第519回:マレーシアに対する米国の相互関税率は24%、しかし1年違えば…

 

4月7日、ザフルル投資貿易産業大臣はマレーシアが米国製品に課している関税率は平均5.6%であり、米国側が主張する47%ではないと述べました。この47%という数字は、4月2日にトランプ大統領がホワイトハウスで発表した各国に対する相互関税率の根拠とされるものです。結果として、マレーシアに対する相互関税率は米国側の「厚意」により、47%の半分である24%と設定されました(4月9日には実施が3カ月延期と発表)。

米国が示した各国の対米関税率は、実際の関税だけでなく非関税障壁や各国の経済状況を考慮したものとされています。しかし、各メディアが報じているように、実態は2024年の米国の対各国貿易赤字額を各国からの輸入額で割った単純な計算式です。一応の理論的背景はあるものの、結果ありきでこの計算方法が選ばれた印象は否めません。

米国国際貿易委員会(USITC)のデータを米国側の計算式に当てはめると、図1のようになります。2024年の米国のマレーシアからの輸入額は525.3億ドル、対マレーシア貿易赤字は248.3億ドル。後者を前者で割ると47%となり、これに半額割引を適用してマレーシアへの相互関税率24%が導き出されています。

相互関税を決める基準年が2024年だったことは、マレーシアにとって幸運でした。マレーシア側のデータによれば、2024年の対米輸出は23.2%増加したのに対し、輸入は42.1%も増加しており、対米貿易黒字(米国から見た赤字)が縮小していたからです。USITCのデータによると、2023年の米国のマレーシアからの輸入額は461.9億ドル、対マレーシア貿易赤字は268.3億ドルでした。上記と同じ計算をするとマレーシアの関税率は58%となり、50%割引適用後の相互関税率は29%になります。わずか1年の違いでマレーシアは5%ポイント低い相互関税率で済んだことになります。

ザフルル大臣は、マレーシアの米国向け輸出の60%が電子・電機製品であり、関税対象外となる半導体はその半分(対米輸出の30%)を占めると説明しました。しかし、残りの70%は相互関税の対象となるため、半導体が除外されてもマレーシアへの影響は大きいと見られています。

今後、この相互関税が実際に実施されるのか、またマレーシア側が米国に対してどのような働きかけを行うのかが注目されます。

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp