第511回 データセンター市場で飛躍するマレーシア
12月6日付けのThe Edge Web版に「躍進を続けるマレーシアのデータセンターハブ(The rise and rise of the Malaysian data centre hub)」と題した記事が掲載されました。2018年から23年にかけて年率70%で成長するASEAN5カ国(マレーシア、インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナム)のデータセンター市場の中でも、マレーシアはその成長を主導しているとのことです。
マレーシアには過去2年間で990億リンギット(217億米ドル)のデータセンター投資が発表され、さらに1,490億リンギットの投資が計画されていること、アマゾンは2038年までに292億リンギの投資を表明し、GoogleとMicrosoftもそれぞれ20億ドル以上の投資を計画しているとThe Edgeは伝えています。
マレーシアがデータセンターのハブとして選択される最大の理由は、運用コストの安さです。図はシンガポールを100とした場合のASEAN各都市の電気料金、水道料金、工業団地賃料、中堅エンジニアの賃金を示したものです。各都市には一長一短がありますが、クアラルンプールは総合的にコストが安く、特にデータセンターの運用コストの30〜40%を占めると言われる電力料金の安さが目立ちます。
旺盛なデータセンターの建設需要に対し、ジョホール州は今年1月~5月に申請された14件の建設申請のうち4件を電力・水の節減策が不十分として却下したと伝えられています。マレーシアのデータセンター建設はより良いものを選別するフェイズに入っています。
さて、マレーシアのデータセンター誘致を仕切っているのはマレーシア・デジタルエコノミー公社(Malaysia Digital Economy Corp.: MEDC)ですが、この組織は以前はマルチメディア開発公社(Multimedia Development Corp.: MDC)と呼ばれていました。1996年に開始されたマルチメディア・スーパー・コリドー(MSC)計画を統括していたためです。プトラジャヤに隣接するサイバージャヤもこの時に情報産業の中核都市となるべく建設が開始されました。その後、MSCは必ずしも最先端のIT企業を誘致することはできていませんでしたが、ここにきて地域のデータセンターハブというかたちでその努力は花開くことになりました。
もう一つ、アジア通貨危機で半島部の光ファイバーを持つTime dotCom社が破たんしたとき、SingTelによる資本参加をマハティールが認めず、結局、政府系のカザナ・ナショナルが買い取ったという経緯があります。光ファイバーを自国資本で確保したこの時の判断は、今となっては間違いではなかったと言えるかもしれません。
熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp |