【イスラム金融の基礎知識】第566回 フィリピン、タカフル保険を開業へ

第566回 フィリピン、タカフル保険を開業へ

Q: フィリピンではタカフル保険業者が開業するようですが?

A: イスラム金融市場の拡充に力を入れているフィリピンであるが、中央銀行等が発表したところによれば、早ければ4月からタカフル保険会社が開業をすることになった。これは同国では初の事例となる。

タカフル保険商品を提供する保険会社は、イギリスのプルーデンシャル・グループ傘下のプルライフUK社である。同社は、昨年11月に中央銀行から同国で初の保険会社のライセンスを取得した。それ以来開業に向けての準備を進めており、専用のウェブサイトの開設をはじめ、アル・アマナ・イスラム投資銀行と業務協定を結んだほか、さらにはミンダナオ島ダバオ市にある三つのイスラム学校(マドラサ)でイスラム金融に関する教育プログラムの提供を行い、地域コミュニティにも働きかけている。中央銀行のアリファ・アラ総裁補佐(イスラム金融担当)によれば、他にも外国金融機関がイスラム銀行とタカフル保険の両方のライセンス取得に関心を寄せているとしている。

他方、アジア開発銀行とイギリスのイスラム金融情報会社が共同でアンケート調査を行ったところ、フィリピン人の78%がイスラム金融に興味があることが明らかになった。特に貯金・ビジネスローン・医療保険・個人ローン・電子ウォレットの五つに関心が高い結果が示された。プルライフUK社は、この保険分野のニーズをうまく汲み取れかどうかが、ビジネス展開において重要になりそうだ。また同調査では、マニラ首都圏と南部地域で高い関心が示されたとしている。

別の調査機関によれば、フィリピン在住のムスリム700万人のうち、300万人が十分な金融サービスを利用できていないとしている。先発のマレーシア資本のメインバンクも、同国でのイスラム金融ビジネスを拡大すると明らかにしており、市場拡大を促しそうだ。

 

 

【総点検・マレーシア経済】第519回 マレーシアに対する米国の相互関税率は24%、しかし1年違えば…

第519回:マレーシアに対する米国の相互関税率は24%、しかし1年違えば…

 

4月7日、ザフルル投資貿易産業大臣はマレーシアが米国製品に課している関税率は平均5.6%であり、米国側が主張する47%ではないと述べました。この47%という数字は、4月2日にトランプ大統領がホワイトハウスで発表した各国に対する相互関税率の根拠とされるものです。結果として、マレーシアに対する相互関税率は米国側の「厚意」により、47%の半分である24%と設定されました(4月9日には実施が3カ月延期と発表)。

米国が示した各国の対米関税率は、実際の関税だけでなく非関税障壁や各国の経済状況を考慮したものとされています。しかし、各メディアが報じているように、実態は2024年の米国の対各国貿易赤字額を各国からの輸入額で割った単純な計算式です。一応の理論的背景はあるものの、結果ありきでこの計算方法が選ばれた印象は否めません。

米国国際貿易委員会(USITC)のデータを米国側の計算式に当てはめると、図1のようになります。2024年の米国のマレーシアからの輸入額は525.3億ドル、対マレーシア貿易赤字は248.3億ドル。後者を前者で割ると47%となり、これに半額割引を適用してマレーシアへの相互関税率24%が導き出されています。

相互関税を決める基準年が2024年だったことは、マレーシアにとって幸運でした。マレーシア側のデータによれば、2024年の対米輸出は23.2%増加したのに対し、輸入は42.1%も増加しており、対米貿易黒字(米国から見た赤字)が縮小していたからです。USITCのデータによると、2023年の米国のマレーシアからの輸入額は461.9億ドル、対マレーシア貿易赤字は268.3億ドルでした。上記と同じ計算をするとマレーシアの関税率は58%となり、50%割引適用後の相互関税率は29%になります。わずか1年の違いでマレーシアは5%ポイント低い相互関税率で済んだことになります。

ザフルル大臣は、マレーシアの米国向け輸出の60%が電子・電機製品であり、関税対象外となる半導体はその半分(対米輸出の30%)を占めると説明しました。しかし、残りの70%は相互関税の対象となるため、半導体が除外されてもマレーシアへの影響は大きいと見られています。

今後、この相互関税が実際に実施されるのか、またマレーシア側が米国に対してどのような働きかけを行うのかが注目されます。

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp

ペナン国際空港、新ターミナル建設など最大12億リンギの見通し

【クアラルンプール】 昨年から始まったペナン国際空港(PIA)の拡張工事で、新メインターミナルビル建設を含む「パッケージ3」の入札が5月に行われる見通しだ。CIMB証券が10日に報告書を発表し、契約額は最大12億リンギになるとしている。

PIAの拡張工事は3つのパッケージに分けて進められている。パッケージ3には、新ターミナルの建設、既存ターミナルの改修などが含まれる。2027年に完工予定。
管制塔建設などを含むパッケージ1は、高速道路建設などを多く手掛けるガガサン・マヤが昨年9月に1億800万リンギで受注。現在の進捗率は31%で、今年11月の完成を目指している。

誘導路や駐機場(エプロン)を含むパッケージ2は、建設会社エーカーワークスが2億5,500万リンギで受注し、今月中旬の着工を予定している。

CIMB証券によると、カタールのハマド国際空港建設で実績のある建設大手のガムダが、パッケージ3の最有力候補に挙げられており、そのほかIJMコープ、マレーシアン・リソーシーズ・コープ (MRCB)、サンウェイ ・コンストラクション・グループなども入札参加が見込まれているという。
(ニュー・ストレーツ・タイムズ、ビジネス・トゥデー、ベルナマ通信、4月10日)

大阪万博のマレーシアパビリオン、多彩なビジネスイベントを展開

【クアラルンプール=アジアインフォネット】 13日に開幕する大阪・関西万博で、マレーシアパビリオンでは期間中の26週間にわたり、マレーシア政府が厳選した企業を、日本や世界中の企業や投資家と結びつける多彩なビジネスプログラムが催される。

マレーシアパビリオンは会場東ゲート近くの大屋根リング内に立地。投資貿易産業省(MITI)、外国貿易開発公社(MATRADE)、投資開発庁(MIDA)、ハラル開発庁(HDC)、輸出入銀行(EXIMバンク)が主導するビジネスプログラム運営事務局が、セミナーや商談会などを企画している。

例えば第1週は3つが予定されており、▽15日=ビジネスマッチング商談会/飲食業界向け▽17日=マレーシアハラルセミナー▽18日=ビジネスマッチング商談会/エンジニアリング、電気・電子(E&E)、石油・ガス、サービスなど――となっている。

詳しくはビジネスプログラム公式ページ https://bsp.expo2025-malaysia.miti.gov.my/ja/

一部の企業は米国への輸出を停止、関税めぐる混乱で

【クアラルンプール】 米政府による相互関税措置を受け、マレーシアの一部の輸出業者は米国向け輸出を停止した。しかし関税の影響を受けていない産業部門もあり、これまでどおり輸出を続けている。

影響を受けているのは家具、繊維、電気・電子製品のスペアパーツ製造業者で、家具輸出業者によると、輸入側は関税が一体いくらになるかわからず、輸出業者に出荷停止を要請してきた。輸出業者にとっても、商品が米国の港湾に留め置かれ、輸入業者から代金が支払われない状況は望まないという。

半導体は相互関税の適用外で、マレーシア半導体産業協会によれば、米への輸出を停止している企業はない。米国向け電気・電子製品輸出は1,200億リンギ(昨年実績)で、うち半導体が560億リンギだった。

ゴム手袋メーカーも対米輸出は停止していない。マレーシアに対する相互関税率(24%)は競争相手の中国やほかの手袋輸出国と比べ低く、マレーシアは優位な立場にある。
(エッジ、4月10日)

タイガースポリマー、マレーシア法人の清算を決議

【クアラルンプール=アジアインフォネット】 樹脂ホース製造などを手掛けるタイガースポリマー(本社・大阪府豊中市)は10日、近畿財務局宛てに臨時報告書を提出し、マレーシアの全額出資子会社、タイガース・ポリマー(マレーシア)を清算することを9日の取締役会で決議したと明らかにした。

タイガース・ポリマー(マレーシア)はジョホール州バトゥパハに所在。出資額は2,760万リンギで、自動車部品や各種ホースの製造を手掛けている。

タイガース・ポリマーのウエブサイトによると、タイガース・ポリマー(マレーシア)では自動車用ではエアダクト、家電向けではクリーナーホースや洗濯機ホースを製造している。

清算の理由などについては、明らかにしていない。