不安定なイスマイルサブリ新政権、閣僚人事が最初の関門

【クアラルンプール=マレーシアBIZナビ】 安定多数には程遠い不安定な中で船出したイスマイル・サブリ・ヤアコブ新政権にとって、いかに連立与党内を纏めあげるかが喫緊の課題。9月には国会での信任投票を控えており、今週中にも決定する閣僚人事が最初の関門となる。

イスマイル・サブリ新内閣には、第一に新型コロナウイルス「Covid-19」対策や経済復興策の実施が求められている。それを実行するための閣僚の人事を決定するにあたっては、信任投票を念頭に連立与党内の微妙なバランスへの配慮が求められる。

イスマイル・サブリ新首相が総裁補を務める統一マレー国民組織(UMNO)は37議席を保有し与党第一党となっているが、党内にはイスマイル氏に批判的な勢力も根強い。ムヒディン•ヤシン前首相の統一プリブミ党(PPBM)も31議席の勢力を背景に副首相ポストを要求しており、受け入れられなければ関係悪化は避けられない。副首相ポストについては、18議席をもつサラワク政党連合(GPS)も狙っている。

一方、野党側は与野党の協力体制を希望するアブドラ国王やイスマイル・サブリ新首相の発言を背景に、政策への積極的な提言・関与を求めていくと同時に、野党勢力の結集を図って政権奪回に向けた準備を進める構えだ。

野党連合・希望同盟(PH)は25日、連立与党に対抗するための野党大同団結に向けた会議の開催を野党各党に呼び掛ける声明を発表した。野党会議では野党大同団結の進め方のほかイスマイル・サブリ新首相に対する不信任決議などについても話し合うとみられる。

その一方でPH構成3党のトップは、イスマイル・サブリ新首相と会談。新型コロナ対策や経済復興政策に関する意見調整を行い、行政のチェック機能を高めるために議会機能を強化することで合意した。会談にはPHを率いるアンワル•イブラヒム元副首相(人民正義党=PKR党首)、民主行動党(DAP)のリム・グアンエン書記長、国民信任党(Amanah)のモハマド・サブ党首が参加した。

今週中に閣僚人事を発表、野党の入閣はない=サブリ新首相

【クアラルンプール=マレーシアBIZナビ】 就任したばかりのイスマイル・サブリ・ヤアコブ新首相は、今週中に内閣閣僚人事を発表すると言明。ただ野党を取り込んだ挙国一致内閣にはならないとの見通しを示した。
イスマイル・サブリ首相は、野党からの協力の申し出に対して感謝を示した上で、「野党と協力するというのは野党を入閣させることを意味している訳ではない」と言明。野党からの意見は新型コロナ対策特別委員会と国家復興評議会(MHN)を通じて聞くことができると述べた。
また副首相をサラワク政党連合(GPS)から選出するとの噂については、検討を行なっていることを認めた上で、巷に出回っている様々な憶測については「すべてデマであり信じないように」と強調。正式発表まで待つように呼び掛けた。GPSは下院議会で18議席をもつ有力政党であり、ムヒディン・ヤシン前首相辞任後の後任人事についてはかなり早い時期からイスマイル・サブリ氏を支持する意向を示していた。
副首相人事については、ムヒディン前首相が党首を務め31議席を保有する統一プリブミ党(PPBM)から選出するとの見方が有力だが、PPBM内ではハムザ・ザイヌディン書記長とアズミン・アリ前上級相が争っているとされる。イスマイル・サブリ氏が総裁補を務める統一マレー国民組織(UMNO)内からは副首相もUMNO内から出すべきとの声もあり、こうした声を受けてアズミン氏がPPBM内のシンパを連れてUMNOに電撃移籍するとの噂もある。

イスマイル・サブリ第9代首相が就任、与野党に協力を要請

【クアラルンプール=マレーシアBIZナビ】 イスマイル・サブリ・ヤアコブ前副首相が21日に王宮で宣誓を行ない、マレーシア第9代首相に就任した。
ムヒディン・ヤシン首相の辞任後、アブドラ国王の求めに従い下院議会(定数222)議員全員が推薦する次期首相名を提出。過半数の114人がサブリ氏を推薦。国王は最終的に114人全員と面談して意思を再確認し、サブリ氏の過半数獲得を承認した。
サブリ氏支持の内訳は、サブリ氏が総裁補を務める統一マレー国民組織(UMNO)が37人、ムヒディン氏が党首を務める統一プリブミ党(PPBM)が31人、汎マレーシア・イスラム党(PAS)が18人、サラワク政党連合(GPS)が18人——などとなっている。
過半数とはいえ安定多数には程遠く、与党第一党のUMNOでも支持は37人にとどまっており、喫緊の課題である新型コロナウイルス「Covid-19」対策や経済復興対策に向けて与党内の結束を保っていくためには難しい舵取りが求められる。
サブリ首相は22日に就任初のテレビ演説を行ない、国民を一つの「マレーの家族」と表現。国民を救うために協力するよう議員全員に呼び掛け、野党にも国家復興評議会(MHN)や新型コロナ特別対策班への参加を求めた。

サブリ前副首相が第9代首相に決定、21日に宣誓式

【クアラルンプール=マレーシアBIZナビ】 16日に辞任したムヒディン•ヤシン前首相の後任の第9代首相に、イスマイル・サブリ・ヤアコブ前副首相(統一マレー国民組織=UMNO総裁補)が就任することが決まった。

王宮事務所が20日午後、サブリ氏が下院議会(定数222)の過半数の支持を得たことをアブドラ国王が確認し、承認を与えたことを明らかにした。21日午後2時半に王宮で宣誓式がおこなわれる見通しだ。

サブリ氏は自身が所属するUMNOを含めた政党連合・国民戦線(BN)の支持をほぼ固めた上で、BNの友党で18人議席をもつサラワク政党連合(GPS)や諸派、そして50人の議員を擁する国民同盟(PN)の支持を最終的にとりつけることに成功。アブドラ国王の元には114人分のサブリ氏支持の法定宣言が提出された。アブドラ国王は19日に114人全員を王宮に呼んで、最終意思確認を行なっていた。

PN率いるムヒディン氏は、政治混乱を防ぐために敢えてUMNO所属のサブリ氏を支持することを決めたと主張しており、サブリ氏を支持する条件として、刑事告発されている人物を閣僚として登用しないことを挙げている。これは汚職で告発されているナジブ•ラザク元首相(UMNO前総裁)やアハマド・ザヒド・ハミディ元副首相(UMNO現総裁)を念頭に置いた発言であり、サブリ氏やUMNOメンバーがそのまま受け入れるかどうか不透明だ。またアブドラ国王は新型コロナによる国家の危機に際し、野党議員も入閣させて挙国一致内閣による政権運営を希望しているとされ、組閣人事が注目される。

首相指名争いに勝ったとはいえ、サブリ氏が得た支持は安定多数には程遠い。アブドラ国王は新首相に次期国会において首相信任投票を行なうことを条件を出しており、サブリ氏の人事・政権運営への不満が高まるようであれば、早々に政権が瓦解する可能性がある。

国民の間でも、新型コロナ感染対策がうまく行かなかったムヒディン政権で副首相を務めていたサブリ氏を首相に昇格させることには反発の声も少なくない。ネット上では早くも反対署名運動が行なわれており、早くも20万人分の署名が集まっているとされる。

サブリ氏は1961年生まれの61歳。マラヤ法学部出身で元弁護士。1987年に統一マレー国民組織(UMNO)入党。2004年に初当選し、その後3期連続当選している。青年スポーツ相、国内取引共同組合消費者行政相、農業農業関連産業相、地方地域開発相、国防相兼上級相を歴任し、今年7月にはムヒディン内閣で外様ながら副首相に昇格していた。

サブリ前副首相が過半数支持獲得か、国王が直接意思を確認

【クアラルンプール=マレーシアBIZナビ】 16日に辞任したムヒディン•ヤシン前首相の後任について、イスマイル・サブリ・ヤアコブ前副首相を推薦した下院議員が過半数を超える114人に達した模様だ。アブドラ国王は19日、推薦議員全員を王宮に呼んで直接意思確認をおこなった。午後7時時点で王宮から新首相に関する発表・コメントは出ていない。

サブリ氏を推薦したのは、前・連立与党の国民同盟(PN)の構成各党、及びPNと共闘する統一マレー国民組織(UMNO)など諸政党や無所属の議員。内訳は、サブリ氏が総裁補を務めるUMNOが37人、ムヒディン氏が党首を務める統一プリブミ党(PPBM)が31人、汎マレーシア・イスラム党(PAS)が18人、サラワク政党連合(GPS)が18人、マレーシア華人協会(MCA)が2人、マレーシア・インド人会議(MIC)、サバ団結党(PBRS)、サバ統一党(PBS)、サバ国土連帯党(STAR)がそれぞれ1人、無所属が4人となっている。

下院議会の定数は222人だが、うち2議席は議員死去のため空席となっており、過半数を獲得するには111人の支持が必要。国王との直接確認で変更が生じていなければサブリ氏が過半数を掌握することになる。国王は下院議員全員に対して、18日午後4時までに次期首相として推薦する人物名を書いた法定宣言を送付するよう求めていた。

野党側は希望同盟(PH)を率いるアンワル•イブラヒム人民正義党(PKR)党首(元副首相)を推すことで候補者一本化と前・連立与党側の議員の切り崩しを狙ったが、過半数には届かなかった。

次期首相、信任投票で過半数の証明が必要=国王

【クアラルンプール=マレーシアBIZナビ】 王宮は18日、アブドラ国王の名の下で布告を行い、次期首相は下院議会で過半数の支持を得ていることを証明する必要があると言明。下院議会において信任決議を実施するよう各党のトップに指示したことを明らかにした。

下院議会の定数は222人だが、議員死去にともなって現職議員は220人となっており、首相指名を受けるには111人の賛成が求められる。

アブドラ国王は新型コロナウイルス「Covid-19」感染拡大の中、解散・総選挙の実施に反対の意向を示しており、現職議員の中から人選を行なう考えを表明している。

すでに18日午後4時までに下院議員全員に首相候補名を記した法定宣言を提出するよう求めており、20日には特別統治者会議を開催し、統治者に首相人事に関して同意を求める予定だ。

アブドラ国王は17日午後、各党トップを王宮に呼んで政治危機克服に向けて各党に協力して当たること、より調和のとれた新しい形の政治の実践を呼び掛けた。これを受けた各党トップは「古い政治闘争」を止め新型コロナと経済問題に共に取り組んでいくと約束した。

次期首相候補、サブリ前副首相とアンワル元副首相の争いか

【クアラルンプール=マレーシアBIZナビ】 16日に辞任したムヒディン•ヤシン首相の後任争いは、連立与党のイスマイル・サブリ・ヤアコブ前副首相(統一マレー国民組織=UMNO総裁補)と野党連合・希望同盟(PH)を率いるアンワル•イブラヒム元副首相の一騎打ちの容相を呈している。

連立与党は、共闘相手であり最大党派であるUMNOの支持を得るためサブリ氏を統一候補として推す方向で調整を続けている。

UMNOを含む国民戦線(BN)構成党は、サブリ氏を推すことですでに合意している。UMNOのアハマド・ザヒド・ハミディ総裁(元副首相)は辞退したという。現在BNの議席は42議席で、このうち38議席をUMNOが占める。

与党連合・国民同盟(PN、50議席)の正式発表はまだだが、サブリ氏支持を発表する見通し。またPNと共闘関係にあるサラワク政党連合(GPS、18議席)も名前は明かしていないが、PNが推す候補を支援する意向を示している。

サブリ氏側は親PNの諸派・無所属をあわせると114—115人がサブリ氏支持にまわると見積もっている。ただサブリ氏に批判的な者は同じUMNO党内にも少なくなく、計算通りの支持が得られるかどうかは不透明だ。

一方、野党連合・希望同盟(PH、88議席)は、アンワル人民正義党(PKR)党首を推すことで一致しており、PHと連携するサバ遺産党(ワリサン、8議席)、祖国戦士党(ペジュアン、4議席)などを加えると105人がアンワル氏支持の見通しだと主張している。

PHはこれに無所属議員や与党側からの寝返りによる上乗せを期待しているが、ペジュアンのマハティール•モハマド会長(前首相)などアンワル氏に批判的な者は野党側にも少なくなく、野党が一致してアンワル氏を支持する体制をつくれるかは不透明な情勢だ。

次期首相選定、絶対的候補不在の混沌情勢

【クアラルンプール=マレーシアBIZナビ】 ムヒディン•ヤシン首相の辞任発表を受け、次期首相選定に向けて各方面で動きが活発化しているが、いずれの顔ぶれも下院議会における過半数獲得に向けた決め手に欠けており、絶対的候補者不在の混沌とした情勢となっている。

アズハル・アジザン・ハルン下院議長は、下院議員全員に対し自身が推薦する次期首相候補者名を書いた宣誓供述書を18日午後4時までにアブドラ国王に提出するよう通達を出した。全議員の意向を踏まえた上で、数日中に次期首相を指名することになるとみられる。昨年3月のムヒディン内閣が発足した際にも、首班指名前に同様に議員全員の意向確認が行なわれた。

与党連合・国民同盟(PN)内では、過半数の支持を得る上でキャスティングボートを握る友党・統一マレー国民組織(UMNO)への配慮から、同党総裁補のイスマイル・サブリ・ヤアコブ副首相を推す意見が強いようだが、ムヒディン首相への不支持を宣言したアハマド・ザヒド・ハミディ総裁(元副首相)らUMNO主流派の同意はまだ得られていない。UMNO内部の派閥間の意見の一致は難しく、間をとって野党にも王宮サイドにも顔がきく王族出身でUMNO長老のテンク・ラザレイ元財務相を推す声も出ている。

一方、かねてから過半数を掌握していると主張している野党連合・希望同盟(PH)は、リーダーのアンワル•イブラヒム人民正義党(PKR)党首(元副首相)を推しているが、祖国戦士党(ペジュアン)率いるマハティール•モハマド前首相が難色を示しており、ある程度の与党からの寝返りが期待できるにしても過半数の支持に届くかどうかは微妙な情勢だ。

各候補ともに過半数の支持獲得に向けた決め手に欠ける中、挙国一致内閣構想を打ち出しているマハティール氏の再登板、あるいは結局、ムヒディン首相が総選挙まで暫定首相として続投するといった見方も出ている。

MM2Hの申請条件変更、見直しや導入延期求める声上がる

【クアラルンプール】 外国人の長期滞在を奨励する「マレーシア・マイ・セカンド・ホーム(MM2H)」プログラムの申請条件の変更が先ごろ発表されたが、条件を満たすのが難しいとして見直しを求める声が上がっている。
国際不動産連盟(FIABCI)のコー・ペンカン会長は、これまで月1万リンギだった所得証明が4万リンギに引き上げられたことなどを挙げて、満たすのは難しいと強調。外国人の退職者にとりマレーシアがリタイヤ後の居住地として魅力的なのは、低い生活費であるとし、4万リンギになったことで申請できる人が減るとし、1万ー1万5,000リンギ程度に留めるべきと述べた。また年間90日以上のマレーシア滞在の義務やマレーシアでの定期預金額を35万リンギに設定したことをなどを挙げて、投資家の関心が大幅に低下するとし、すでに一部の不動産購入の予約をキャンセルする動きが出ているとした。
またマレーシア不動産業者協会(MIEA)も準備までに時間が必要とした上で、2022年12月まで延期をするよう求めた。再度申請の受け付けを開始することは歓迎するが、実用的ではないとした。一部の条件変更には賛成するが、証明する所得が4万リンギとなったことや、マレーシアの銀行への預金額を3−6倍引き上げたことについても、引き上げ幅が大幅すぎると指摘。申請者が減り、外国人は他の国に移住することになるとして懸念を示した。
(ザ・スター、8月15日、ニュー・ストレーツ・タイムズ、8月14日)

ムヒディン首相が辞任発表、解散&総選挙ない公算

【クアラルンプール=マレーシアBIZナビ】 ムヒディン•ヤシン首相が16日、内閣総辞職を発表した。辞表はアブドラ国王に提出され、直ちに承認された。ムヒディン政権は昨年3月1日の発足当初から少数与党であることに起因する不安定な政権運営を迫られていたが、与党内からの離反もあり、17カ月半の短命政権に終わった。

ムヒディン首相は午後にテレビ演説を行い、自身が下院議員の過半数の支持が得られなくなったことを認めた上で、辞表提出は連邦憲法に則ったものと説明。その上で新型コロナウイルス「Covid-19」の脅威が続く中で、政治の空白ができないよう速やかに新政権が樹立されることを望むと述べた。

王宮側もフェイスブックで国王の声明を発表。次期首相が決まるまでムヒディン首相が暫定首相となって暫定政府を率いると明らかにした。また現時点では国民の安全を考慮すると最善な選択肢ではないとし、議会解散&総選挙に否定的な考えを示した。議会解散権をもつ国王の意向だけに、現職の国会議員の中から首班が指名される公算が強まった。

後任候補としては、副首相を務めるイスマイル・サブリ・ヤアコブ(統一マレー国民組織=UMNO総裁補)や、同じくUMNO長老のテンク・ラザレイ元財務相の名前が上がっている。

マハティール•モハマド前首相の辞任により希望同盟(PH)政権が崩壊した後、ムヒディン首相率いる国民同盟(PN)及び友党は昨年3月、アブドラ国王による議員個別の聞き取りを経て下院の過半数を掌握したと認定され、新政権樹立を宣言した。

これにはPHなどが異議を唱え、早期の解散・総選挙実施を求めていたが、新型コロナ感染拡大などから国会が半年以上にわたって休会となり、ムヒディン政権の正統性議論も先送りされた。しかしコロナ対策を巡る政策への不満の高まりもあって、政権に居座るムヒディン主張への批判も徐々に拡大。PN政権を支えてきたUMNOもムヒディン内閣不支持を宣言した

国王の介入もあってムヒディン首相は信任投票を9月の次期国会で実施することに同意したが、信任投票を速やかに実施しないことに野党などが反発。窮余の策として超党派での政治協力を呼び掛けたが、これも拒絶されてついに打つ手が尽きた。