Shopee親会社Seaの急成長

マレーシアでもEコマースを展開しているShopeeがあります。2017年にシンガポールで創業した若い会社ですが、実は親会社は2008年に創業したゲーム開発のSeaという企業です。
コロナ禍での巣ごもり消費を受けて株価が大きく上昇しています。今年の年明けから4月中旬までは、40ドル台と横ばいでしたが、4月下旬、そして5月と新型コロナウィルス対策のための行動制限が世界各地で長引くと、ゲームとEコマースといった「巣ごもり消費」の需要が高まり、株価も上昇して6月には100ドルを突破しました。そして、8月25日の終値は154ドル13セントと、2017年の上場初日の終値は15ドル26セントから3年足らずで10倍という上昇ぶりです。
Seaは中国のテンセントとの関係も深い企業です。上場前は、中国のテンセントが39.7%の株式を保有していましたし、上場後もテンセントはSeaが発行した米国預託証券を購入するという関係が続いています。


ただ、Seaの株価は、さすがに急騰し過ぎでバブルだ、過大評価だという声もあります。Seaにとっては、ゲームに次ぐ収益源としたいShopeeですが、Eコマースは競合も多い分野です。売上が増えていても、市場競争に勝つために様々なキャンペーンを展開したり、大規模な広告を打ったりと消耗戦が繰り広げられています。現状、ShopeeはSeaにとって着実な収益源とまでは育っていません。
今後は、Shopeeを含むSeaの事業がコロナ禍での追い風を活用して、ビジネスの基盤を強化することができるかが重要となるでしょう。

※本連載の内容は著者の所属組織の見解を代表するものではなく、個人的な見解に基づくものです。

この記事を書いた人

マレーシアの2020年第2四半期のGDP成長率はマイナス17.1%

 8月14日、バンク・ネガラはマレーシアの2020年第2四半期のGDP成長率をマイナス17.1%と発表しました。これは、2009年の世界金融危機時の底(マイナス5.8%)、1998年のアジア通貨危機時の底(マイナス11.2%)を超えて、近年では最も悪い数字です。

図は世界金融危機時とアジア通貨危機時のマレーシアのGDP成長率の推移を現在の時間軸に重ねてプロットしたものです。過去2回の危機と比較して、今回は底が来るのが早い一方で深いことが分かります。月別の経済指標を見ると5月、6月と底を打ったものが多く、第3四半期の成長率はプラスにはならないまでも、マイナス一桁台にまで戻すと考えられます。

2009年の世界金融危機時には外需のショックが国内経済に波及し、1998年のアジア通貨危機時には国内金融システムの機能不全が成長率を引き下げました。これに対し、今回の大幅なGDPのマイナス成長は、活動制限令(MCO)によって直接的に経済活動を止めたことが主因です。マレーシアは大幅なGDPのマイナスと引き替えに、新型コロナウイルスの感染拡大を最小限に食い止めることに成功しました。

5月以降、経済活動は順次再開され、直接的な活動制限によるGDPの減少は速やかに解消すると考えられます。世界経済の減速や失業の増大、消費の減速の影響がどの程度マレーシア経済に影響しているのか判断するには、第3四半期のGDP発表を待つ必要があります。

 

 

この記事を書いた人

国境封鎖の日に到着、不法入国者扱いされた日本人

行動制限令(MCO)が発効した3月18日朝にマレーシアに航空便で到着した旅行者が、「不法入国者」扱いに近い非人道的で劣悪な環境に長期間置かれていた事が「マレーシアBIZナビ」の取材で分かった。

前日の深夜に関西空港からクアラルンプール国際空港・格安航空ターミナル(KLIA2)行きのエアアジアX機に搭乗した日本人乗客らによると、到着後に入国管理局のゲート前で停められ、入国管理局のオフィスでパスポートや携帯電話などの手荷物を取り上げられてしまった。入管の係官からは「ロックダウンしたので入国できない。あなたたちは日本に帰らなければならない」と告げられたという。

日本に一時帰国していた日本企業の駐在員Sさんは、行動制限令(MCO)が発令されるとの情報を受けて急遽マレーシアに戻ることを決めた。関西空港ではエアアジアXが普通に搭乗手続きを行なったため、KLIA2に到着した際にこのような悲惨な状況に置かれるとは思っていなかった。携帯電話がないので外部に非常事態について連絡することもできず、「Sが行方不明になった」と会社で大騒ぎになったという。

当日朝には他にも到着便があったが、それらに乗っていた乗客が入国管理局職員によってトイレの近くの1カ所に集められていた。みんな床で寝るしかなく「3密状態」だったという。Sさんはこれが原因でクラスタが発生したら大変なことになると感じた。欧米人らが大声で係官に不満をぶちまけていたという。

待遇も悪く、配給される食事はパック入りの弁当で、備え付けの給水機だけが頼りだった。Sさんは食べなかったという。みんな着替えもなく、シャワーなどもないのでトイレで身体を拭くぐらいしか出来なかった。エアコンが効き過ぎて寒かったが改善を求めても聞き入られず、多くの旅客は寒さで震えて過ごした。どこからか段ボールを見つけてきて寝ていた人もいたが、没取されてしまったという。

政令で入国が禁じられたので入管が入国拒否するのはある意味仕方がないともいえるが、入国できないにも関わらず搭乗を認めた責任はエアアジアXにある。にも関わらずエアアジアXの係員の対応も悪く、預け荷物について係員に聞いてもまるで犯罪者に対するような扱いで、「座ったまま話せ」という高飛車な態度だった。

本国に送還されることになっているといっても、MCOのために国際便は次々にキャンセルとなって帰国便もなかなか決まらない。帰国便は基本的に出入国管理局が手配したという。Sさんは幸い19日に帰国できたが、便数が少ない路線であった場合はかなり長期間KLIAに留め置かれた。タイ・クラビから来たあるタイ及びマレーシア在住の日本人は、クラビ線が飛ばないため1週間もKLIA2で暮らす羽目となった。最終的に関空便に切り替えて日本に向かったという。

なお日本で待機していたSさんは、ようやく3週間ほど前にマレーシアに無事戻ることができた。しかしそれもスンナリいったわけでなく、18日の「強制送還」について聞かれたり、高い金を払って出発前に受けたPCR検査について入国の際に無効だといわれて抗原検査を受けさせられたという。

「マレーシアBIZナビ」でも度々報じているように、MCO発表をはじめマレーシア政府の決定は唐突なものが多かった。18日の出来事は氷山の一角とみられるが、政府上層部と現場の間の意思の疎通がとれずにトラブルになるケースはいつでも起こりうる。当分の間は十分に注意が必要だ。

この記事を書いた人

ナジブ元首相に有罪判決、政局への影響必至

 ナジブ・ラザク元首相が7月28日、国営投資会社ワン・マレーシア・デベロップメント(1MDB)巨額資金不正流用事件に関連して高裁で禁固12年、罰金2.1億リンギの有罪判決を受けた。元首相経験者で初の刑事裁判で有罪となるという画期的判決であり、独立性に疑問がもたれていたマレーシア司法制度に対する国際的評判を回復するのに寄与すると賞賛の声が上がっている。

 2月末に希望同盟(PH)政権が崩壊し、国民戦線(BN)の中核である統一マレー国民組織(UMNO)や汎マレーシア・イスラム党(PAS)の支援を受けた国民連盟(PN)のムヒディン・ヤシン内閣が誕生したが、UMNOの復権と共に司法に圧力が加えられ、裁判が歪められるのではないかとの懸念の声が上がっていた。

 げんにナジブ氏の義理の息子で、1MDB資金の一部を流用したリザ・アジズ氏の裁判は今年5月に1億730万米ドルを返還することを条件に起訴が突然取り下げられ、世間では「ドロボーが盗んだ金の一部返したら無罪放免になるのか」と不満の声が上がった。

 シンガポール国際問題研究所のオー・エイサン氏は、「今回の有罪判決は1MDB関連裁判のベースとなるだろう」と指摘。ナジブ氏が抱えている残りの裁判、他のUMNO幹部の裁判にも影響を及ぼすとみている。

 しかしナジブ氏は控訴の意向を示しており刑は確定した訳ではない。実際、アンワル・イブラヒム元副首相(現PHリーダー)の裁判でも、当時の与党連合・国民戦線(BN)政権の圧力にも関わらず最初の同性愛裁判では逆転無罪が確定(職権濫用では有罪)している。

 豪タスマニア大学のアジア研究者、ジェームズ・チン教授は、「今回の有罪判決によって状況が変わる訳ではない。ナジブ氏は依然として国会議員のままであり控訴裁の判断を待つ必要がある」としている。

 確かに今回の有罪判決は一審判決に過ぎないかもしれないが、政局に与える影響は大きいと指摘する声は多い。

 前出のオー氏は、ナジブ氏の影響力がいまだ強いUMNOに支えられているムヒディン政権下で出た有罪判決という点に注目し、PH時代から汚職撲滅を訴えてきたムヒディン首相への支持が高まると予想。 フリージャーナリストのアニル・ネットー氏も同様の意見で、短期的にはムヒディン首相の立場が強化されるだろうとしている。

 PH政権から簒奪した「裏口内閣」といわれながらも新型コロナウイルス「Covid-19」対策で当初は成果を出して評価を高めたムヒディン内閣だが、長引くコロナの影響で失業、倒産などの経済問題に直面。国民から不満の声が再び上がり始めている。そうした中、今回の判決は「いずれ馬脚を現す、BN時代の政治に戻る」と批判的だった向きも見直すきっかけとなると期待する声が上がっている。

 ムヒディン政権支持の回復ということでみれば、BN政権時代の汚職追求に血道をあげてきた野党連合PHにとっては、有罪判決は痛し痒しといえる。PH構成党・民主行動党(DAP)のリム・グアンエン書記長はペナン・トンネル事業計画絡みで疑惑がもたれているが、仮にこれが与党側の差し金であったにしろ司法独立が曲がりなりに機能している以上、有罪判決が出てもこれまで主張してきた政治の司法介入を言い出しにくくなる。「南洋商報」のチン・フックセン氏は「野党側は司法正義への干渉だとして政権を批判してきたが、その武器を失う」と指摘している。

 ムヒディン首相にとっても、一時的に立場が強くなるにしても、今後さらにUMNOからの圧力にさらされ政権地盤自体が揺らぐ恐れがあり、手放しでは喜べない。

 UMNOのアハマド・ザヒド・ハミディ総裁(元副首相)は判決後、PNを友党として今後も支えるが参加はしないと言明した。ザヒド氏自身も訴追される身ということもあり、ムヒディン首相の「司法への不介入」方針に堂々と不満を表明した格好だ。多くの政治アナリストがザヒド氏の発言について「UMNOが抜ければムヒディン内閣は崩壊するとの脅し」と指摘している。

この記事を書いた人

中国公船の侵犯絶えず、与党内部からも対中強硬意見

 先ごろマレーシア会計検査院が、2016年から2019年にかけて中国公船によるマレーシアの領海侵犯が89回に及んでいることを明らかにした。中国に抗議したのはわずか5回のみだったという。

 南シナ海での中国船の侵犯行為に対しては、多くのケースでマレーシアで発表されず報道もされてこなかった。マレーシアに多額の投資を行い、多数の観光客を送り込んでくる中国への配慮があったと考えられるが、このショッキングな報告を受けて与党内からも政府の対応に批判の声が上がっている。

 会計検査院の発表を受けたヒシャムディン・フセインディン外相は15日、最近ではマレーシア領海への中国公船の侵犯は起きていないと主張。3月の外相就任以来、中国やその他の国との関係改善に取り組んできたと強調し、南シナ海問題については我が国の主権に対して妥協はしないと述べた。その上で「海洋での突発事態は最も懸念されることであり、最終的には戦争につながる可能性がある。軍事は問題解決に役立たないことをすべての東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国が同意する必要がある」とした。

 これに対し身内であるアニファ・アマン元外相は、中国公船の侵犯がその後も続いているとし、ヒシャムディン外相に対し「現実を意図的に無視しているか、もしくは無知であり、失望している」と痛烈に批判。海洋及び戦略的利益を政治的に弄んでいると指摘し、継続的な中国の領海侵犯に対してマレーシアの主権をより積極的に擁護しなければならないと述べた。

 アニファ氏によると、4月には中国の調査船が国営石油会社、ペトロリアム・ナショナル(ペトロナス)の探査船を追尾する事件が発生したが、政府は何ら声明を発表することはなかった。中国海警局の船舶は5、6、7月にも目撃されている。

 アニファ氏は、「マレーシアが南シナ海の海域に対する中国の主張を認めたことは一度もなく、マレーシア政府はマレーシアの海事と戦略的利益が危険に晒されないよう断固とした立場を維持する必要があると述べた。

 リベラル系の「サラワク・リポート」は、ヒシャムディン外相の発言や対応について、従兄弟であるナジブ・ラザク元首相の中国との深い関係が影響していると指摘している。1MDBによる巨額損失を隠蔽するために中国国営企業から多額のバックマージンがナジブ氏にわたっており、中国にもの申せない立場になってしまったというわけだ。

 シンクタンク、エミル・リサーチのジェイスン・ロー氏は、南シナ海問題に関する限り、中国とは「友」であると同時に「敵」でもあるという現実を受け入れて実在的な緊張(フレネミー)を維持する必要があると指摘。具体的には▽中国軍艦の寄港拒否▽EEZ内にある中国民間船への中国公船同行の中止を要求▽調査・研究目的で派遣された中国民間船の監視▽EEZ内での漁業禁止——などを実施すべきだとし、一方で国防体制を強化し、ASEAN各国と安全保障協力を強化すべきだとした。

 ロー氏は、「これまでの中立策と緩和策の慣行から脱却するしかない」と、過去のマレーシア政府がとり続けていた対中国政策が機能していないと批判。外交的な対立や武力衝突のリスクを恐れず、国益に則って主張・抗議を地道に続けていかなければならないとしている。

 先ごろマレーシア会計検査院が、2016年から2019年にかけて中国公船によるマレーシアの領海侵犯が89回に及んでいることを明らかにした。中国に抗議したのはわずか5回のみだったという。

 南シナ海での中国船の侵犯行為に対しては、多くのケースでマレーシアで発表されず報道もされてこなかった。マレーシアに多額の投資を行い、多数の観光客を送り込んでくる中国への配慮があったと考えられるが、このショッキングな報告を受けて与党内からも政府の対応に批判の声が上がっている。

スポンサードリンク

 会計検査院の発表を受けたヒシャムディン・フセインディン外相は15日、最近ではマレーシア領海への中国公船の侵犯は起きていないと主張。3月の外相就任以来、中国やその他の国との関係改善に取り組んできたと強調し、南シナ海問題については我が国の主権に対して妥協はしないと述べた。その上で「海洋での突発事態は最も懸念されることであり、最終的には戦争につながる可能性がある。軍事は問題解決に役立たないことをすべての東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国が同意する必要がある」とした。

 これに対し身内であるアニファ・アマン元外相は、中国公船の侵犯がその後も続いているとし、ヒシャムディン外相に対し「現実を意図的に無視しているか、もしくは無知であり、失望している」と痛烈に批判。海洋及び戦略的利益を政治的に弄んでいると指摘し、継続的な中国の領海侵犯に対してマレーシアの主権をより積極的に擁護しなければならないと述べた。

 アニファ氏によると、4月には中国の調査船が国営石油会社、ペトロリアム・ナショナル(ペトロナス)の探査船を追尾する事件が発生したが、政府は何ら声明を発表することはなかった。中国海警局の船舶は5、6、7月にも目撃されている。

 アニファ氏は、「マレーシアが南シナ海の海域に対する中国の主張を認めたことは一度もなく、マレーシア政府はマレーシアの海事と戦略的利益が危険に晒されないよう断固とした立場を維持する必要があると述べた。

 リベラル系の「サラワク・リポート」は、ヒシャムディン外相の発言や対応について、従兄弟であるナジブ•ラザク元首相の中国との深い関係が影響していると指摘している。1MDBによる巨額損失を隠蔽するために中国国営企業から多額のバックマージンがナジブ氏にわたっており、中国にもの申せない立場になってしまったというわけだ。

 シンクタンク、エミル・リサーチのジェイスン・ロー氏は、南シナ海問題に関する限り、中国とは「友」であると同時に「敵」でもあるという現実を受け入れて実在的な緊張(フレネミー)を維持する必要があると指摘。具体的には▽中国軍艦の寄港拒否▽EEZ内にある中国民間船への中国公船同行の中止を要求▽調査・研究目的で派遣された中国民間船の監視▽EEZ内での漁業禁止——などを実施すべきだとし、一方で国防体制を強化し、ASEAN各国と安全保障協力を強化すべきだとした。

 ロー氏は、「これまでの中立策と緩和策の慣行から脱却するしかない」と、過去のマレーシア政府がとり続けていた対中国政策が機能していないと批判。外交的な対立や武力衝突のリスクを恐れず、国益に則って主張・抗議を地道に続けていかなければならないとしている。

 先ごろマレーシア会計検査院が、2016年から2019年にかけて中国公船によるマレーシアの領海侵犯が89回に及んでいることを明らかにした。中国に抗議したのはわずか5回のみだったという。

 南シナ海での中国船の侵犯行為に対しては、多くのケースでマレーシアで発表されず報道もされてこなかった。マレーシアに多額の投資を行い、多数の観光客を送り込んでくる中国への配慮があったと考えられるが、このショッキングな報告を受けて与党内からも政府の対応に批判の声が上がっている。

 会計検査院の発表を受けたヒシャムディン・フセインディン外相は15日、最近ではマレーシア領海への中国公船の侵犯は起きていないと主張。3月の外相就任以来、中国やその他の国との関係改善に取り組んできたと強調し、南シナ海問題については我が国の主権に対して妥協はしないと述べた。その上で「海洋での突発事態は最も懸念されることであり、最終的には戦争につながる可能性がある。軍事は問題解決に役立たないことをすべての東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国が同意する必要がある」とした。

スポンサードリンク

 これに対し身内であるアニファ・アマン元外相は、中国公船の侵犯がその後も続いているとし、ヒシャムディン外相に対し「現実を意図的に無視しているか、もしくは無知であり、失望している」と痛烈に批判。海洋及び戦略的利益を政治的に弄んでいると指摘し、継続的な中国の領海侵犯に対してマレーシアの主権をより積極的に擁護しなければならないと述べた。

 アニファ氏によると、4月には中国の調査船が国営石油会社、ペトロリアム・ナショナル(ペトロナス)の探査船を追尾する事件が発生したが、政府は何ら声明を発表することはなかった。中国海警局の船舶は5、6、7月にも目撃されている。

 アニファ氏は、「マレーシアが南シナ海の海域に対する中国の主張を認めたことは一度もなく、マレーシア政府はマレーシアの海事と戦略的利益が危険に晒されないよう断固とした立場を維持する必要があると述べた。

 リベラル系の「サラワク・リポート」は、ヒシャムディン外相の発言や対応について、従兄弟であるナジブ•ラザク元首相の中国との深い関係が影響していると指摘している。1MDBによる巨額損失を隠蔽するために中国国営企業から多額のバックマージンがナジブ氏にわたっており、中国にもの申せない立場になってしまったというわけだ。

 シンクタンク、エミル・リサーチのジェイスン・ロー氏は、南シナ海問題に関する限り、中国とは「友」であると同時に「敵」でもあるという現実を受け入れて実在的な緊張(フレネミー)を維持する必要があると指摘。具体的には▽中国軍艦の寄港拒否▽EEZ内にある中国民間船への中国公船同行の中止を要求▽調査・研究目的で派遣された中国民間船の監視▽EEZ内での漁業禁止——などを実施すべきだとし、一方で国防体制を強化し、ASEAN各国と安全保障協力を強化すべきだとした。

 ロー氏は、「これまでの中立策と緩和策の慣行から脱却するしかない」と、過去のマレーシア政府がとり続けていた対中国政策が機能していないと批判。外交的な対立や武力衝突のリスクを恐れず、国益に則って主張・抗議を地道に続けていかなければならないとしている。

この記事を書いた人

野党首相候補に浮上、シャフィー氏とは何者か?

 先日マハティール・モハマド前首相が突然、サバ州の地方政党であるサバ遺産党(ワリサン)のシャフィー・アプダル党首を野党側の統一首相候補に推す考えを示し、首相候補の人選で揉めていた野党側は大混乱に陥った。

 自身が首相候補となる案がアンワル・イブラヒム氏率いる人民正義党(PKR)に拒否されたことから代替案として持ち出したものだが、これによるとアンワル氏を副首相に推すという内容になっている。

 首相になりたいアンワル氏に「次」を用意した上で、自身が潔く身を引くことで「痛み分け」を提案したようにみえるが、シャフィー氏は熱烈なマハティール信奉者であり、シャフィー氏が首相になればマハティール氏はこれをリモートコントロールできる。アンワル氏は2018年の総選挙前に密約を交わしたにも関わらず、ついにマハティール氏から後継者指名を受けることができなかった。今回も約束が反故にされないという保証はない。

 前回に懲りたアンワル氏が率いる希望同盟(PH)はアンワル氏を首相に推すという当初の案を押し通しシャフィー擁立案を却下したが、PH側がマハティール案を受け入れていればシャフィー首相が誕生した可能性があった。ボルネオ出身者の首相となれば歴史上初めてとなる。シャフィー氏とはどのような人物なのだろう。

 シャフィー氏はバジャウ族の出身で、第6代州首相の甥という名門。官僚を経て政界入りし、統一マレー国民組織(UMNO)移籍後に頭角を現し、サバ州出身者を代表して連邦閣僚を歴任した。2000年にはUMNO党最高評議員に選出され、2013年には党総裁補に登り詰めた。しかし1MDB疑惑に晒されたナジブ・ラザク首相を批判してUMNOを除名され、今度はサバ州内で新党ワリサンを結成し勢力を拡大。2018年の総選挙で勝利して州首相に就任した。

 一方、シャフィー氏にはUMNO式のバラマキ&縁故主義的傾向をもった人物との噂は絶えない。証拠不十分で起訴は取り下げられたものの、地方地域開発相時代には農村開発プロジェクト向けの15億リンギの公費を乱用した疑惑が浮上した。

 サラワク州も含めボルネオでは元は別の国だったものが戦後に半島部と合併したという歴史的背景もあって、半島部と距離をとって独自路線を歩む傾向が強く、実際半島諸州にはない多くの権限が認められている。一方で石油権益など、資源を半島側に奪われているとの不満の声も少なくない。シャフィー首相誕生となればボルネオの地位向上につながると期待する声も多いが、その一方で連邦に深入りすべきでないと慎重な意見も根強い。前述のようなシャフィー氏個人への不信感も根強くある。

 PHとの交渉が物別れに終わったことを受け、マハティール氏はPHへの再合流の可能性を否定。PHとは別の独立ブロックで活動していくと言明した。しかしこのまま総選挙に突入した場合、与党連合・国民連盟(PN)とPHとマハティール派の三つ巴になりかねず、PNを利することは明白。これを阻止するために再びPHとマハティール氏の間で何らかの妥協が図られる可能性はある。再びシャフィー氏の名前が浮上する可能性もある。

この記事を書いた人

飲料運転死亡事故の増加うけ罰則強化の動き強まる

 飲酒運転による重大交通事故が続発したことを機に、マレーシア政府の間で飲酒運転の罰則を強化しようという動きが強まっている。

 2015年以降、飲酒運転による事故は1,035件、死亡者数は618人に上っている。今年は年初5カ月で8人が飲酒運転が関連する事故で死亡したという。最近では5月3日未明にセランゴール州カジャンで、高速道路の料金所で検問をしていた警察官に44歳の男性が運転するピックアップ車が突っ込み、警察官が死亡する事故が発生。5月25日にはパハン州クアンタンで飲酒運転の車が逆走し1人がはねられて死亡した。5月29日には、クアラルンプール(KL)市内でハンドル操作を誤った乗用車が二人乗りのバイクに衝突、1人が死亡1人が重傷を負った。6月1日未明には同じKL市内でデリバリーサービスの二輪車に衝突。二輪車に乗っていた男性が死亡した。

 ここ数カ月の飲酒運転増加については新型コロナウイルス「Covid-19」拡大抑制のために導入された行動制限令(MCO)が影響しているとの見方もあるが、それはともかくマレーシアでは「1987年道路交通法」で飲酒運転の定義や罰則が規定されているものの、これが緩すぎるという批判の声は以前からあった。

 日本は呼気1リットル中のアルコール濃度が0.15ミリグラム(mg)、血中アルコール濃度は0.3mg/ml(0.03%)だが、マレーシアは呼気が0.35mg、血中が0.8mg/ml(0.08%)と二倍以上となっており、世界保健機関(WHO)が推奨する血中濃度0.5mg/ml(0.05%)を上回っている。

 現行のマレーシアの飲酒運転の罰則は1,000リンギ以上6,000リンギ以下の罰金、もしくは12カ月以下の禁固刑。死亡事故を起こした場合でも8,000リンギ以上2万リンギ以下の罰金、及び3年以上10年以下の禁固刑となっている。

 これに対し、カナダでは飲酒運転は刑事罰の対象であり、死亡事故を起こせば終身刑になる。英国でも死亡事故を起こした場合には14年の禁固刑に処される。台湾では、飲酒運転で死亡事故をおこした場合に殺人罪を適用できるよう法改正をめざしているという。

 前・希望同盟(PH)政権では政権発足当時から厳罰化に着手し、10万リンギ以下の罰金、20年以下の禁固刑に厳格化する方向で法改正目指していたが、今年2月の政変でPH政権が崩壊してしまい法改正プロセスが止まってしまった。

 3月に樹立された現・国民連盟(PN)政権のウィー・カション運輸相(マレーシア華人協会=MCA党首)も、PH政権と同様に飲酒運転によって重大事故を起こした場合の罰則を強化する方針を明らかにしており、6月半ばに改正法案の策定を終わらせ、7月13日に再開された今国会に提出する方針だとしている。

 

この記事を書いた人

「華人は金持ち」マハティール氏発言が波紋

 マハティール・モハマド前首相が先の香港メディアとのインタビューの中で、「マレーシアの華人は金持ち」と発言。華人の間から「誤解を招きかねない」と批判の声が上がっている。マハティール氏は「マレーシアの華人は裕福であり大多数が都市部に住んでいる。これは不健康な傾向」と述べた。 

 これに対し、さっそく与党連合・国民同盟(PN)に加わっているマレーシア華人協会(MCA)のウィー・カション党首が発言。「華人の所得水準が相対的に低下したことを示すデータがあるが、マハティール氏が故意にそれを無視しているのか、民族批判につなげようとしているのかどうかは分からない」とした上で、華人をそうしたステレオタイプで見るやり方は民族調和にとって有害だと批判した。

 マハティール氏の首相返り咲きを支持していた華人系野党・DAP所属のオン・キエンミン前副運輸相は、「農村=マレー系=貧困、都市部=華人=富裕」という印象自体が誤りだと指摘。7割のマレー系は都市部に住んでおり、富裕層に分類される世帯数では華人を上回っているなどと具体的数字を挙げてマハティール発言の誤りをただしてみせた。

 オン氏によると、2014年の統計における世帯収入が1万リンギを越えている世帯はマレー系は28万世帯あり、華人(24.4万世帯)を上回っている。下位40%を占める低収入世帯(B40)でみると、マレー系が73.6%と多数を占めるものの華人も17.5%いる。マレー系が総人口の69%を占めることからみると、決して多すぎるとはいえない。華人だマレー系だというよりむしろ「民族に関係なく貧富の差が拡大していることがマレーシアの実際上の問題である」というのは多くの社会問題専門家が指摘するところだ。

 たしかに華人がマレー系より相対的に金持ちだったといえる時代はかつてはあり、「華人は金持ち」論はブミプトラ(マレー人および先住民族の総称)政策などの「積極的差別是正措置」(アファーマティブ・アクション)実施の口実に使われてきた経緯がある。

 しかし次第に民族格差が少なくなってきたにも関わらず、既得権益に執着するマレー保守派を中心に、イメージ先行の「華人は金持ち」論は利用され続ける。最近ではマレー系政党が票田であるマレー有権者受けを狙って「華人は借家人」、「恩知らず」といった華人批判とセットで言及することが増えた。すでに行き過ぎた制度的逆差別でハンデキャップを背負わされている華人は、さらなる逆差別拡大を求めるマレー保守派の動きに神経を尖らせている。

 政権奪回を狙うマハティール氏があえて今こうした民族対立を煽るような発言を行なう真意は不明だが、一部のマレー保守派の有権者に受けるにしても、これまで同氏を支持してきたマレー・リベラル派や華人有権者からの反発を招きかねない。同氏は2月の突然の首相辞任に続いて野党の次期首相候補選びにおける混乱の中心人物でもあり、ただでさえ「わがままで面倒な老人」というイメージができつつある。今回の発言で評判がさらに下落するのは避けられそうもない。

この記事を書いた人

解散・総選挙実施論が浮上、ムヒディン首相の判断は?

 マハティール・モハマド前首相やアンワル・イブラヒム人民正義党(PKR)党首ら野党勢力がムヒディン・ヤシン政権打倒にむけて気勢を上げる中、与党・国民連盟(PN)構成党内からは解散・総選挙に打って出るべきとの声が高まりをみせている。

 気勢を挙げているとはいえ、本来なら合力すべきマハティール氏とアンワル氏は野党統一の首相候補の人選で対立しており、野党側の内部対立は簡単に解決しそうもない。

 一方で草の根ネットワークを国の隅々まで張り巡らしているPN構成党の統一マレー国民組織(UMNO)や汎マレーシア・イスラム党(PAS)は、国会における現有議席こそ少ないものの、一枚岩になりきれない野党側の状況をみて、いま直ちに総選挙を行なえば準備不足の野党に勝てると考えている。

 UMNOのモハマド・ハサン副総裁は先ごろ、政治的不安定な状況を解消するためとして総選挙の実施を主張した。実際UMNOとPASは6月初めにはすでに総選挙の準備にむけた会合を行ったとされ、両党の間で議席配分に関する交渉がかなり進んでいるという。

 では解散権をもつムヒディン首相本人の意向はどうかといえば、多くの政治アナリストはムヒディン首相が早期の解散・総選挙の要請に応じないと予想している。

 理由の一つはムヒディン首相率いる統一プリブミ党(PPBM)の内部対立だ。党内では草の根レベルで党会長職を追われたマハティール氏を支持する勢力が根強い。党内では一応ムヒディン氏支持で一致しているがマハティール氏はいまだに返り咲きを狙っており、ムヒディン体制は決して盤石ではない。

 マレーシア工科大学(UKM)のアズミ・ハッサン教授は、ただでさえ弱小勢力であるPPBMの内部対立が解消するまでは総選挙を回避するのではないかとみている。著名政治学者のウォン・チンフアット氏も同意見で、草の根組織、選挙組織が脆弱なPPBMにとって内部分裂している状況での総選挙実施は賢明ではないと指摘している。

 もう一つの問題は、PN政権の構造そのものにある。PPBMはPN構成党内で唯一、PH政権の生き残りであり、選挙の洗礼を受けていない現政権の正統性を示す存在でもある。だからこそ巨大勢力のUMNOやPASが弱小勢力であるムヒディン氏=PPBMを支えているわけだ。政治アナリストらは、ムヒディン内閣が解散・総選挙に追い込まれることになる、すなわち用なしになれば容赦なく牙を剥くと予想している。

 前出のウォン氏は、総選挙になった場合、PN構成党内で議席配分を行なう際にはPPBMはUMNOとPASに主導権を奪われることになり、前回総選挙のように50選挙区で候補を立てることは許されない立場に追い込まれるだろうと予想。たとえPNが選挙に勝ってもムヒディン首相の続投が認められないことになるだろうと述べている。

 ウォン氏は、選挙に勝っても先の見えないムヒディン氏にとっての最善の策が、議会改革を実施してPHの要求を受け入れPHとの停戦を模索することだと指摘。その方が「UMNOとPASに抹殺されるよりマシ」だとし、そうした穏健なやり方は政治的混乱を嫌う経済界や一般国民からも支持を集めるだろうと述べている。

 ウォン氏はさらに、UMNOとPASだけで過半数の議席を押さえることができないことにこそPPBMの活路があると指摘する。サバ・サラワク州の政党は、「最高落札額を提示した方になびく」傾向がありいつも日和見だ。真のPNの同盟者としてキャスティングボートの役割を担うことこそがムヒディン氏=PPBMの生き残る術だというわけだ。

この記事を書いた人

マレーシアの新型コロナ対策、成功のポイントは?

 まだ道半ばでありこの先もどうなるか予断を許さない新型コロナウイルス「Covid-19」との戦いだが、これまでのマレーシア政府の感染対策については国民から高く評価されているようだ。実際、6月23日時点でのマレーシアの累計感染者数は8,590人にとどまり、すでに8,186人が回復している。1日あたりの新規発生件数は10人前後に落ち着いており、累計死者数は121人でおさまっている。

 シンガポールのブラックボックス・リサーチとフランスのトルーナが23カ国・地域の1万2,000人を対象に共同実施したコロナ対策に対する国民の満足度調査によると、マレーシアは総合評価で58ポイントで4位。中国やベトナムには及ばなかったが優等生といわれたニュージーランド、台湾、タイ、韓国を上回った。日本はわずか16ポイントだった。

 また政治、経済、地域社会、メディアの4分野のうち、政府の対応を高く評価した人の割合は59ポイントで、台湾、タイ、韓国を上回った。何かと安倍内閣にシビアな国民が多い日本はわずか16ポイントだった。マレーシアはメディアに対する評価も93ポイントと高く、日本で高く評価された台湾を上回った。

 「国に医療危機に対する備えがない」との設問に同意したのは17%で、中国に次いで低かった。「医療危機に対する備えより軍事的備えがある」との設問に同意したのはわずか3%で、ニュージーランドと共に最も低かった。

 保健省のノール・ヒシャム事務次官が紹介した非営利組織、DNDi(顧みられない病気の新薬開発イニシアティブ)のリポートは、西側諸国の状況と比較すると、マレーシアなどのアジア諸国では感染と死亡を比較的低く抑える革新的で迅速な対策が行なわれたと指摘。「新しい治療法やワクチンなどのより高価なソリューションに投資する必要があることは明らかだが、基本的な感染対応に関する実務性とスピードが主要な要因」と分析している。

 感染対策の陣頭指揮をとってきたノール事務次官は先日、マレーシアのアプローチには、特定の国と比較して2つの重要な違いがあると指摘している。まず1つ目は、症状の有る無しにかかわらず陽性患者をすべて病院で隔離・治療するという方針で、他の国では例え陽性であっても無症状、もしくは症状が軽度の場合では自宅で隔離・治療されるが、マレーシアでは陽性の場合、症状がなくても病院で隔離する点が異なっているという。

 二つ目は、自宅であるか保健省の隔離センターであるかにかかわらず、海外から帰国した国民に隔離を義務付けている点。マレーシアへの帰国者は自宅隔離を受けることができるが、それでも隔離が義務づけられている点は変わらないと強調している。これらに加えてノール事務次官は、マレーシア政府が国境管理を厳しく行なっていることを挙げている。


この記事を書いた人