ジェトロ、脱炭素分野でマレーシアへの投資増加を予想

【クアラルンプール】 日本貿易振興機構(ジェトロ)は、脱炭素分野を中心に今年の日本からマレーシアへの投資がさらに増加すると見込んでいる。ジェトロ・クアラルンプール事務所の高野光一所長が国営「ベルナマ通信」のインタビューで見解を述べた。

高野所長は、ジェトロとマレーシア日本人商工会議所(JACTIM)が共同で実施した2025年度の日系企業アンケート調査結果に基づいて説明。2024年下期の業況判断DIはマイナス11.5と、前年下期のマイナス22.1から改善し、さらに2025年にはマイナス4.5ポイントへの改善が予想されるとした。

また、今年はマレーシアで、東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議に続き、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)首脳会合も開催され、脱炭素化分野に関して注目が高まると指摘。再生可能エネルギーや、二酸化炭素回収・貯留(CCS)、水素などのプロジェクトが一層活発化する可能性を示した。そのほか、石油・ガス、半導体、バイオテクノロジー、ヘルスケア分野などへの投資の増加が見込まれるとした。

米国による関税措置による世界経済の不確実性にも触れ、ASEAN内で議論に向け、マレーシア政府のリーダーシップに期待。日系企業アンケートから「環境・社会・ガバナンス(ESG)関連投資の明確化、税制優遇措置の拡充、規制変更時の徹底した事前通知に対する強い要望がある」と付け加えた。
(ベルナマ通信、5月5日)

ペトロナスはサラワク州法違反、両者の関係が悪化

【クアラルンプール】 サラワク州政府は国営石油会社ペトロナスの上流部門、ペトロナス・チャリガリがガス配送に関する州法に違反しているとして、4月30日付で警告文書を出した。州法では天然ガスの配送に関し、ガスパイプラインなどガスの配送のための装置、機器の建設、管理、維持について規定している。

州法違反とされたのはペトロナス・チャリガリがミリで運営するプラントで、同社は許可なくプラントを操業していると州は主張。同日から21日以内に操業を停止しない場合、罰金を科すとした。これに対しペトロナスは、チャリガリは連邦法の石油開発法に基づきプラントを運営していると反論。「ペトロナスは国益を守る義務がある」とした。

サラワク州にある石油・ガス資源をめぐっては、州は所有権を主張する姿勢を強めており、最近も州営石油会社のペトロスが天然ガス供給をめぐりペトロナスに支払いを求める訴訟を起こしている。

今回の紛争についてロンドン訪問中のアバン・ジョハリ州首相はアンワル・イブラヒム首相から連絡を受けた。アバン・ジョハリ氏は「石油・ガス収入は公正に分配されるべき」との立場だ。アンワル氏はアバン・ジョハリ氏の帰国を待って政治決着を目指す。
(エッジ、マレーシアン・リザーブ、5月2日、バイブズ・ドットコム、5月4日)

マレーシアのハラル製品輸出額、昨年は15%増の618億リンギ

【クアラルンプール】 マレーシアのハラル(イスラムの戒律に則った)製品輸出額は2024年に617億9,000万リンギに達し、前年の537億2,000万リンギから15%増加した。「第21回マレーシア国際ハラルショーケース(MIHAS)2025」の発表式典でザフルル・アジズ投資貿易産業相が明らかにした。

ザフルル氏は、マレーシアが世界イスラム経済指標ランキングでサウジアラビア、インドネシア、アラブ首長国連邦を抑え、10年連続でトップの座を維持していると指摘。「マレーシアの強みはイスラム金融、ハラル食品、メディアと娯楽にある。ハラル産業はマレーシアの国内総生産(GDP)への貢献度が大きく、2030年までにGDPの10.8%、額にして2,310億リンギに達すると予測されている」と述べた。
またザフルル氏は、ハラル製品の世界需要が現在3兆米ドルを超え、2030年までに5兆米ドルに増加すると予想されているとして、世界的に魅力的な産業となっていることを強調した。

「MIHAS2025」は9月17―20日の日程でマレーシア国際貿易展示センター(MITEC)で開催される予定。前回は2,100のブースが開設され、成約額は43億リンギに上った。
(ザ・スター電子版、エッジ、ベルナマ通信、5月1日)

KL―バンコク間の直通列車が年内復活へ=運輸相

【バンコク】 アンソニー・ローク運輸相は、クアラルンプール(KL)・バンコク間の直通列車サービスを今年中に復活させる意向を示した

2日にタイを訪問したローク運輸相は、バンコク、パダン・ベサル、バターワース、クアラルンプールを結ぶ既存の鉄道路線を利用するため迅速に開始できると指摘。マレーシア国鉄(KTMB)とタイ国鉄(SRT)に対して向こう3カ月間の準備期間を与えたと述べ、「新たな線路の建設は不要だが、両国間の調整、共同マーケティング、乗車券発行システムの共有化が必要になる」とした。

ローク氏は、タイのスリヤ・ジュンルンルアンキット副首相兼運輸相と会談。またバンスー中央ターミナルを視察し、タイの高速鉄道サービスに関する説明を受けた。

タイ当局からはタイのスンガイコロクとマレーシアのランタウ・パンジャン及びパシル・マスを結ぶ鉄道サービスの復活が提案され、ローク氏は歓迎の意を示した上で、線路が長らく使われていなかったため復旧工事が必要だとし、復活には一定の時間が必要との考えを示した。
(ビジネス・トゥデー、エッジ、5月3日)

世界報道自由度ランキング、マレーシアは88位に上昇

【クアラルンプール=アジアインフォネット】 5月3日の世界報道自由デーに合わせて「国境なき記者団(RSF)」が発表した2025年度版の「世界報道自由度インデックス」で、マレーシアは前年(107位)から19ランク上昇し、世界180カ国・地域中88位となった。

同ランキングは、▽政治▽経済▽法律▽社会▽安全ーーの5指標に基づいて報道の自由度をランキング化したもの。マレーシアは「安全」は67位から90位に下がったものの、「政治」は106位から92位、「経済」が82位から60位、「法律」は156位から133位、「社会」が119位から81位にそれぞれ改善した。

昨年の34ランクの大幅ダウンから一転し大幅アップとなった。最新のマレーシアのスコアは56.09で、前年の52.07から改善した。

RSFはマレーシアについて、「政治」と「法律」のスコアが引き続き低いレベルにとどまっていると指摘。当局が調査報道記者を付け狙っていたり、王室問題が人種や宗教に関する議論と同様に極めてデリケートな問題となっているとし、「王室を批判しているとみなされるいかなる論評や報道も訴追の対象となる可能性があり、この問題に関する自己検閲につながっている」と批判した。

東南アジアでトップはタイ(85位)で、ブルネイ(97位)、フィリピン(116位)、シンガポール(123位)、インドネシア(127位)、ラオス(150位)、カンボジア(161位)、ミャンマー(169位)、ベトナム(173位)となった。全体トップはノルウェーで、日本は66位だった。

【イスラム金融の基礎知識】第567回 アブドラ・バダウィ元首相死去

第567回 アブドラ・バダウィ元首相死去

Q: アブドラ元首相がハラル産業に対して果たした功績は?

A: マレーシアの報道によると、マレーシア第5代首相のアブドラ・アフマド・バダウィ氏は4月14日、クアラルンプールの病院で死去した。85歳であった。

アブドラ元首相は1939年バヤン・レパス生まれで、父はイスラム指導者兼政治家、祖父はマレーシアの独立は1957年8月31日に行うべきと提案した著名なイスラム法学者・天文家であった。1998年マハティール政権下で失脚したアンワル・イブラヒム氏の後任として副首相に任命されたのち、2003年から2009年まで5代目の首相を務めた。

アブドラ元首相の6年間の首相在任時の業績の一つは、イスラム・ハダーリー(文明的イスラム)という概念の提唱とこれに基づく社会経済の構築であった。マレー過激派と揶揄され、急進的なイスラム化政策を進めたマハティール元首相に対し、アブドラ元首相は穏健な形での推進を図った。具体的には、ハラル産業の振興を目指すハラル産業開発公社(HDC)の設立(2006年)、マレーシア国民大学でのイスラム・ハダーリー研究所の設立(2007年)などである。イスラム金融については、2006年に中央銀行主導でイスラム金融教育国際センターを設立するなど、人材育成に力を入れた。

他方、長期経済計画である第9次マレーシア計画を2006年に発表、イスカンダル・マレーシアなど五つの地域を指定して十数年にわたる地域開発を実行した。このうち、HDCが各地にハラールパークを認定し、地域振興の柱の一つにハラル産業を位置づけた。こうした取り組みが奏功し、現在マレーシアはイスラム金融を含めたハラル産業の中心となるグローバル・ハラル・ハブの地位を確立した。

アブドラ元首相の葬儀は国葬として行われ、遺体はクアラルンプールの国立モスクのマカム・パラワン(英雄廟)に埋葬された。ご冥福をお祈りいたします。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【総点検・マレーシア経済】第520回 マレーシアの2025年の経済成長率はどうなるのか

第520回:マレーシアの2025年の経済成長率はどうなるのか

4月24日、IMFは世界経済見通しの中で、マレーシアの2025年の経済成長率の予測を4.7%から4.1%に下方修正しました。4月25日、世界銀行もマレーシアの2025年の経済成長率予測を4.5%から3.9%に下方修正しています。マレーシア政府は現時点で2025年の経済成長率を4.5%〜5.5%としていますが、こうした発表を受けて、バンク・ネガラのアブドゥル・ラシード総裁は見通しを下方修正する可能性に言及しています。

これに先立つ4月18日、統計局はマレーシアの2025年第1四半期の経済成長率の事前予測値を前年同期比4.4%と発表しました。これは、前四半期の5.0%から大きく減速しています。セクター別に見ると、2024年は通年で17.5%と高い伸びを見せた建設業が前四半期の20.7%から14.5%にまで減速し、製造業は4.4%から4.2%に、サービス業は5.5%から5.2%に、鉱業は-0.9%から-4.9%にまで落ち込んでいます。

図1はマレーシアの四半期別GDPの推移を過去2年間についてみたものです。マレーシアの四半期GDPには強い季節性があり、例年、年末に向けてGDPが伸びていく傾向があります。つまり、マレーシアの経済成長率が通年で前年並みを達成するには、下半期にかけて経済が順調に拡大することが前提となります。

しかし、現在の世界情勢は先を見通せない状況です。特に、トランプ政権の関税政策が不透明で世界貿易に大きな影響を与えています。図2はマレーシアの主米国向けの輸出額の推移を月次で見たものです。昨年末からトランプ政権の関税政策を見越した前倒し輸出により、輸出が大きく伸びましたが、2025年3月は前年同期比50.8%増とそれが極限に達しています。どこかの時点で大きな反動が来ることが予想され、それに対応して製造業のGDPの伸び率が低下することが見込まれます。

原油価格の低下も懸念材料です。年初は1バレル=80ドル近辺だった原油価格(ブレント)は、直近で60ドルを割り込みました。鉱業部門のGDPが落ち込むことが懸念されると共に、ペトロナスからの分配金の減少により、政府支出にも影響がでることが考えられます。

こうした状況を踏まえると、現状ではマレーシアのGDP成長率が政府予測の4.5%〜5.5%に収まる可能性は低いと言えます。すべてはトランプ政権の関税政策次第とも言えますが、政府の経済成長率の下方修正は避けられないと筆者は考えられます。

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp

【従業員の勤労意欲を高めるために】第899回:中小企業の両利き経営(2)両利きは状況次第

第899回:中小企業の両利き経営(2)両利きは状況次第

両利きについて書いています。前回は、資源と能力が限られている中小企業は、深化か探索のいずれかに特化することで業績が向上する可能性があるという説を紹介しました。大企業と比較すると、中小企業は人的資本や財務資本などの適切な調整メカニズムやリソースを欠いていることが多いといえます。したがって、潜在的リスクを考慮すると、中小企業は漸進的イノベーションと急進的イノベーションのどちらかを選択しなければならないことが少なくありません。深化は、一般的に企業の生産性と効率性を向上させます。しかし、深化の成功は企業が管理できる能力、資産、またはリソースの利用可能性に依存するため、一つの企業が利用可能な技術力と市場力を全て用いても深化の成功には限界があります。一方、探索は、急速に変化するビジネス環境において、企業が長期的な視点で変化に適応するのに役立ちます。これは、新しい市場と技術力を継続的に発見することにつながる探索が、企業が独自の知識ベースの再編成、新製品の開発、およびニッチでの競争優位性の獲得に効果的であるためです。

他の研究者は、探索と深化という相反する要求を統合することで中小企業が両利きを実現できるという証拠を示しています。ドイツの中小企業5社を対象とした調査結果に基づく研究は、深化のための「伝統的な」両利きと、探索のための「俊敏な」両利きが実現可能であることを発見し、状況に応じた両利きを推奨しています。他の研究は、危機の際に、探索は企業のパフォーマンスを向上させるが信頼性を低下させ、深化は企業のパフォーマンスを低下させるが信頼性を高めることを示し、状況に応じて両利きを使い分ける必要があることを主張しました。

こうした両利きが状況依存的であるという主張は、皮肉にも、あらゆる企業に通用する万能な方法が存在しないという事実を証明しています。少なくとも、先行研究において両利きとパフォーマンスの関係に一貫性がないという事実は、両利きを推奨することの説得力を弱めています。現在までに蓄積された研究から、いつでもどのような状況でも両利きが最適な戦略であると主張することはもはや不可能です。

では、中小企業は両利きに取り組むべきでしょうか。もしそうであれば、何が両利きを可能にし、それに取り組むことの利点は何でしょうか。この問題は、まだ十分に議論されていません。次回、もう少し踏み込みます。

 

Kokubun, K. (2025). Digitalization, Open Innovation, Ambidexterity, and Green Innovation in Small and Medium-Sized Enterprises: A Narrative Review and New Perspectives. Preprints. https://doi.org/10.20944/preprints202504.0009.v1

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

22年の女性企業数は21.9万社で、国内経済の3.6%を生産

【クアラルンプール=アジアインフォネット】 統計局の4月30日の発表によると、2022年において女性が所有する企業は国内の総事業所数の20.1%にあたる21万9,015社で、総生産額は1,369億リンギとなり国内経済の3.6%を占めた。

「2023年経済センサス」に基づき、事業、不動産、その他の資産に対し、全額または一部を女性が所有する事業所を抽出した。前回の2015年の調査に比べ、女性企業事業所数の年間成長率は2.3%、総生産額では7.0%増となった。また、総生産額の増加に伴い、女性企業の総付加価値としては、年間6.5%の成長率で、614億リンギに達した。

部門別では93.6%がサービス部門で、総生産額の60.7%にあたる830億リンギを生み出した。製造業は女性企業数の割合では3.9%だったが、総生産額では前回から13.8%増と最も高い伸びを示した。

州別の女性企業数では、セランゴール州(15.9%)が最も多く、サバ州(10.4%)、クランタン州(8.9%)が続いた。付加価値でみると、セランゴール州が182億リンギ(29.6%)、次いでクアラルンプール市107億リンギ(17.4%)、ジョホール州74億リンギ(12.1%)となり、上位3つで全体の6割近くを占めた。

外国人納税者支部のサービスカウンター、5月2日より業務開始

【クアラルンプール】 内国歳入庁(IRB)は、外国人納税者支部(CPCA)サービスカウンターが5月2日から業務を開始すると発表した。CPCAは、クアラルンプールのジャラン・トゥアンク・アブドル・ハリムにある政府総合庁舎10号棟9階に開設される。

CPCAサービスカウンターの営業時間は、相談カウンターが月―金曜の午前8時から午後5時まで。e-予約サービスは月―金曜の午前8時から午後4時40分まで(予約枠の空き状況による)となっている。

CPCAは外国人納税者、非居住者、源泉徴収税に関する税務問題に重点的に取り組む組織として2025年1月1日に活動を開始した。IRBはサービスセンター設立がサービス効率を向上させ、外国納税者が税務関連サービスをより利用しやすくするための取り組みの一環だとした上で、外国税務問題への対応を合理化かつ専門化したアプローチにすることで、顧客満足度を大幅に向上できると述べた。
(ビジネス・トゥデー、ベルナマ通信、4月30日)