【従業員の勤労意欲を高めるために】第898回:中小企業の両利き経営(1)両利きは難しい

第898回:中小企業の両利き経営(1)両利きは難しい

 

前回までは、やりがい搾取や努力と報酬の不均衡について取り上げ、議論を行いました。これらは、短期的には組織に利益をもたらす可能性がありますが、長期的には組織と構成員の双方に悪影響を及ぼします。従って、これらの問題を未然に防ぐには、日頃から従業員の働き方に注意を向けるとともに、アンケート調査をうまく活用する必要があります。アンケート調査の効果的な実施方法などについては、筆者までお気軽にご相談いただければ幸いです。

さて、今回からは、中小企業の「両利き」経営について取り上げます。現在、マレーシアには1,617社の日本企業が拠点を持ち、その中には 大企業だけでなく多くの中小企業も含まれています(参考:外務省「海外進出日系企業拠点数調査」)。ビジネスにおいて、両利きとは、短期的な成功と長期的な存続のために、漸進的で効率志向のイノベーション(深化)と、急進的で新規性志向のイノベーション(探索)の両方を組み合わせることを指します。企業がグローバル競争の激化に直面するにつれて、両利きの重要性がますます認識されています。

しかし、探索と深化は希少なリソースをめぐって競合し、それらを同時に達成しようとすると企業内に緊張が生じる可能性があります。そのため、両利きを実現するのは時に困難です。さらに、中小企業は、経営の専門知識、資本、人材、リソースへのアクセスの点で大企業に比べて不利な立場にあり、このことも、両利きを実現することを困難にしています。中小企業は、探索と深化のために別々のユニットを開発することができず、また、変化する環境に適応するためにリソースを再構成するための管理システムがありません。そのため、多くの研究者は、特に資源と能力が限られている中小企業は、深化か探索のいずれかに特化することで業績が向上すると主張してきました。

問題は、果たして答えは「深化か探索のいずれかに特化」でいいのか、ということです。次回から、掘り下げて議論します。

 

以下のウェブセミナーに登壇します。ご興味のある方は是非ご参加ください。2025年4月18日(金)までの事前申し込みが必要です。

 

日時:2025年4月22日(火)14:30~16:00

テーマ:モノづくり中小企業における「両利き経営」の特質と実践―統計分析によるユニークなファインディングス―

申込:

https://www.jspmi.or.jp/system/seminar.php?ctid=1203&smid=341&it=a

 

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

【イスラム金融の基礎知識】第566回 フィリピン、タカフル保険を開業へ

第566回 フィリピン、タカフル保険を開業へ

Q: フィリピンではタカフル保険業者が開業するようですが?

A: イスラム金融市場の拡充に力を入れているフィリピンであるが、中央銀行等が発表したところによれば、早ければ4月からタカフル保険会社が開業をすることになった。これは同国では初の事例となる。

タカフル保険商品を提供する保険会社は、イギリスのプルーデンシャル・グループ傘下のプルライフUK社である。同社は、昨年11月に中央銀行から同国で初の保険会社のライセンスを取得した。それ以来開業に向けての準備を進めており、専用のウェブサイトの開設をはじめ、アル・アマナ・イスラム投資銀行と業務協定を結んだほか、さらにはミンダナオ島ダバオ市にある三つのイスラム学校(マドラサ)でイスラム金融に関する教育プログラムの提供を行い、地域コミュニティにも働きかけている。中央銀行のアリファ・アラ総裁補佐(イスラム金融担当)によれば、他にも外国金融機関がイスラム銀行とタカフル保険の両方のライセンス取得に関心を寄せているとしている。

他方、アジア開発銀行とイギリスのイスラム金融情報会社が共同でアンケート調査を行ったところ、フィリピン人の78%がイスラム金融に興味があることが明らかになった。特に貯金・ビジネスローン・医療保険・個人ローン・電子ウォレットの五つに関心が高い結果が示された。プルライフUK社は、この保険分野のニーズをうまく汲み取れかどうかが、ビジネス展開において重要になりそうだ。また同調査では、マニラ首都圏と南部地域で高い関心が示されたとしている。

別の調査機関によれば、フィリピン在住のムスリム700万人のうち、300万人が十分な金融サービスを利用できていないとしている。先発のマレーシア資本のメインバンクも、同国でのイスラム金融ビジネスを拡大すると明らかにしており、市場拡大を促しそうだ。

 

 

【総点検・マレーシア経済】第519回 マレーシアに対する米国の相互関税率は24%、しかし1年違えば…

第519回:マレーシアに対する米国の相互関税率は24%、しかし1年違えば…

 

4月7日、ザフルル投資貿易産業大臣はマレーシアが米国製品に課している関税率は平均5.6%であり、米国側が主張する47%ではないと述べました。この47%という数字は、4月2日にトランプ大統領がホワイトハウスで発表した各国に対する相互関税率の根拠とされるものです。結果として、マレーシアに対する相互関税率は米国側の「厚意」により、47%の半分である24%と設定されました(4月9日には実施が3カ月延期と発表)。

米国が示した各国の対米関税率は、実際の関税だけでなく非関税障壁や各国の経済状況を考慮したものとされています。しかし、各メディアが報じているように、実態は2024年の米国の対各国貿易赤字額を各国からの輸入額で割った単純な計算式です。一応の理論的背景はあるものの、結果ありきでこの計算方法が選ばれた印象は否めません。

米国国際貿易委員会(USITC)のデータを米国側の計算式に当てはめると、図1のようになります。2024年の米国のマレーシアからの輸入額は525.3億ドル、対マレーシア貿易赤字は248.3億ドル。後者を前者で割ると47%となり、これに半額割引を適用してマレーシアへの相互関税率24%が導き出されています。

相互関税を決める基準年が2024年だったことは、マレーシアにとって幸運でした。マレーシア側のデータによれば、2024年の対米輸出は23.2%増加したのに対し、輸入は42.1%も増加しており、対米貿易黒字(米国から見た赤字)が縮小していたからです。USITCのデータによると、2023年の米国のマレーシアからの輸入額は461.9億ドル、対マレーシア貿易赤字は268.3億ドルでした。上記と同じ計算をするとマレーシアの関税率は58%となり、50%割引適用後の相互関税率は29%になります。わずか1年の違いでマレーシアは5%ポイント低い相互関税率で済んだことになります。

ザフルル大臣は、マレーシアの米国向け輸出の60%が電子・電機製品であり、関税対象外となる半導体はその半分(対米輸出の30%)を占めると説明しました。しかし、残りの70%は相互関税の対象となるため、半導体が除外されてもマレーシアへの影響は大きいと見られています。

今後、この相互関税が実際に実施されるのか、またマレーシア側が米国に対してどのような働きかけを行うのかが注目されます。

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp

【人生の知恵・仕事の知恵】It has just begun

It has just begun

★海外に向く人向かない人

4月からマレーシアで新生活を始めた日本人の方々も多いことと存じます。

新天地でのご活躍を祈願するとともに、本稿では、海外に向く人、向かない人について考察をします。

まず、昭和55年版の書籍『現代 プロの条件』(日本経済新聞社編)に記載されていた「海外派遣者としてふさわしくない人」について紹介します。

1消極的な人

2精神面も含め、健康でない人

3自己抑制ができない人

4意志表示がうまくできない人

5単能的な人

6協調性に欠ける

7現地に融和できない

8奥さんに主人と一緒に働く意識のない人

★OKYよりもOKD

以上8点共通する視点は、海外では常に解決策を求められると云うことです。できない理由ではなく、できる方法を考えることは、本人と家族を含めたサバイバルにも関わります。

OKYとは、お前(本社)が来てやってみろという言葉は、愚痴として言いたくなる気持ちはわかります。

一方で、本社に頼らない、あるいは頼る必要のない自律した仕事の仕方は、常に求められます。

むしろ OKD 、お前が来なくても大丈夫だ、の方が頼もしい姿です。

★ロケットスタートのススメ

よく「半年ぐらい様子をみてから本格始動」という言葉を聞くことがあります。しかし、それでは間に合いません。

まず、最初の半年に、徹底して仕事に打ちこみ成果を見せないといけません。

現地社員は、新しい日本人の姿を見ています。その中で、最初にスロースタートを見せると、軽視されがちです。

従って、赴任日を帰任日、就職した日を最終日とあえてみなし、24時間、臨戦体勢で仕事に打ち込むことで現地社員の信頼を勝ち取ってください。

今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます。

湯浅忠雄の仕事です→ https://yuasatadao.com/

湯浅 忠雄(ゆあさ ただお) アジアで10年以上に亘って、日系企業で働く現地社員向けのトレーニングを行う。「報連相」「マネジメント」(特に部下の指導方法)、5S、営業というテーマを得意として、各企業の現地社員育成に貢献。シンガポールPHP研究所の支配人を10年つとめた後、人財育成カンパニー、HOWZ INTERNATIONALを立ち上げる。 https://yuasatadao.com/about-us/presidents-greeting/【この記事の問い合わせは】yuasatadao★gmail.com(★を@に変更ください)

【従業員の勤労意欲を高めるために】第897回:やりがい搾取(12)アンケート調査を活用して搾取を防ぐ

第897回:やりがい搾取(12)アンケート調査を活用して搾取を防ぐ

前回は、ボランティアを例にとり、内発的動機づけだけで働ける人に頼ることの限界を述べました。奉仕の精神で働いてくれる人の存在は有難いものですが、それを手本にすると、人も組織も疲弊してしまいます。

さて、このシリーズでは、努力と報酬の不均衡(effort-reward imbalance, ERI)とやりがい搾取、内発的動機づけとの関係をレビューしました。なぜERIが発生するのか、なぜERIが心身の病気や離職などの経済行動につながるのかは、現状ではまだわかっていません。しかし、進化生物学や脳科学の蓄積された研究は、ERI研究の参考にすべきヒントを提供してくれます。

まず、このコーナーで取り上げた、人類が進化の過程で獲得した「間接互恵性」が、裏切り者を排除し、組織やその構成員の生存能力を高めるというメカニズムについては、経営者はそれをうまく活用することで、長期的な発展を犠牲にしてでも、搾取を最大化し、短期的な利益を得ることができることを示唆しています。したがって、間接互恵性の考え方は、長期的に組織とメンバーの両方に損害を与える可能性のある不合理なERIの原因の一部をうまく説明できるかもしれません。また、線条体を中心とした脳の報酬ネットワークが、努力や報酬よりもERIと強く関連しているとすれば、努力や報酬ではなく、両者の不均衡が人間にとってより有害である理由の一部を説明できるかもしれません。

残念ながら、現代人は、良心的な従業員のやりがいを利用し、組織に利益をもたらすふりをしながら従業員にERIを引き起こす悪意あるマネージャーの行動を防ぐのに十分なほど進化していません。また、残念ながら、現生人類の脳は搾取に耐えられるようには進化しておらず、ERIによる混乱が心身の病気を引き起こすこともあります。したがって、今日の過度の搾取から労働者を守り、組織の持続可能性を高めるためには、労働者、経営者、ステークホルダーが、ERIをタイムリーに認識できるように、アンケート調査をうまく活用する必要があります。

 

 

Kokubun, K. (2024). Effort–Reward Imbalance and Passion Exploitation: A Narrative Review and a New Perspective. World, 5(4), 1235-1247. https://doi.org/10.3390/world5040063

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、組織のあり方についての研究に従事している。この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

【イスラム金融の基礎知識】第565回 インドネシアで金銀行が発足、イスラム銀行も資格取得

第565回 インドネシアで金銀行が発足、イスラム銀行も資格取得

Q: インドネシアで採用された金銀行とは?

A: インドネシアのブラボウォ大統領は2月26日、金の取り扱いができる金銀行(ブリオンバンク、金地金銀行とも)制度を発足させ、2行にライセンスを与えたことを明らかにした。同国内で退蔵されている金を、個人資産の運用とマクロ経済の外貨準備の両観点から有効活用していくことが目的のようだ。

ブリオンバンクとは、金を通貨と同じように取り扱う銀行のことである。歴史的にも、金が通貨(金貨)として用いられて金本位制度が確立し、その後は金に代わって紙幣による管理通貨制度が導入されて現在に至るわけだが、ブリオンバンクは金を通貨と同等に扱う銀行である。一般的にブリオンバンクが行える業務として、金を預金して利子を受け取ったり、金を担保にして融資を受けたり、あるいは貿易取引の際に金で決済を行うことなどが含まれる。もちろん、金そのものの売買も可能な銀行も多い。

今回同国でブリオンバンクの資格を取得したのは、国立銀行で従来型銀行のバンク・ラクヤットの子会社と、国内最大のイスラム銀行であるバンク・シャリアの2行である。なお、銀行がこの資格を取得するには、最低14兆ルピア(約1,270億円)の資本金が必要である。

ブリオンバンクの制度は、日本では銀行による金取引に法律上の制限があるためなじみが薄い。これに対してイスラム世界では、伝統的に資産として金を保有することが好まれていたことと、利子を嫌って銀行の利用を避ける傾向があった。そこで銀行が金や地金をそのまま受け入れるとともに、金融商品・取引に金という実物資産が伴うのであれば、イスラム銀行との親和性が高い。インドネシアは金の産出・保有量が多い国でもあるため、ブラボウォ大統領も声明の中で、ブリオンバンクの導入で経済システムが改まり、金による銀行預金が増え外貨準備不足に備えられると、期待を寄せた。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【総点検・マレーシア経済】第518回 マレーシアの投資の状況

第518回 マレーシアの投資の状況

3月25日、バンク・ネガラは2024年の経済・金融レビューを発表しました。これは年間の経済・金融システムの総まとめであり、バンク・ネガラが重要視するテーマについての分析も掲載されています。

その中から、今回は「マレーシアの投資サイクルの謎を解く」という記事を紹介します。近年のマレーシア経済は内需主導から投資牽引型へと変化しています。記事によると、マレーシアの投資は他のASEAN諸国と比べて長く低調でしたが、2023年後半から明らかな上昇トレンドに入りました。

マレーシアには過去に2度の投資上昇局面がありました。1度目は1980年代後半から1997年のアジア通貨危機までで、外資系製造業とインフラ建設が中心でした。2度目は2011年から2015年で、石油・ガス部門と不動産投資が主導しました。

現在の第3の投資上昇局面には3つの特徴があります:

  1. サービス部門の成長と製造業投資の拡大:今回はサービス業が68%、製造業が20%と比率が高まっています。製造業では電子・電機、光学製品、輸送機器の投資が拡大しています。
  1. 機械・設備投資の増加とインフラ開発の継続:労働者一人当たりの機械・設備投資は7.3万リンギから8.3万リンギまで増加し、産業高度化や生産性向上に貢献しています。また、交通インフラと環境関連投資も拡大しています。
  1. 民間部門投資の増加:民間投資の比率は77%に上昇し、投資認可額における外国直接投資の比率も45%に達しています。

バンク・ネガラは、投資プロジェクトのスムーズな実施による現在の上昇サイクルの維持と、投資の高度化やサプライチェーンのローカル化を通じた便益最大化を提言しています。

製造業とインフラ投資の活発化は1990年代の高成長期を彷彿とさせますが、当時と異なり輸出の大幅な伸びは見込めず、民間消費も落ち着いているため高度成長の再現は難しいでしょう。しかし、世界経済が不安定な中、こうした生産的な投資が経済を牽引し、マレーシアが今回の投資上昇サイクルの間に高所得国入りを達成できれば理想的であると筆者は考えます。

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp

【従業員の勤労意欲を高めるために】第896回:やりがい搾取(11)ボランティアの働き方から搾取を考える

第896回:やりがい搾取(11)ボランティアの働き方から搾取を考える

前回は、海外駐在員が努力と報酬の不均衡(ERI)に対する耐性が低く、そのため、求められる努力に相応しい待遇や労働環境を用意する必要があることを述べました。過剰な情熱は、時に、文化の異なる周囲の仲間との協調を難しくします。しかし、現実には、日本本社のグローバル化の遅れなどにより駐在員の裁量に任されている仕事が多く、そのため報酬を超えた努力を強いられるケースも少なくないようです。

駐在員の対極には、例えば、無償または有償のボランティアが挙げられます。有償ボランティアとは、標準よりも低い賃金で、ボランティアとしてパートタイムで働く人々のことです。多くの場合、補償額は最低賃金を下回っています。他人を助けたり、自分の能力を発揮したりしたいという内発的な動機づけが、彼らを駆り立てています。そのため、努力と報酬に乖離があってもパフォーマンスが下がることはありません。もちろん、パフォーマンスが低下しないからといって、不均衡を正当化できるわけではありません。多くの有償ボランティアは、業務を遂行する人材が不足し、需要に供給が追いつかない状況に陥っています(有償ボランティアを取り扱う非営利団体で筆者が行ったインタビュー調査による)。

これは、内発的動機づけだけで働ける人に頼ることの限界を示しています。すなわち、たとえボランティアの当人たちに不満がなくても、需給ギャップを埋めるために待遇を改善することには小さくない意義があります。このことは、介護や育児など、人手不足で疲弊している分野も同様です。そのため、現在、ボランティア業務を引き受けている人たちがどのようなメンタリティを持っているのか、また、その対極にある駐在員とどのような違いがあるのかを知ることは、行政や企業経営者、求職者の認識や態度を改善する上でも意味があると考えられます。

 

Kokubun, K. (2024). Effort–Reward Imbalance and Passion Exploitation: A Narrative Review and a New Perspective. World, 5(4), 1235-1247. https://doi.org/10.3390/world5040063

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、東北大学客員准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、産業創出学の構築に向けた研究に従事している。
この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

 

【イスラム金融の基礎知識】第564回 エジプト、イスラム銀行市場が拡大

第564回 エジプト、イスラム銀行市場が拡大

Q: 2024年のエジプトのイスラム銀行市場は?

A: エジプト・イスラム金融協会が3月に発表したところによれば、2024年のイスラム銀行市場は対前年比で60%以上の成長を示した。この背景には、近年のエジプトの経済状況があるようだ。

モハメド会長によると、同国のイスラム銀行部門の預金総額は7,380億エジプト・ポンド(約2兆1,700億円)で、対前年比で65%の増加し、従来型銀行を含めた全銀行の預金残高の7.3%を占めた。同様に融資総額も8,070億エジプト・ポンド(約2兆3,800億円)で対前年比64%増加、全銀行部門の融資の6%となった。現在エジプトでは、イスラム銀行専業銀行が4行、イスラム金融商品を扱える資格をもつ従来型銀行が11行存在する。専業4行とは、ファイサル・イスラム銀行、アブダビ・イスラム銀行、アル・バラカ銀行、そしてクウェート・ファイナンス・ハウス傘下の銀行で、いずれも中東・北アフリカの大手資本である。

このように好調なイスラム銀行市場であるが、近年のエジプトは20%を超えるインフレに悩まされている。一般的に、インフレ率の高まりは貨幣価値の下落を意味するので、中央銀行はインフレを抑えるため政策金利を上げる。市中銀行も、中央銀行に合わせて預金金利と貸付金利を上昇させる。実際、エジプトの従来型銀行の金利は20%を超えている。他方イスラム銀行は、政策金利に左右されずあくまでも実物資産の売買に合わせて手数料やリターンを決定する。もっとも、銀行間で預金や融資先の獲得競争が起きて、結果的に従来型銀行の金利と同程度の数値に収斂されていく。

なお、2024年の1年間でイスラム銀行の支店数は51店舗増え、全国で311店舗となった。これはおよそ20%の増加となる。イスラム銀行市場の拡大は、金融やマクロ経済の統計上の話というだけではなく、実体経済に根付いているといえよう。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【人生の知恵・仕事の知恵】Give a thought at GENBA

Give a thought at GENBA

 

★現場とGENBA

筆者は、日本企業の海外法人で現地社員の指導にあたるとき、日本と同じように現場の大切さを指導しています。

Go To Genba

とにかく現場で実際の状況を確認するようにアドバイスをしています。ところが最近は、報告もSNSが主体となって、それこそ、工場でのトラブルまでもSNSで報告をする習慣となって、現場写真を送ったことが、「現場の確認」になっている事態です。

 

★なぜ、現場に行かないのか

「とりあえば現場に行って欲しい」と表現をしても、全くその意図が伝わらず、行っても何もなかったらどうするのですか?とさえ聞き返されることがあります。

「何もないかもしれませんが、現場に行って実際にモノを見たり触ったり人に話を聞いたりすれば、問題の本質が掴める可能性が高まるでしょう?」と説明して、ようやく足を運びます。

そして、以下のようにも付け加えます。

「何もないかもしれませんが、現場に行って、実際のものに触る、人と話すなどすれば、問題解決の糸口は掴めますよ」。

 

★何をしないかではなく、何をするか

そうして現場に足を運ぶことに躊躇をするのは、何をやったではなく、何をしてはいけないのか、ばかりを植え付けられてきたせいもあるでしょう。

だから、冒険をするようなことを言っていなくても、未知の結果が出るかもしれないことは、さらに別の判断を求められるだけに、拒否をしたくなるのかもしれません。

現場主義を回復させるためには、できることを探す文化を醸成する必要があります。

湯浅 忠雄(ゆあさ ただお) アジアで10年以上に亘って、日系企業で働く現地社員向けのトレーニングを行う。「報連相」「マネジメント」(特に部下の指導方法)、5S、営業というテーマを得意として、各企業の現地社員育成に貢献。シンガポールPHP研究所の支配人を10年つとめた後、人財育成カンパニー、HOWZ INTERNATIONALを立ち上げる。 https://yuasatadao.com/about-us/presidents-greeting/【この記事の問い合わせは】yuasatadao★gmail.com(★を@に変更ください)