【クアラルンプール=マレーシアBIZナビ】 第10代総理大臣に先の総選挙で最大の政党連合となった希望同盟(PH)のアンワル・イブラヒム会長(元副首相、人民正義党=PKR党首)が選出され、24日、王宮で就任宣誓を行った。
PHを含めた連立政権には第三の政党連合、国民戦線(BN)のほか、第四の政党連合、サラワク政党連合(GPS)やサバ国民連合(GRS)、そして最後までPH主導の連立政権への参加に抵抗していた第二勢力の国民同盟(PN)も合流する意向を示しており、最終的にこれらを糾合した大連立政権を樹立することになる見通しだ。大連立の大所帯を運営するにあたって、アンワル新首相は閣僚ポストを各勢力にどのように配分するか早速手腕が試されることとなる。
19日に行われた総選挙では下院(定数222)でPHが82議席、PNが73議席を獲得したが、いずれも過半数に届かなかった。このため両勢力は過半数掌握に向け、30議席を獲得したBNやサバ・サラワク州の地方政党と水面下での連立交渉を進めていたが、カギを握るBNがいずれの勢力とも連携しないと宣言したため両勢力共に決め手を欠き膠着状態に陥っていた。
打開に向けて仲介に乗り出したアブドラ国王が、各勢力の代表と面会して大連立を持ち掛けたことで事態が動き、方針を巡って内部対立が起きていたBNがPH支持に方向転換したことで過半数獲得のメドがたった。
アンワル氏は1947年8月10日生まれの75歳。イスラム青年組織のリーダーを経て1981年にBNを率いる統一マレー国民組織(UMNO)に入党。すぐに頭角を現して、当時のマハティール・モハマド内閣で文化青年スポーツ相、農業相、教育相などを歴任し、1991年に財務相、1993年には副首相に就任した。しかし1997年に打ち出した縁故主義打破などを謳った改革がマハティール首相の逆鱗に触れ、1998年9月に解任され、同性愛容疑で逮捕・投獄されるという政治的弾圧を受けた。
アンワル氏不在の間は、妻のワン・アジザ氏ら支持者が人民正義党(KEADILAN、後のPKR)を結成。華人系野党・民主行動党(DAP)などと野党連合PHを結成し勢力を拡大し、さらには打倒BNを掲げて仇敵のマハティール氏とも和解を実現し、2018年の総選挙ではついに政権奪取に成功した。アンワル氏はこれに合わせて国王から恩赦を受けて出獄し、PKR党首となってPH政権を支えた。
PH政権で首相となったマハティール氏とは総選挙前に1年後に政権を譲るとの密約があったが、マハティール氏が約束を先延ばししたことで両者の溝が深まり、マハティール氏支持者らがアンワル氏とDAPの排除を目指して野党となったUMNOや汎マレーシア・イスラム党(PAS)を取り込んで政変を起こし(2020年のシェラトン・ムーブ)、アンワル氏は首相になれないまま再び野党の身となっていた。