世界的に定評のあるマレーシアのハラル(イスラムの戒律に則った)認証制度にいち早く着目してハラル物流認証を獲得したマレーシア日本通運。マレー系社員の多い日系物流会社の社長として陣頭指揮をふるう早瀬彰哉さんに海外ビジネスのコツを伺った。
目次
ハラル認証、マレー社員の満足度に寄与
——これまでの海外赴任のご経験について。
早瀬:マレーシアに来てから3年になります。マレーシアに来る前は大阪にいました。海外ではドイツ、シンガポール、香港に赴任したことがあり、マレーシアは4カ国目です。マレーシアはトップとしての赴任なので、これまでと違った仕事の上でのやりがいを感じます。
——マレーシアが他の赴任地と違う点はハラル物流を真っ先に開始した点ですね。
早瀬:当社は2014年にハラル物流の認証をとったのですが、外資企業では当社が初めてでした。ハラル戒律を守る高付加価値な物流を実現し、顧客に安心、安全な物流を提供するという目的です。またハラル物流を通じて世界とイスラム社会とつなげていく思いで取り組んでいます。一方この取り組みにより、マレー系社員の満足度を上げる事に大きく役立っています。
当社は物流ということでマレー系従業員の割合が多いので、ハラル認証をとることでムスリム文化を大切にしている会社だという事が強調されることになっています。
——御社は日本でもハラル認証をとっていますね。
早瀬:日本通運はグローバルでハラル物流に力を入れています。日本でも東京や大阪、福岡の倉庫でハラル認証をとっているのですが、その際にはマレーシアの社員が日本に行って指導しています。今日本で流れている全国CMにハラル物流に関するものがあります。その中にプトラジャヤのピンクモスクの前をハラルトラックが通るというシーンがあるのですが、わざわざ日本から広告代理店を呼んで撮影しました。
「相手を理解する」がキーワード
——仕事で特に意識しておられることは?
早瀬:まず、社員の幸せということを考えています。社員が楽しく働ける会社にしたいです。それから長期的に会社の経営を考えようと思っています。どうしても我々の立場だと3、4年で交代することになりますが、会社が10年先、20年先、50年先も存続するために中長期の視野に立った経営に心がけています。その考えを社員に発信する、姿勢を見せる様にしています。目先の業績も大事ですが、長期的に会社を大きくしようという意識を持ち、次の社長の時にも継続していくことが大切だと考えています。
——マレーシア人従業員とうまく付き合うコツを教えて下さい。
早瀬:マレーシア人は基本的に日本を好きなので働きやすいです。そこで我々の方もそれに甘えることなく少しでいいから彼らのことを勉強する。マレー語で挨拶できるようにするとか、ナシレマを食べるとか(笑)簡単なことでいいと思います。赴任してすぐに部屋で隠れてナシレマを食べていたんですが。いつの間にか社長がナシレマ食べているって社内中に広がりました(笑)おかげで色々な従業員がここのナシレマがおいしいと言ってよく買ってもらいました。
また会社のパーティとか社員旅行に行った際カラオケを勧めらると、なるべくマレー語とか中国語の歌をカラオケで歌います。日本の歌でも喜ぶのですがマレー語だとその3倍は喜んでもらえます。私はシティー・ヌールハリザの曲が好きで何曲か歌ってみました。マレーシアのことに興味がある姿勢、相手の文化を理解するとか尊重することで従業員との距離がぐっと近くなります。
——マレーシア人社員の特徴は?
早瀬:当社の社員だけかも知れないですが、けっこう会社のことが好きなように見えるんです。日本ではあまり社員旅行とかやらないですが、マレーシアでは社員旅行の参加率は90%以上です。1泊して次の日は運動会みたいなものをやるんですが、それもほとんど参加します。私が入社したころのような、昭和の日本の社員のようです。夜のダンスタイムになっても一番最後までマレー人の女性が残って踊っていたりしますね。普段はイスラム教の戒律もあり、旅行を本当に楽しみにしている様にみえます。
——華人とマレー系の違いは?
早瀬:チャイニーズは能力に対してこだわりがあって、昇給にあたっては「自分はこれだけやっているのに、なぜあいつより」といったように、能力とか他人よりどれだけ働いたかという点を主張してきますが、マレー系は「子供ができたから」とか「子供を大学に行かせるため教育費がかかる」といったように自分の仕事ではなく泣き落とし的な話が多いです(笑)。
それぞれの民族の考え方を理解した上でいかにうまく働いてもらうかのマネージメントが重要だと思います。単に我々のスタンダートを押し付けるだけではうまくいきません。「日本の企業は優れているから言う通りにやりなさい」と頭ごなしに言ってもうまくいかない。相手を理解するというのがキーワードになると思います。
チャイニーズの考え方はグローバルスタンダードに近く、また企業経営には必要な人材でもありますが、仕事を外れて個人の生活、人生で考えると、マレー人と比べてどちらが幸せなのかと、最近になって考える様にもなりました。日本もある意味で多様化が進んでいますのでマレーシアでの管理や経営を経験することはマレーシア以外でも役に立つと思います。
昔の日本人の苦労に触れる
——ところで余暇では旅行されるのがお好きとも伺っていますが・・・
早瀬:仕事柄いろんな所に行く機会もあり、マレーシアには13の州がありますが、サバ州以外の州はすべて行きました。首都圏クランバレー周辺はあまり違いがないですが、コタバルとかトレンガヌは全く違う世界があります。観光地ではなく歴史がある場所によく行きますね。ペナンとかマラッカも好きですが、個人的に田舎の街を歩くのが好きです。
またマレーシアには昔から日本人がきていました。会社や商店経営もありましたが、ゴム農園、錫採掘で働いたり、からゆきさんとか マレーシアで働いていた日本人は多かった様です。そうした日本人が建設した鉄道の跡とか当時の日本人会や戦前に進出していた会社の古い建物などを見に行くのが好きです。
現在我々日系企業の駐在員としてマレーシアで恵まれた環境の中で働いていますが、明治時代以降に色々な目的でマレーシアに住んでいた先人の大変な苦労があって今の我々があるんだと感じます。