、参加者が一定期間搾取の対象となるため、倫理的な問題が生じるリスクがあります。したがって、失業や心身の不調などの経済行動を経験した参加者に、その経験の原因を問うケースコントロール研究や、標準化された質問紙を用いた横断研究を行うことが望ましいでしょう。さらに、このような研究を進めるためには、労働者の視点を持つ社会学、倫理学、公衆衛生学の研究者や、経営者の視点を持つ経営学や経済学の研究者が、やりがい搾取やERIの研究にもっと関与し、同じテーブルで議論することが望ましいでしょう。

 

Kokubun, K. (2024). Effort–Reward Imbalance and Passion Exploitation: A Narrative Review and a New Perspective. World, 5(4), 1235-1247. https://doi.org/10.3390/world5040063

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、東北大学客員准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、産業創出学の構築に向けた研究に従事している。
この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

日系キントーン、サラワクデジタル経済公社とセミナー

【クチン】 サラワク州デジタル経済公社(SEDC)は18日、日系キントーン・サウスイースト・アジアと共同でキントーンのサービスを紹介するセミナーを開催した。中小企業のデジタル転換を共同で後押しする。

両者の共同声明によると、社会はますますデジタル化しており、こうした環境の下、企業が競争力を維持するのを支える。特にサラワク州はデジタル基盤の構築に意欲的なため、注目を集めている。入手、応用が容易なソリューションに対する地場企業からの需要の高まりに対応し、SDECとキントーンはデジタル転換で協力する。

キントーンはサイボウズが提供している業務アプリクラウドサービスで、プログラミングの知識がなくてもノーコードで、業務のシステム化などを実現するアプリがつくれる。

キントーン・サウスイースト・アジアの中澤飛翔(つばさ)代表は「ノーコードプラットフォームは複雑な作業の流れを簡素化するよう設計されている。中小企業はわずかな費用で、自社ニーズを満たすアプリを構築できる」と述べた。
(サラワク・トリビューン電子版、テックノード・グローバル、2月19日)

米国による最先端チップ輸出規制、データセンター開発の障害に

【クアラルンプール】 米国による人工知能(AI)チップの輸出規制はマレーシアのデータセンター開発を困難にするが、データセンターのエコシステム全体の育成を損なうことはないと政府は見ている。下院審議でリュー・チントン投資貿易産業副大臣が答弁した。

AIチップは、機械学習やデータ分析などのAIタスクを処理するために設計された半導体チップ。マレーシアはシンガポール、インドネシア、ベトナムなどと共に米国からティア2カテゴリーに指定された。ティア2国には先端半導体の輸出に数量制限がかけられるため、マレーシアがこの先2年間で米国から輸入できるGPU(画像処理プロセッサー)は5万個に制限される。

しかし米国の規制は、トランザクション、電子商取引、データストレージなどのサービスを提供するデータセンターの業務に影響することはないという。こうしたデータセンターではAIチップや先端AI技術を利用しないからだ。
(エッジ、ビジネス・トゥデー、フリー・マレーシア・トゥデー、2月19日)

INPEX、東サバ沖の探鉱2鉱区でペトロナスと生産分与契約

【クアラルンプール=アジアインフォネット】 石油ガス開発を手掛けるINPEX(本社・東京都港区)は18日、東サバ沖の探鉱鉱区2鉱区について、国営石油会社ペトロリアム・ナショナル(ペトロナス)と生産分与契約(PSC)を交わしたと発表した。

PSCは子会社のINPEXマレーシアE&P SB306Aと、ペトロナス子会社のペトロナス・チャリガリ、サバ州営企業のSMJエナジーとの間で交わされた。ペトロナスが2024年に実施した入札ラウンドを経て、落札していた。2鉱区は、同州タワウの東沖に位置するSB306A(4,514平方キロメートル、水深0―400メートル)とSB306B(4,395平方キロメートル、水深0―1,400メートル)。

INPEXは今月13日、天然ガス・LNG事業の拡大などを今後10年間の成長軸とする「INPEXビジョン2035」を発表。マレーシアでは2022年と23年にサラワク沖の計4鉱区も取得しており、ビジョンに基づいて今後も積極的に強化に取り組むとしている。

経済は堅調を維持、4.5-5.5%の成長を期待=第2財務相

【クアラルンプール】 アミル・ハムザ第2財務相は19日、国王演説をめぐる下院審議を総括し、経済成長の勢いは今年も続くとの見通しを表明した。

昨年の国内総生産(GDP)増加率は5.1%で、予算策定時の想定(4-5%)を超えた。特に高成長だったのは第2四半期で、5.9%を記録した。これを踏まえアミル・ハムザ氏は「経済の基礎は強靭だ。対外環境は厳しいが、国内経済の見通しは明るく、4.5-5.5%の成長が期待できる」と述べた。

アミル・ハムザ氏はさらに、経済成長は単なる数字ではなく、賃金上昇、雇用の改善、社会保障の充実など直接国民を潤す結果になっていると強調した。

世界的な貿易環境の不透明性についてアミル・ハムザ氏は、マレーシアは貿易先、投資市場の多様化に取り組んでおり、外国からの直接投資は勢いを増していると述べた。
(ニュー・ストレーツ・タイムズ、2月20日)