【人生の知恵・仕事の知恵】Think out of the pattern

Think out of the pattern

★なぜなぜ分析の傾向

先日のマレーシアでの某社研修でなぜなぜ分析を行った時のことです。

なぜを繰り返し追求する途中で、「人材不足」を原因としたところから、分析が止まってしまいました。

マレーシアを含め、諸外国でなぜなぜ分析を行うと、決まってというほどit is human problemと結論づけ、「人間は完璧ではない」というアリバイ作りに陥りがちです。

★人の問題に帰結させる理由

方法論を掘り下げない傾向の理由は、良く言えば個人攻撃をしたくない心理状態ともいえますし、意地悪くいえば、責任を取りたくないという意識も働いています。

従って、なぜなぜ分析を行うにあたっては「これは誰かの責任を問うために行うわけではありません」と説明します。

実際、そうして説明をしてなぜなぜ分析を行い、意外な原因を発見できることができると、受講者のなぜと問いて原因を掘り下げることへ理解も深まります。

★並行して教えること

現地社員が方法論をなぜと掘り下げない別の理由は、マニュアルをベースに仕事をする傾向が強いからです。マニュアルが常に完璧という前提であるため、仕事で失敗をすれば、人の責任になりがちで、仮にマニュアルが問題とすれば、それを修正するのは、マネジメントの責任という発想になります。

しかし、なぜと問いて発見する喜びを味わえれば、仕事に向き合う姿勢も変わります。

なぜなぜ分析の目的は、問題の根本原因の発見を通して、仕事の成果は、自らのやり方次第で帰られることに気がつくことです。

湯浅 忠雄(ゆあさ ただお) アジアで10年以上に亘って、日系企業で働く現地社員向けのトレーニングを行う。「報連相」「マネジメント」(特に部下の指導方法)、5S、営業というテーマを得意として、各企業の現地社員育成に貢献。シンガポールPHP研究所の支配人を10年つとめた後、人財育成カンパニー、HOWZ INTERNATIONALを立ち上げる。 【この記事の問い合わせは】yuasatadao★gmail.com(★を@に変更ください)

 

 

【総点検・マレーシア経済】第503回 ゆっくりと高度化するマレーシア経済

第503回 ゆっくりと高度化するマレーシア経済

マレーシア政府は現在、高所得国入りを目指して新産業マスタープラン2030(NIMP2030)などを定め、産業の高度化を進めています。1971年の新経済政策(NEP)以来、マレーシア政府は雇用創出を重視し労働集約的な産業を好ましい産業として誘致してきました。しかし、1990年代に入って人手不足が深刻化すると、第7次マレーシア計画(1996-2000年)で知識経済・高付加価値産業の移行を打ち出しました。

2000年代には資源ブームもあって産業高度化は停滞しましたが、ここ10年、再び産業の高度化がゆっくりと進みつつあるとの印象を筆者は受けています。8月上旬にはそうした近年のマレーシア経済を象徴するニュースが相次ぎました。

8月8日、独の半導体メーカーであるInfineon社がクダ州クリムの第3工場の開所式を執り行いました。200mm径のSiCウエハーが製造されますが、これは主に電気自動車用のパワー半導体などに用いられます。これは、いわゆる前工程に属するもので、クリム第3工場は同社が2022年2月に発表した20億ユーロ(3200億円)の工場拡張計画に対応するものです。今後、同社はさらに5年間で50億ユーロ(8000億円)を投じて工場を拡張することを発表しています。

同日、米国の新興電池企業Enovix社はペナン州サイエンスパーク内に同社初の蓄電池の量産工場を開設し、今後15年間にわたり、12億米ドル(1700億円)を投じることを発表しました。同社は小型高性能バッテリーの生産技術を持つ企業で、製品はスマートフォンやIoTデバイス向けに用いられることが想定されます。

さらに同日、中国の奇瑞(チェリー)汽車はスランゴール州シャーアラム工場からASEANに向けた自動車の輸出を年末までに開始し、マレーシアをASEANの自動車生産・輸出ハブにすることを発表しました。同社は10億リンギ(320億円)を投じてマレーシアでの生産能力を拡張することを発表しています。また、同社はシャーアラム工場を右ハンドル車のハブとし、R&D機能を持たせることを計画していると伝えられています。

7月31日、世界銀行はスランゴール州の一人当たり所得が14,291米ドルに達し、世銀の高所得国の基準である14,005米ドルを上回ったことを発表しました。これで、州レベルで高所得国入りの基準を超えているのは、KL、ペナン、サラワクに続いて4つ目となりました。

このように、マレーシア経済はゆっくりとではありますが、確実に産業高度化に向けて進みつつあると言えるでしょう。

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp

【イスラム金融の基礎知識】第550回:イギリスの三タイプのイスラム式住宅ローン

第550回:イギリスの三タイプのイスラム式住宅ローン

Q: イギリスのイスラム式住宅ローンで人気のタイプは?

A: イギリスでは、マレーシアと同様に銀行やノン・バンクからイスラム式で住宅ローンを組める。同国の情報サイトが、住宅購入プラン(HPP)と呼ばれる三つの主要な住宅ローンの特徴と違いを解説している。

イスラム金融機関は、銀行利子に代わり独自の方法を用いる。その際、伝統的な契約形態の名称がそのまま融資の呼び名に採用されている。HPPではムシャーラカ、イジャーラ、ムラーバハの三つの融資が主に用いている。

もっとも多く利用されている手法が、ムシャーラカ契約に基づくHPPだ。これは、まず初めに金融機関と利用者が住宅を共同購入し、その後利用者が金融機関の持分を分割で買い取ることにより、完済後に住宅は利用者のものになる。共同購入時に住宅価格の一部を利用者が負担することで、結果的に頭金として機能するが、住宅価格の5%から20%を利用者が最初に支払うのが標準的とされる。

次に利用されるのがイジャーラ契約に基づくHPPだ。これは、イスラム金融機関が購入した住宅を利用者にリースするもので、利用者からみれば賃貸に相当する。この方法では、利用者は対象住宅を所有できない。ただし、賃貸期間後に中古住宅として利用者が買い取ることも可能である。この方法は、マレーシアではAITABと呼ばれている。

3番目の方法がムラーバハ契約に基づくHPPだ。これは、イスラム金融機関が住宅を購入し、購入原価に金融機関の利益を上乗せした価格で、利用者に割賦販売を行う方法である。イギリスでは、この方式は商業用地・不動産開発に用いられる一方、個人向け住宅で用いられることは多くないという。

イギリスではムシャーラカ融資が主流だが、マレーシアではムラーバハ融資が中心だ。同じ東南アジアでも、インドネシアではどちらかといえばイギリスに近い。国や地域によって、考え方や特性に差があるようだ。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【従業員の勤労意欲を高めるために】第881回:高齢化社会との向き合い方(8)ICTの普及はリスクを伴う

第881回:高齢化社会との向き合い方(8)ICTの普及はリスクを伴う

前回は、ICTの普及が高齢者の孤立を防ぐ可能性があるというお話でした。しかし、良い話ばかりではないようです。Parti(2023)が米国で行ったアンケート調査に基づく研究の結果は、ICTの普及により、高齢者が犯罪に巻き込まれるリスクが高まる可能性があることを示しています。具体的には、ICTの使用時間が長く、ICTのスキルに自信のある高齢者ほど、オンライン詐欺に巻き込まれるリスクが高いことが示されました。詐欺に遭うくらいなので、この「自信」は、技術に裏づけられたものではなく、「過信」に過ぎないものです。そのため、既に退職した高齢者よりも、ICTを使用する機会の多い、現役で仕事をしている高齢者のほうが詐欺に遭い易い傾向がありました。また、被害に遭った経験のある高齢者は、被害の後もクレジットカードの凍結などの対策を講じない傾向にありました。

さらに、被害があったことを親しい家族などに報告しない人も少なくありませんでした。被害にあったことを周囲に打ち明けない理由についてアンケート調査の結果は明らかにしていませんが、論文の著者は、不注意を責められることを恐れて打ち明けられない高齢者が少なくない可能性を論じています。被害を打ち明けられないことは、それだけ周囲が気づいてあげられないことを意味し、将来のより大きな被害を招く原因にもなります。

このように、高齢者へのICTの普及は、便利さや幸福感をもたらすという良い側面がある一方、被害に巻き込まれ易くなるという悪い側面があります。従って、高齢者がICTを習得する際には、彼らが誤った利用をしないように適切な指導を行ったり、利用において生じる悩みを気軽に打ち明けたりできるように、家族や職場の上司などの周りの人間と信頼関係を構築することが必要です。

Parti, K. (2023). What is a capable guardian to older fraud victims? Comparison of younger and older victims’ characteristics of online fraud utilizing routine activity theory. Frontiers in Psychology, 14, 1118741. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2023.1118741

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、東北大学客員准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、産業創出学の構築に向けた研究に従事している。
この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

【人生の知恵・仕事の知恵】Assign task with appropriate message

Assign task with appropriate message

★謝る

先日の某日系企業社とのオンライン研修で、欧米企業から転職してきたシンガポール人男性の受講者が、顧客に謝ることについて、「間違いをうっかり認めてしまえば、のちに不利益を被る可能性もありますので、謝ることは慎重にします」と意見を述べました。

それに対して筆者からは、こうコメントをしました。
「もちろん、むやみに謝る必要性はありませんが、誰が何に対してという点を明確にして謝ることで、不利益を被ることはないと思いますよ。謝る云々よりも、顧客を満足させることを第一義に考えるべきです」

 

★使命を知る

以前、シンガポールの日本語ラジオで「松下幸之助に学ぶ 人生の知恵 仕事の知恵」という番組を持っていた時、リスナーの質問にこたえるコーナーがありました。

ある時、以下の質問が寄せられました。

「現在、カスタマーサービスセンターに勤めています。いつも謝ってばかりで面白くありません。上司にそう話すと、「謝って給料をもらえるのだから楽な仕事だよ」と言われました」

そこで、筆者はこう答えました。

「あなたの仕事は謝ることではありませんよ。あなたの仕事は、より良い商品やサービスを実現すための顧客サービスの仕事です。従って、あなたの仕事は聴くことですよ」

 

★イメージできる期待を伝える

松下幸之助は、月刊誌PHPについて、2冊買いたくなる雑誌を作りなさいといつも指導していました。
つまり、「1冊は自分のため、もう1冊は誰かに読んでもらうため」ということです。
上司の仕事の一つは、部下にどのような仕事を望むかを適切に伝えることです。

 

湯浅 忠雄(ゆあさ ただお) アジアで10年以上に亘って、日系企業で働く現地社員向けのトレーニングを行う。「報連相」「マネジメント」(特に部下の指導方法)、5S、営業というテーマを得意として、各企業の現地社員育成に貢献。シンガポールPHP研究所の支配人を10年つとめた後、人財育成カンパニー、HOWZ INTERNATIONALを立ち上げる。 【この記事の問い合わせは】yuasatadao★gmail.com(★を@に変更ください)

 

【総点検・マレーシア経済】第502回 マレーシアの2024年第2四半期のGDP成長率、6%前後か

第502回 マレーシアの2024年第2四半期のGDP成長率、6%前後か

7月19日、マレーシア統計局は2024年第2四半期のGDPの事前予測値を前年同期比5.8%増と発表しました。これは、第1四半期の4.2%から大幅に伸びており、8月16日に発表される実際の数値もこれに近ければ、通年成長率の政府予測のである4.0%〜5.0%の達成が確実になるとともに、それを上回る可能性も出てきます。

産業別に見ると、製造業は第1四半期の1.9%増から4.7%増に、サービス業は第1四半期の4.7%増から5.6%増へと加速しています。建設業については、第1四半期の11.9%増から17.2%増と非常に高い伸びを示すことが予想されています。

統計局は8月9日には6月の製造業生産指数を前年同月比5.2%増(5月:4.6%増)と発表し、結果、第2四半期の同指数は4.9%増(第1四半期:2.1%増)となりました。前日の8月8日には6月の卸売・小売り数量指数が発表され、前年同月比4.5%増(5月:5.7%増)となりました。結果、第2四半期の同指数は6.7%増(第1四半期:4.5%増)となっています。

こうした結果を踏まえると、マレーシアの2024年第2四半期のGDP成長率は事前予測値の5.8%を上回り、6%台に乗ること可能性もあると筆者は考えます。マレーシア経済が好調な理由としては、サービス業の伸びが堅調なことに加え、輸出型製造業の回復によって製造業全体も好調になっていることがあげられます。

図は2023年1月〜24年6月までの製造業生産指数の推移です。6月の輸出型製造業の生産指数は前年同月比5.4%(5月:3.7%)となり、内需型製造業の4.6%(5月:6.4%)を上回りました。輸出型製造業の伸びが内需型を上回るのは2022年11月以来、実に1年7ヶ月ぶりとなります。

マレーシアの輸出の主力である電子・電機産業の生産指数が5月の6.9%増から6月には3.7%増へと下落していることが気になるものの、現在のところ、マレーシアの景気は内外需とも概して好調といえるでしょう。

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp

【イスラム金融の基礎知識】第549回:インドネシアの有力イスラム団体が巨額資金を移動

第549回:インドネシアの有力イスラム団体が巨額資金を移動

Q: ムハマディアの動向がインドネシアのイスラム銀行市場で注目を集めているようですが?

A: インドネシアの有力イスラム団体が1,200億円以上の預金を特定のイスラム銀行から引き上げたことに、注目が集まっている。社会貢献活動を活性化させ、イスラム銀行の買収や新銀行設立も取り沙汰されている。

今回の騒動の中心は、インドネシアで2番目に規模が大きいイスラム団体であるムハマディアだ。ムハマディアは、1912年設立の近代改革派グループで、1926年に設立された最大の保守派団体ナフダトゥル・ウラマーにつぐ勢力である。ムハマディアは、社会活動に力を入れており、数多くの学校や病院を運営していることで知られている。

そのムアマディアが6月、インドネシア最大のイスラム銀行であるバンク・シャリア・インドネシア(BSI)から、約13兆ルピア(約1,265億円)の預金を引き下ろして、他のイスラム銀行に分散させたことが明らかになった。BSIの2024年第1四半期の財務諸表によれば、同行が引き受けていた預金残高は70兆ルピアであることから、実にその18%が引き下ろされた計算になる。

今回の措置の理由についてムハマディア関係者によれば、一つは預金を集中させることで生じるリスクを分散させることと、もう一つは代わりに預金を引き受けた他行が融資を積極的に行うことで、多様な社会貢献が行なえるとしている。またこの措置は、BSIが2021年に合併した当時から検討していたとしている。

インドネシア金融庁(OJK)は7月、ムハマディアがより直接的に銀行業に参画できるよう、銀行買収や新銀行設立を支援することを明らかにした。13兆ルピアは、イスラム銀行の総資産トップ10入りできる規模である。巨大な資金を持つイスラム団体が自ら銀行を運営するという、新しい局面も視野に入りそうだ。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

 

【人生の知恵・仕事の知恵】Working hard is only option

Working hard is only option

★ワークライフバランス

先日、米系企業から日系企業に転職してきたシンガポール人が欧米とアジアでの働き方の違いについて以下のように語っていました。

「欧米企業では、休みの日に仕事の連絡をすることは決して許されていません。
連絡を取れば、まるで野蛮人のような扱いを受けます」

最近は、日本の企業でもワークライフバランスがリスペクトされますので、休日に
連絡をしてはいけないという決まり事は、日本人の間でも違和感を持って受け止め
られることはありません。

むしろ、日本は以前に比べると休日が増えたと思うことが増えました。

★頂点が下がった

すっかり働き方が欧米化した現代日本から新赴任者がアジアの国々に来ると、アジアの人々が、意外と長時間働くことに驚かれます。

筆者が現地法人の責任者だった25年前でも、緊急時には、土日に連絡を取り合うことは当たり前でした。

もっとも当時は、日本人の方がよく働いていたので、ローカルスタッフの働きぶりに
物足りなさを感じました。

今の時代は、日本人が働かなくなったので、ローカルスタッフがよく働くように見える
だけかもしれません。

★ワークスマートという神話

よく、ワークハードよりもワークスマートであると言われます。しかし、現実には、
ワークハードしかありません。そもそもワークスマートという言葉自体が、言葉遊びの
域を出ないものであり、その言葉の罠にはまれば、大切な時期を、仕事力を向上できない
まま終えていきます。

以前ある日本人の社員に、「人間一回、死ぬ気で働くことも大切ですよ」と話したら、
「生命の方が大切です」と返され呆れてしまいました。

日本人の強みは勤勉であることです。忘れてはいけません。

湯浅 忠雄(ゆあさ ただお) アジアで10年以上に亘って、日系企業で働く現地社員向けのトレーニングを行う。「報連相」「マネジメント」(特に部下の指導方法)、5S、営業というテーマを得意として、各企業の現地社員育成に貢献。シンガポールPHP研究所の支配人を10年つとめた後、人財育成カンパニー、HOWZ INTERNATIONALを立ち上げる。 【この記事の問い合わせは】yuasatadao★gmail.com(★を@に変更ください)

 

 

【従業員の勤労意欲を高めるために】第880回:高齢化社会との向き合い方(7)ICTの普及が高齢者の孤立を防ぐ可能性について

第880回:高齢化社会との向き合い方(7)ICTの普及が高齢者の孤立を防ぐ可能性について

前回は、エイジズム、すなわち年齢を理由とした差別が、今後、高齢化速度の低下に引きずられるようにして年を経るごとに弱まる可能性が高いことを述べました。そういえば、一頃に比べると「老害」という言葉を耳にすることが少なくなったように思いませんか?これも、渡る世間が高齢者ばかりになったことで、高齢者を敵に回すことのリスクが高まったためかも知れません。

しかし、高齢者が差別されない世の中が、常に高齢者にとって生き易い世の中を意味するのでは無いようです。今日、多くの高齢者にとって「社会的孤立」が問題となっています。社会的孤立は、退職や、パートナー・友人の死亡などにより生じ(Savikko et al., 2005)、時には、認知機能の低下や、精神的および身体的健康の低下(Cacioppo & Cacioppo, 2014)、深刻な場合には自殺などの死亡リスク(Holt-Lunstad et al., 2013; Steptoe et al., 2013)をもたらすことがあります。このうち、精神的および身体的健康の低下には、「うつ」が含まれます。今日、うつは、ニュータウン在住の高齢者の3分の1に認められたことを示す研究があるなど、広く見られる病気です(安野、2024)。

この問題を解決する可能性がある技術の一つが、情報通信技術(ICT)です。先行研究では、インターネットの使用が高齢者の認知機能にプラスの影響を与えることや(Kamin & Lang, 2020)、うつ病のリスクを減少させることが示されました(Cotton et al., 2014)。また、スマートフォンの使用レベルが高い高齢者の抑うつ症状が少ないことを示す研究もあります(Ji et al., 2023; Keane et al., 2013; Chang & Im, 2014)。考えられる理由は、インターネットやスマートフォンが、家族や友人との定期的な連絡を可能にしたり、医療サービスや娯楽、学習機会等のリソースへのアクセスの機会を増やしたりするのに役立つことが挙げられます。

しかし、ICTの普及は、高齢者が犯罪に巻き込まれるリスクを高めるなど、負の側面もあります。ICTをどのように高齢者に教えればいいのか、或いは、どのようにICTから高齢者を守ればいいのかは、近年の研究の蓄積が進みつつある領域です。次回に続きます。

 

安野史彦(2024).高齢者「うつ」の原因は?国立研究開発法人国立長寿医療研究センター.https://www.ncgg.go.jp/hospital/navi/15.html (アクセス日:2024年8月2日)

Cacioppo, J. T., & Cacioppo, S. (2014). Social relationships and health: The toxic effects of perceived social isolation. Social and Personality Psychology Compass, 8(2), 58-72. https://doi.org/10.1111/spc3.12087

Cotten, S. R., Ford, G., Ford, S., & Hale, T. M. (2014). Internet use and depression among retired older adults in the United States: A longitudinal analysis. Journals of Gerontology Series B: Psychological Sciences and Social Sciences, 69(5), 763-771. https://doi.org/10.1093/geronb/gbu018

Holt-Lunstad, J., Smith, T. B., & Layton, J. B. (2010). Social relationships and mortality risk: a meta-analytic review. PLoS Medicine, 7(7), e1000316. https://doi.org/10.1371/journal.pmed.1000316

Ji, R., Chen, W. C., & Ding, M. J. (2023). The contribution of the smartphone use to reducing depressive symptoms of Chinese older adults: The mediating effect of social participation. Frontiers in Aging Neuroscience, 15, 1132871. https://doi.org/10.3389/fnagi.2023.1132871

Kamin, S. T., & Lang, F. R. (2020). Internet use and cognitive functioning in late adulthood: Longitudinal findings from the Survey of Health, Ageing and Retirement in Europe (SHARE). The Journals of Gerontology: Series B, 75(3), 534-539. https://doi.org/10.1093/geronb/gby123

Savikko, N., Routasalo, P., Tilvis, R. S., Strandberg, T. E., & Pitkälä, K. H. (2005). Predictors and subjective causes of loneliness in an aged population. Archives of Gerontology and Geriatrics, 41(3), 223-233. https://doi.org/10.1016/j.archger.2005.03.002

Steptoe, A., Shankar, A., Demakakos, P., & Wardle, J. (2013). Social isolation, loneliness, and all-cause mortality in older men and women. Proceedings of the National Academy of Sciences, 110(15), 5797-5801. https://doi.org/10.1073/pnas.1219686110

 

國分圭介(こくぶん・けいすけ)
京都大学経営管理大学院特定准教授、東北大学客員准教授、機械振興協会経済研究所特任フェロー、東京大学博士(農学)、専門社会調査士。アジアで10年以上に亘って日系企業で働く現地従業員向けの意識調査を行った経験を活かし、産業創出学の構築に向けた研究に従事している。
この記事のお問い合わせは、kokubun.keisuke.6x★kyoto-u.jp(★を@に変更ください)

【総点検・マレーシア経済】第501回 ついに動き出した燃料補助金改革、10年来の課題決着へ(2)

第501回 ついに動き出した燃料補助金改革、10年来の課題決着へ(2)

2022年11月に発足したアンワル政権ですが、首相は就任直後に国家行動委員会・生活費特別会議を主催し、物価対策を最優先課題とすると発言しました。しかし同時に、財政健全化を目標として掲げ「対象を絞った補助金(targeted subsidy)」という言葉を繰り返しました。今回のディーゼル補助金改革は、財政健全化にむけた「対象を絞った補助金」導入の試金石となります。

今回のディーゼル燃料補助金改革は、2024年予算演説で触れられていた3つの補助金の見直し、1)鶏肉と卵、2)電気料金、3)ディーゼル燃料、のうち最後の1つとなります。政府は、2019年以降、ディーゼル燃料を利用する自動車等の数は3%しか増加していない一方で、ディーゼル油の消費量は40%も増加しているというデータを示し、ディーゼル燃料の多くが密輸されている可能性を示唆していました。マレーシアのディーゼル燃料の価格はASEAN諸国ではブルネイに次いで2番目に安く、シンガポールの半値以下、タイやインドネシアと比べても3分の2程度でした。

図は今回のディーゼル補助金制度の改革をチャートにしたものです。まず、補助金を廃止してディーゼル油を2.15リンギから3.35リンギに値上げした上で、業務に利用するディーゼル油については、SKDS1.0(スクールバス、長距離バスなど)、SKDS2.0(物流車両)、漁民についてフリート・カードを発行して割引価格でディーゼル油を購入できるようにしています。一方で、ディーゼル車を保有する一般国民や小規模農家に対してはBUDI Madaniというプログラムに登録することで、月額200リンギを補助金として受け取ることができます。

補助金で対象品の価格を下げるのではなく、対象品を安価に入手できる主体を限定したり、家計に補助金を配ることで対象品の値上がりを補償したり、という手法は、これからも補助金改革で用いられるテンプレートになると考えられます。本来は、こうした複雑な補助金制度を一元的に管理するために、政府は1月にPADUと呼ばれるデータベースを稼働させたのですが、今回のディーゼル補助金制度には利用されていないようです。アンワル政権の補助金改革は、まだ始まったばかりといえるでしょう。

熊谷 聡(くまがい さとる) Malaysian Institute of Economic Research客員研究員/日本貿易振興機構・アジア経済研究所主任調査研究員。専門はマレーシア経済/国際経済学。 【この記事のお問い合わせは】E-mail:satoru_kumagai★ide.go.jp(★を@に変更ください) アジア経済研究所 URL: http://www.ide.go.jp