【人生の知恵・仕事の知恵】 Give a thought on reason by action

Give a thought on reason by action

★英語が苦手な理由

先日、日本の高校で英語を教えているカナダ人男性に生徒の英語力を尋ねたところ、

苦笑いして、”Just so, so”と話していました。

それを受けて、日本人の英語が苦手な理由として、以下のふたつを挙げました。

  • 英語の教科書が、現実的な会話に則していない。
  • 英語以外の日頃の授業でも、理由や根拠を考える風に教えられていない。

彼は、筆者の説明を受けて、「そういえば、畳のヘリを踏んではいけないというのでは、なんで?と尋ねたら、わからないと回答されたよ」と笑いながら話していました。

★ 根拠を知って動く外国人、動きながら考える日本人

  大正時代に日本で弓道を学んだドイツ人 オイゲン・ヘリゲルは次のように記しています。

  『日本人は、自分の語る事をヨーロッパではすべて言葉を手がかりに理解するほか

   道がないのだということに気がつかない。ところが日本人にとっては、言葉はただ

   意味に至る道を示すだけで、意味そのものは、いわば行間にひそんでいて、一度で

   はっきり理解されるようには決して語られもせず、結局はただ経験したことのある人間

   によって経験されうるだけである』

                              (『日本の弓術』より)

先述した事例を、わからないと回答した日本人の言外の意味は、「畳のへりを踏んでは

いけないということを説明できるほど経験を積んでいない」と言いたいのだと解釈できない

こともありません。

★根拠から発する

  一方で、日本人は根拠の説明をできるほど、それについて思いを馳せていないため、

  説明ができないのも現実です。

  マレーシアでも、現地社員に報連相や5S改善の大切さを説明できないのは、

日本で、いかに根拠や理由の共有がされないまま、会社で決まったことだからとか、

上司に言われたからで取り組んでいるかという証左だともいえます。

まずは、日本人自身が、日本人らしく経験を積み、根拠や理由に思いをはせることが

肝要です。

湯浅 忠雄(ゆあさ ただお) アジアで10年以上に亘って、日系企業で働く現地社員向けのトレーニングを行う。「報連相」「マネジメント」(特に部下の指導方法)、5S、営業というテーマを得意として、各企業の現地社員育成に貢献。シンガポールPHP研究所の支配人を10年つとめた後、人財育成カンパニー、HOWZ INTERNATIONALを立ち上げる。 【この記事の問い合わせは】yuasatadao★gmail.com(★を@に変更ください)

 

【総点検・マレーシア経済】第494回 2月の製造業生産指数、底打ちの兆し


第494回 2月の製造業生産指数、底打ちの兆し

4月8日、マレーシア統計局は2月の製造業生産指数を前年同月比1.7%増と発表しました。これで、1月の3.4%増に続いて、2ヶ月連続で前年同月を上回りました。先月より上げ幅が縮小していることから、景気の先行きは予断を許さないように見えますが、旧正月の時期のズレを考慮すると、数字よりも状況は良いことが分かります。

2024年の旧正月は2月10日、対して2023年の旧正月は1月22日でした。例年、旧正月の期間には製造業の生産は低下します。したがって、1月は2024年のほうが高い数値が出る傾向があり、2月は2023年のほうが高い数値が出る傾向にあることが分かります。

図1は2022年〜24年の内需向け製造業の生産指数の推移を見たものです。2024年1月は前年同月比8.0%増でしたが、2月は3.8%増にとどまっています。ただし、上記の傾向を踏まえると、2月の数字は実態より下振れしていると考えられ、内需向け製造業は引き続き好調であると言えます。

図2は2022年〜24年の輸出向け製造業の生産指数の推移を見たものです。2024年1月の1.6%増から2月は0.1%減となりました。ただ、これも2月の数字は本来はより高いはずで、旧正月期間にもかかわらず0.1%減にとどまったのは実質的にはプラス相当と評価できます。

図3は2022年〜24年の電子・電機産業の生産指数の推移を見たものです。2024年1月は0.9%増、2月は0.3%増となりました。これも、旧正月の時期を考慮すると、1月よりも2月のほうが状況が改善している可能性があり、電子・電機産業についても底打ちの傾向が見え始めたと言えます。

このところ、マレーシアの景気は内需が牽引し、輸出関連産業が弱い状況が続いていましたが、底打ちの兆しが見えてきました。4月19日に発表される3月の貿易統計が注目されます。

熊谷 聡(くまがい さとる)
Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。
【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp

【人生の知恵・仕事の知恵】Assigning task based on what he/she can do

Assigning task based on what he/she can do

★適材適所

先日、あるクライアントで部門責任者の交代がありました。明らかに適性を欠くと思われたので、本人に自覚を確認したところ、大丈夫ということでした。

しかし、上司の次の一言が引っかかり、再考するようにお願いしました。

「彼も、その立場になれば、役割を果たせるだろう。あとは部下たちが支えればいい」

★ミス配置は、最大のリスク

いうまでもなく、役職についてからパフォーマンスを期待するのではなく、そのパフォーマンスが期待できるから登用するのです。

しかし、例えば、人材がいないとか、急を要する時に、「あとは部下が支えれば良い」という部下に過度な負担を強いる人事をすれば、悪しき前例を作るだけではなく、能力不足の上司が基準となってしまいます。

★バーをあげる

人材を登用するとき、適任者がいないという状態を避けるためには、常日頃から、オール3のパフォーマンスを求めるのではなく、本人が少し背伸びをしないと届かないような仕事をやってもらう、あるいは挑戦するように仕向けることが肝要です。

普段から指示待ちの仕事しかしていない社員に、イニシアチブを取らないといけない仕事や、全体を見渡すような役割を求めることは、いくら本人ができると言ってもやらせるべきではありません(その組織が、そういう人を求めているなら別ですが。。。)

日頃から次の登用を考えた人材の育成が求められます。

【湯浅忠雄氏による社員研修がKLで開催!】
2024年4月22日(月)「報連相とPDCA」
2024年4月23日(火)「問題発見と解決の技法」
2024年4月24日(水)「中間管理者の使命と役割」
2024年4月25日(木)「日本人管理者のためのマネジメント研修」
開催時間:各9:00-17:00
使用言語:英語(25日のみ日本語)
会  場:SENTRO ( KL セントラル近くMENALA ALLIANZ38F )
問合せ先:yuasatadao@gmail.com
湯浅 忠雄(ゆあさ ただお)
アジアで10年以上に亘って、日系企業で働く現地社員向けのトレーニングを行う。「報連相」「マネジメント」(特に部下の指導方法)、5S、営業というテーマを得意として、各企業の現地社員育成に貢献。シンガポールPHP研究所の支配人を10年つとめた後、人財育成カンパニー、HOWZ INTERNATIONALを立ち上げる。
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【従業員の勤労意欲を高めるために】第872回:ライフスタイルとモチベーション(12)読書が異文化理解を高める?

第872回:ライフスタイルとモチベーション(12)読書が異文化理解を高める?

前回は、最近駐在員の方々に対して行ったアンケート調査の結果から、睡眠と食事が、文化的知性や心の知性を高めるうえで効果があることを紹介しました。今回も、このアンケート調査の結果の一部を紹介します。

8か国184人の日本人駐在員が参加したアンケート調査から得られたデータを分析したところ、睡眠や食事と同様に、趣味や学習を行う習慣が、文化的知性と相関することが示されました。この趣味・学習については、その実践により、幸福感の向上や健康の維持などの多面的な効果が期待できることが最近のシステマティックレビューで確認されています(Fancourt et al., 2021)。中には、読書が、他者への共感や認知能力を高めることを示す研究もあります。Kidd & Castano(2013)が行った、18歳から75歳までが参加した5つの介入研究では、小説などのフィクションを読むと、ノンフィクションや、大衆小説、或いは、まったく読まない群と比較して、感情的・認知的テストの成績が向上することが示されました。テストには、例えば、参加者に人の目の白黒写真を見せて、その人の感情を読み取るように求めるものがあります。この研究の結果は、非現実的な要素を含む文学や芸術に触れることで、他人の感情や信念を理解する能力が向上する可能性を示唆しています。

慣習によってステレオタイプ化された我々の社会的経験とは異なり、フィクションの多くは私たちの期待を混乱させます。そのため、読者は、登場人物の感情や考えを推測するために、より柔軟な解釈を行う必要があります。こうした負荷が、感情的・認知的効果の原因の一部にあると論文の著者らは考察しています。従って、こうした趣味を持つ駐在員が、現地の人々の顔の表情などから感情を読み取ることに長けていて、そのことで、異文化に対する学習意欲や知識が高まり易い状態にあったとしても不思議ではありません。皆さんも、何か趣味を持つようにすることで、従業員の気持ちが理解し易くなり、現地での経営もより行い易くなるかも知れません。


Fancourt, D., Aughterson, H., Finn, S., Walker, E., & Steptoe, A. (2021). How leisure activities affect health: a narrative review and multi-level theoretical framework of mechanisms of action. The Lancet Psychiatry, 8(4), 329-339. https://doi.org/10.1016/S2215-0366(20)30384-9
Kidd, D. C., & Castano, E. (2013). Reading literary fiction improves theory of mind. Science, 342(6156), 377-380.https://www.science.org/doi/10.1126/science.1239918 

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、東北大学客員准教授、国際経済労働研究所理事、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、産業創出学の構築に向けた研究に従事している。
この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

【イスラム金融の基礎知識】第541回:ウガンダ、初のイスラム銀行が開業

第541回:ウガンダ、初のイスラム銀行が開業

Q: ウガンダで初のイスラム銀行が誕生しましたが、経緯は?

A: ウガンダで同国初のイスラム銀行が創業、3月27日に大統領や隣国の外相を迎えてオープニング・セレモニーが華々しく実施された。この国にとって20年越しの目標達成ということになる。

ウガンダは人口4700万人ほどの東アフリカの国で、ムスリム人口比率は13.7%と少数派ながら、イスラム協力機構(OIC)の加盟国である。他方、経済面では1人当たりのGDPが2,200米ドル程度、銀行口座保有率が66%となっており、開発途上国であると言える。

イスラム金融をめぐっては、2002年にマレーシアで発足したイスラム金融機関の国際機関であるイスラム金融サービス会議(IFSB)にウガンダ中央銀行が加入するなど、かねてから関心を寄せていた。2016年から2023年にかけて具体的な法律や税制が改正され、イスラム銀行のライセンス制度が整えられた。この間、複数の事業者がイスラム銀行業に関心を示し、実際にOICから支援を受けて銀行を創業する動きがあったと大手メディアが報じたこともあった。2023年9月に初めてイスラム銀行業のライセンスを取得したのは、ジプチに本社がありケニアをはじめアフリカ諸国でイスラム銀行ビジネスを展開しているサラーム・グループである。ウガンダでもサラーム銀行という名称でビジネスを開始することになった。

式典に参加したムセベニ大統領は、イスラム銀行はすべてのウガンダ国民が宗教や民族にとらわれず平等に扱われるための手段であるとし、イスラム銀行を通じて「貧困と戦い、富を生み出すことを勧める」と語った。また現地のムスリム・コミュニティを代表してスピーチをしたイスラム法学者は、「大統領はこの国の少数派であるムスリムに配慮を示す良き指導者だ」と感謝を述べた。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【マレーシア・トレンド・ウォッチ】半導体サプライチェーンにおけるマレーシアの存在

半導体サプライチェーンにおけるマレーシアの存在

英語有力経済誌フィナンシャル・タイムズ電子版が3月11日に”Malaysia: the surprise winner from US-China chip wars”というタイトルの記事を配信しました。「米中半導体戦争での意外な勝利者はマレーシア」という趣旨です。同記事には米国への半導体輸出国について言及があり、2023年2月時点を示すグラフでマレーシアが20%を占めていることが示されました。2位は台湾15.1%、3位ベトナム11.6%、4位タイ8.7%、5位韓国7.5%であり、日本は7位で3.5%でした。中国は6位で4.6%となっていますが、今後、米中の半導体戦争が継続する限りは減っていく可能性が高そうです。

マレーシアは半導体サプライチェーンの一角を形成していましたが、今回のように米国という重要市場に対してマレーシアが1位となることは、記事タイトルのとおり「surprise」と言えそうです。もちろん、半導体関連といっても幅があります。先進国には、いわゆる「川上」にあたる半導体素材や「川中」の製造設計が集中します。半導体素材は日本や韓国が強く、設計は台湾STMCのような会社が強くなっています。マレーシアは「川下」に当たる半導体産業が殆どです。

このようにマレーシアでの半導体産業が盛り上がっている理由は、これまでに一定の理工系人材を育ててきたことや投資環境の良さ、そして、長年の半導体を含めた製造業の産業集積を経ているからです。人口が3,000万人の中規模であるため、インドネシアやベトナムといった億単位の人口のある国に比べると、目立ち難い存在と捉えられてしまいがちです。大手IT企業のマレーシアへの投資ニュースは、NDVIAを始めとして続いており、今後、半導体サプライチェーンにおけるマレーシアの役割がより高まっていきそうです。

※本連載の内容は著者の所属組織の見解を代表するものではなく、個人的な見解に基づくものです。

川端 隆史(かわばた たかし)
マレーシア研究者。1976年栃木県生まれ。東京外国語大学マレーシア専攻卒業。1999 年から2010年まで外務省に勤務し、在マレーシア日本国大使館、 国際情報統括官組織などを歴任。2010年11月から15年7月までは SMBC日興証券でASEAN担当シニアエコノミスト。2015年8月に ソーシャルメディアNewsPicksと経済・産業情報プラットフォームSPEEDAを手がけるユーザベースに転身、2016年3月から同社シンガポール拠点に駐在。2020年12月から2023年3月まで米国リスクコンサルティングファームのクロールのシンガポール支社に勤務。共著書に「マハティール政権下のマレーシア」、「東南アジアのイスラーム」、「東南アジア文化辞典」がある。この記事のお問い合わせ は、takashi.kawabata★gmail.comまで(★を@に変更ください)

【人生の知恵・仕事の知恵】Enhance pockets of effective guidance

Enhance pockets of effective guidance

★相談へのアドバイス

先週、某国某社で報告の受け方について、マネージャー及びスーパーバイザーを対象にケーススタディーを使ってワンオンワンの研修を行いました。

ケースの一つとして、同じミスを繰り返す部下をどのように指導したら良いかという相談についてこたえるものを用意しました。作業書などの改善をアドバイスする受講者に対して、以下のように伝えました。

「作業書の改善も必要かもしれませんが、ミスの繰り返しを無くすことを保証するものではありません。」

もう一つのアドバイスとして、現場での具体的な指導が求められます。

 

★現場での指導を促す工夫

マレーシアも含めて海外では、日本のような部下指導の発想は皆無です。もしも部下の仕事力が基準にそぐわないのであれば、先述した通りマニュアルの改善をするか、もしくはそれもダメな場合は教育を担当する人事に下駄を預けるというのが一般的です。

なぜ、現場での上司からの直接指導が大切なのか、現地の上司にまず理解してもらう必要があります。

 

★フレーズの工夫

先週の別の研修では、部下へのフィードバックの方法の一つとして、If I were you という言い方をアドバイスしました。

直接部下に指示や指導をすることを苦手とする現地の人たちには、向いている表現でしょう。部下へのフィードバックのレパートリーを増やすことで部下への指導に幅を持たせることも、マニュアル指導からの脱却に有効です。

【湯浅忠雄氏による社員研修がKLで開催!】
2024年4月22日(月)「報連相とPDCA」
2024年4月23日(火)「問題発見と解決の技法」
2024年4月24日(水)「中間管理者の使命と役割」
2024年4月25日(木)「日本人管理者のためのマネジメント研修」
開催時間:各9:00-17:00
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湯浅 忠雄(ゆあさ ただお)
アジアで10年以上に亘って、日系企業で働く現地社員向けのトレーニングを行う。「報連相」「マネジメント」(特に部下の指導方法)、5S、営業というテーマを得意として、各企業の現地社員育成に貢献。シンガポールPHP研究所の支配人を10年つとめた後、人財育成カンパニー、HOWZ INTERNATIONALを立ち上げる。
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【従業員の勤労意欲を高めるために】第871回:ライフスタイルとモチベーション(11)駐在員にとって大事な睡眠と食事

871回:ライフスタイルとモチベーション(11)駐在員にとって大事な睡眠と食事

前回は、良いライフスタイルを維持することで、健康が維持されるというお話でした。今回は、1月にマレーシアBIZナビ・ウィークリーの読者の皆さんに協力いただいたアンケート調査の結果の一部をご紹介します。

今回の研究では、ライフスタイルに関する7つの変数を盛り込みました。このうち、睡眠と食事が、文化的知性や心の知性を高めるうえで特に効果的であることが示されました。睡眠の質は、報酬の期待値と関連しています。そのため、睡眠不足の人は、そうしないことで得られる報酬を正しく評価できないことで、簡単に仕事を休んだり、予定や会議をキャンセルしたり、社会活動をサボったりしてしまいます(Palmer & Alfano, 2017)。こうした経験を繰り返す駐在員であれば、感情を利用したり、ストレスに耐えるような能力の不足を自覚したりしていても不思議ではありません。

また、食事のバランスは、認知やエピソード記憶と関連しています(Guasch‐Ferre & Willett, 2021)。エピソード記憶とは、時間や場所、そのときの感情を含むイベントの記憶のことです。そのため、食生活の不健康な人が、異文化体験やその時の感情の具体的な記憶が曖昧になり易く、そのことで、異文化についての知識や興味が下がり、また交流の際に適切な行動を取ることを苦手と感じていても不思議ではありません。

一方、運動は、今回の研究では文化的知性や心の知性との相関が見られませんでした。運動は、自制心や向社会的行動、対人コミュニケーションなどにポジティブな効果があること、また、個人で行うよりもチームで行うほうが効果が大きいことなどが、システマティックレビューで確かめられています(Teixeira et al., 2012)。しかし、しばしば差別を受けた少数民族が民族的な誇りを取り戻すためにスポーツチームに参加するように(Thorpe et al., 2014)、現地に馴染めない駐在員が日本人駐在員主催のスポーツコミュニティに参加し、そのことで、チーム内の団結心の向上と引き換えに、現地の文化への興味や、文化を相対的に見るためのメタ認知の発達を遅らせている可能性も考えられます。こうしたメリットとデメリットが打ち消し合うことで、サンプル全体としては文化的知性や心の知性との相関が確認できなかったのかも知れません。

現地との交流の妨げにならない限り、健康なライフスタイルは脳の働きを高め、現地経営に良い影響を与えます。皆さんも心がけてみてはいかがでしょうか。

Guasch‐Ferre, M., & Willett, W. C. (2021). The Mediterranean diet and health: A comprehensive overview. Journal of internal medicine, 290(3), 549-566. https://doi.org/10.1111/joim.13333
Palmer, C. A., & Alfano, C. A. (2017). Sleep and emotion regulation: An organizing, integrative review. Sleep medicine reviews, 31, 6-16. https://doi.org/10.1016/j.smrv.2015.12.006
Teixeira, P. J., Carraca, E. V., Markland, D., Silva, M. N., & Ryan, R. M. (2012). Exercise, physical activity, and self-determination theory: a systematic review. International journal of behavioral nutrition and physical activity, 9, 1-30. https://doi.org/10.1186/s13643-023-02264-8
Thorpe, A., Anders, W., & Rowley, K. (2014). The community network: an Aboriginal community football club bringing people together. Australian journal of primary health, 20(4), 356-364. https://doi.org/10.1071/PY14051

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、東北大学客員准教授、国際経済労働研究所理事、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、産業創出学の構築に向けた研究に従事している。
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【総点検・マレーシア経済】第493回 マレーシアの2月の輸出は0.8%減、回復は確信できず

第493回 マレーシアの2月の輸出は0.8%減、回復は確信できず

3月18日、統計局はマレーシアの2024年2月の輸出を前年同月比0.8%減と発表しました。1月の輸出は8.7%増と11カ月ぶりのプラスに転じましたが、2月には再び前年同月を割り込みました。製造業の輸出は2.4%減、最大の輸出品目である電気・電子産業の輸出は前月の6.5%減から9.8%減へと下げ幅を拡大し、増加に転じる気配がありません。

図1〜3はそれぞれ中国、米国、シンガポール向けのマレーシアの2022〜24年2月の月別輸出の絶対額の推移を示したものです。2024年(青線)の中国向けの輸出は、1月、2月共に2022年(灰線)、2023年(黄線)を下回っており、ここ3年で最も低調な状況です。一方で、2024年米国向けの輸出は、1月、2月共に過去2年を上回って推移しており、堅調さを維持しています。シンガポール向けの輸出は1月は前年並みでしたが、2月は前年同月比15.2%減となりました。ただ、これには旧正月の時期(2024年は2月10日、2023年は1月22日)が関係している可能性があり、本当に悪いかは3月の数字を待つ必要があります。

こうした推移により、マレーシアの輸出先上位3カ国向けの輸出額はかつてないほど拮抗してきています。2022年2月には中国向け輸出を100とするとシンガポールが95、米国が68でした。2023年2月にはシンガポールを100とすると、中国向けが78、米国向けは67となっていました。2024年2月にはシンガポールを100とすると、中国向けが91、米国向けが87となっています。このところ非常に好調だったシンガポール向けが減少する一方で、米中が接近しています。2022年2月には中国向け輸出は米国向けの約1.5倍あったことを考えると、マレーシアの輸出先としての米中のバランスは大きく変化してきており、逆転も考えられる状況です。

熊谷 聡(くまがい さとる)
Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。
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【イスラム金融の基礎知識】第540回:モロッコの宗教大臣の発言が波紋

第540回:モロッコの宗教大臣の発言が波紋 

Q:モロッコの宗教大臣のイスラム金融に関する発言が波紋を呼んでいますが、論点は?

 

A:モロッコの宗教大臣による「銀行利子は、すべてが禁じられているわけではない」との発言が波紋を呼んでいる。イスラムでの銀行利子の論点が改めて表面化した。

注目を集めているのは、モロッコのアフメド・トゥーフィク宗教大臣の発言だ。宗教大臣は、歴史学者兼小説家にして、大学でイスラム研究も行ってきた人物であり、2002年から大臣職を務めている。3月15日に王室主催のラマダン月講演会にて「首長国制度の刷新」という演題で登壇した大臣によれば、「コーランが禁じたのは、借金が返済できなくなった負債者を奴隷化するような高金利や複利を指す」とし、そこまで重くはない利息ならば認められるとした。また、わずかな利息も認めないイスラム法学者に対して「(従来型銀行を利用する)信徒の良心を傷つける」と批判した。

この発言に対しモロッコ国内のイスラム法学者は反発、著名なハッサン・ケッターニ師は自身のFacebook上で反論を掲載、「高金利は禁じられると言いながら実際には国内の銀行で課されている」とし、「これが宗教の刷新なのか」と大臣の発言を強く批判している。

しばしば「イスラムは銀行利子を禁じている」と言及されることがあるが、正確には「銀行利子は禁じられたリバーに該当するか」について、全ての銀行利子は禁じられているとの主張と、高金利や複利のみ禁じられるとの主張という、相反する二つの主張が存在する。イスラム銀行は前者に基づく一方、後者が従来型銀行を支えており、多くのイスラム諸国で両銀行が併存している。さらに後者の場合、「高金利とは具体的に年利何%以上なのか」が社会経済の状況に応じて変化するため、争点の対象となりやすい。今回のモロッコの議論も、こうした立場の違いが表面化したといえる。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。