【イスラム金融の基礎知識】第588回 イスラム銀行で発生するイスラム法に反する事項(後編)

第588回 イスラム銀行で発生するイスラム法に反する事項(後編)

Q: イスラム銀行ではイスラム法に反する事項は発生しますか?

A: イスラム法(シャリア)に基づいてビジネスを行うイスラム銀行であっても、従来型金融が併存する多民族・多宗教社会のマレーシアにおいては、イスラム法に反する事項が発生することがある。この場合、各イスラム銀行はシャリア・ボードの指導に基づき事案を年次報告書に報告する義務がある。この点に関する研究論文が2023年に発表されたので、その内容を見てみたい。

論文によれば、2015-2020年の6年間に16のイスラム銀行で、合計159件のイスラム法違反が報告された。中でもバンク・イスラム、メイバンク・イスラミック、スタンダード・チャータード・サアデクの3行が20件を超えており、全体の44%を占めた。発生した事項の詳細だが、前回紹介した分類に基づきさらに14種に分類した結果、「取引の不履行」「イスラム法に準拠しない活動を含む契約」「裏付けとなる資産の不在」「アカド(契約が成立するための条件)が満たされていない」が特に多かった。また、融資に関して契約形態別のトラブルを見てみると、タワッルク融資にまつわるものが29件中12件と突出していた。複雑な売買契約の組み合わせで成り立つ融資手法ゆえ、トラブルも多いとみられる。

さらに、イスラム法に反する事項で生じたイスラム銀行の損失は、各行とも年間10件程度であり損失は50万リンギ以内に収まっているが、100万リンギ以上に及んだ事例もあり、トラブルが多発するほど損失もまた大きくなった。

もっとも論文によれば、中央銀行の義務規定の履行が徹底されておらず、報告されるトラブルの内容や報告の仕方が銀行ごとに異なっている。したがってトラブルの発生件数の違いが、そのまま銀行の能力や危機意識の違いを表しているわけではないと指摘している。公正な比較のためには、適切なルール運用が必要と言えよう。

 

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第587回 イスラム銀行で発生するイスラム法に反する事項(前編)

第587回 イスラム銀行で発生するイスラム法に反する事項(前編)

Q: イスラム銀行ではイスラム法に反する事項は発生しますか?

A: イスラム銀行はイスラム法(シャリア)に基づいて銀行業を営むビジネス主体である。ただ、マレーシアのような従来型金融システムが併存する多民族・多宗教社会では、思わぬ形でイスラム法に違反してしまうことがある。

イスラム銀行にとってイスラム法に違反する事項は、大きく三つに分類される。すなわち、①広告やチラシに人為的ミスで「利子」の文言やブタのイラストが挿入されるような案件で、ビジネス契約や個別の融資案件には影響を及ぼさない事項。②イスラム銀行が他の金融機関との取引を通じて利子を受け取ってしまうような案件で、契約に影響を及ぼす可能性がある事項。③融資の対象が酒造業や養豚業であるような案件で、契約そのものが無効となる事項の3種類である。イスラム銀行は、自らのビジネスが適切であるかをイスラムの観点から確認する監査機構であるシャリア・ボードを設置しており、このような事項が発生しないか監視するとともに、発生した場合は年次報告書でその旨を報告する義務を負うと、中央銀行によって定められている。

イスラム銀行ではイスラム法に反する事項がどの程度認識・発生されているかを分析した興味深い研究論文が、2023年に発表された。ヌグリスンビラン州のイスラム科学大学経済学部のマリーナ・モハメド氏とヌルハズリナ・イブラヒム氏による「マレーシアのイスラム銀行によるシャリアを遵守しない出来事の情報開示」と題する論文で、16のイスラム銀行による2015年から2020年まで6年分の年次報告書の分析を行った。これによると、6年間で合計159件のイスラム法違反事例が発生・認識されていた。イスラム銀行ごとに年間数件から20件ほど問題が発生したが、場合によっては100万リンギ以上の損失が生じていたことが明らかになった。【後編に続く】

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

 

【イスラム金融の基礎知識】第586回 タイとサウジアラビア、イスラム金融など分野で協力に合意

第586回 タイとサウジアラビア、イスラム金融など分野で協力に合意

Q: タイとサウジがイスラム金融の関係強化を図るようですが?

A: 1月にタイとサウジアラビアの経済閣僚が会談し、双方向での投資関係を強化することで一致した。注力する分野の一つとしてイスラム金融が含まれており、今後の発展が期待される。

報道等によれば、1月に世界経済フォーラムの年次総会(いわゆるダボス会議)にあわせて、タイのエクニティ財務相とサウジのハリド・アル=ファリーハ投資相が会談、二国間の資本移動と産業の協力を実行するための「双方向投資回廊」を正式に発足することを明らかにした。タイ政府は、2024年4月にリアドにタイ投資委員会の事務所を設立しており、これまでに11件の産業協定を締結するとともに、多くのビジネスを成立させた実績がある。同回廊発足にあたっては、サウジ政府が「ビジョン2030」として掲げている分野のうちタイに対して優先度が高い分野として、①自動車産業のサプライチェーン、②医療と公衆衛生、③イスラム金融の3分野を取り上げた。

タイのイスラム金融は、2002年にタイ・イスラム銀行が政府によって創設されて以来約20年の歴史があるものの、現在まで同行1行のみの状況だ。市場規模は30億米ドル弱で、同銀行はマレーシアの国境に近くムスリム人口が多い深南部各県に支店が集中している。イスラム金融を通じた二国間の関係強化の具体的な方策は、現時点では詳らかにはなっていない。考えられる方向性としては、一つは貿易金融業務にイスラム銀行が参入することによって輸出入を活性化させることが目的と考えられる。もう一つは、経済発展が遅れている深南部地域の振興のため、イスラム銀行を資金のチャンネルにすることでサウジの資金を活用することが考えられる。同じ東南アジアにおいてムスリムが少数派のフィリピンがイスラム金融に力を入れ始めている中、タイでも同様の動きがみられるといえよう。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

 

【イスラム金融の基礎知識】第585回 MBSBのCEOがAIBIMの新会長に就任

【イスラム金融の基礎知識】第585回 MBSBのCEOがAIBIMの新会長に就任

Q: AIBIMの会長が交代したそうですが、新会長はどのような人物ですか?

A: マレーシアでイスラム銀行業をてがける銀行が加盟する業界団体であるマレーシア・イスラム銀行金融機関協会(AIBIM)の発表によると、昨年12月に退任したモハメド・ムアッザム・モハメド前会長の後任として、MBSB銀行のラフェ・ハニーフ社長が、1月に新会長に就任した。任期は2026-2028年の3年間。

ウェブサイトの情報によると、新会長はマレーシア国際イスラム大学で世俗法とイスラム法を学んだ後、ハーバード大学の大学院で法学修士を取得した。1999年にロンドンのHSBCに就職してUAEなど中東を担当し、同銀行のイスラム銀行業部門であるHSBCアマーナのCEOを務めた。マレーシアに戻ると、2019年から23年までCIMBの幹部職を歴任、2023年からは独立系イスラム銀行であるMBSB銀行の社長を務めている。

他方、昨年いっぱいで退任したモハメド氏は、同じく独立系イスラム銀行のバンク・イスラムのCEOを務めた人物で、同銀行のCEOを辞すと同時に会長職からも身を引いた恰好となる。なお今回のAIBIMの役員人事について、異動は会長職のみで、他の幹部職(副会長・事務局長・会計)には変更がない。

AIBIMは新会長について、金融のガバナンス、イノベーション、サステイナブルの各分野で優れた実績を有することと、幅広いリーダーシップや深い業界専門知識を持っていると指摘したまた、同協会の2025-27年の3カ年計画において、協会がマレーシアのイスラム金融産業においてリーダーシップを強化すること、業界の仲介を積極的に行うこと、そしてマレーシアが世界的なイスラム金融のハブになることを目指しており、新会長はこの取り組みを進めていくとしている。

 

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第584回 CIMBが手がけたスクークをめぐる訴訟

第584回 CIMBが手がけたスクークをめぐる訴訟

Q: 高速道路建設の遅延をめぐり、CIMBが訴えられたようですが?

A: CIMBが1月、ブルサ・マレーシア(証券取引所)に提出した書類によれば、CIMBの子会社であるCIMB投資銀行が起債を手がけた高速道路運営会社のスクークをめぐり、出資者から利払いや損害賠償等を求めて民事訴訟を起こされたことが明らかになった。高速道路運営会社の社長も、すでに背任やマネーロンダリングなどの罪で起訴されており、問題が拡大している。

報道などによると、高速道路の運営を手掛けるマジュ・ホールディングス社は、プトラジャヤとKLIAを結ぶ高速道路の延伸工事を計画、資金調達のため特別目的会社であるMEX II社を立ち上げた。同社は、額面13.8億リンギ、期間15年、年利6.1%のスクーク・ムラーバハを2016年に発行した。発行に際しては、CIMB投資銀行はプリンシパル・アドバイザーなどの役割を担った。工事は同年に始まり、2019年に完成予定であった。ところが資金不足等で工事が頓挫、2023年の調査段階でも10%以上の未完成部分を残しており、現在も状況は改善されていないとみられている。工事に加え、利払いも2021年以降滞っており、2022年にMEX II社は破産管財人の管理下に入った。さらに2025年9月マジュ社のアブ・サヒド・モハメドCEOが、背任やマネーロンダリングなど複数の罪状で起訴された。

こうした状況を踏まえ、スクークの43%を保有する政府系信託会社や保険会社など14社が原告となり、未払い利息の支払いや損害賠償を求めて、MEX II社、マジュ社、同社CEO、CIMB投資銀行など12の会社・個人を被告とする訴訟を起こすに至った。対象プロジェクトの契約不履行によってスクーク購入者に損害が生じた場合、起債を手がけたイスラム銀行に責任がどう及ぶか、注目の訴訟といえよう。

 

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第583回 中央アジアでのイスラム金融の課題

【イスラム金融の基礎知識】第583回 中央アジアでのイスラム金融の課題

Q: 中央アジアのイスラム金融の現状と課題は?

A: 昨年12月8日から11日まで4日間の日程で、UAEのアブダビで「アブダビ・ファイナンシャル・ウィーク」(ADFW)が開催された。中東湾岸諸国の金融機関や監督官庁、ビル・ゲイツなど欧米の財界人などが登壇する大規模なフォーラムだが、最終日には「イスラム金融サミット」と題する2時間のパネル・セッションが組まれた。会場の様子は2026年1月現在、YouTubeのADFW公式チャンネルで視聴可能だが、注目は「基準化とシャリアの規制」と題するセッションだ。登壇したのは、ユーラシア開発銀行(EDB)、アスタナ国際金融センター(いずれも本部はカザフスタン)、フィリピン中央銀行の担当者である。まさに「イスラム金融市場への本格参入はこれから」という国のイスラム金融担当者が登壇して、30分ほどの意見交換を行った。

この中でEDBのアザマット・チュレウベイ氏は、中央アジアのイスラム金融の現状について、イスラム金融に関する法律やイスラム法の解釈が各国でまちまちなため、国際開発金融機関としてのEDBの国境を超えた取り組みを困難なものにしていると指摘した。そのため、このような分断は関係各所の参加によって統一していく必要があるとした。

これに対して、フィリピン中央銀行のアリファ・A・アラ副総裁は、「ムスリムがマイノリティの国でイスラム金融を実践したことから得られた教訓」として、①ビジネスを実施可能にする法律、②立法だけでなく行政や規制当局、会計の専門家など利害関係者の協力、および③存在意義を国家の課題に結び付けること、という三つの必要性を挙げた。チュレウベイ氏も、EDBが各国の規制当局と基準機関であるAAOIFI、IFSBなどと協力体制を築くことで、中央アジアのイスラム金融は次の段階に進めるだろうと答えた。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

 

【イスラム金融の基礎知識】第582回 バンク・イスラム、サラワク州にザカートを寄付

第582回 バンク・イスラム、サラワク州にザカートを寄付

Q: バンク・イスラムがサラワク州のイスラム団体に寄付したそうですが?

A: マレーシアの現地報道によれば、バンク・イスラム(BIMB)は11月、同社幹部がサラバク州のザカート管理団体であるタブン・バイトゥルマール・サラワクを訪れ、2024年分のザカートとして91.5万リンギを寄付したことを明らかにした。贈呈式には州首相も来場し、小切手型を模した大きなボードが手渡された。

BIMBの2024年の年次報告書によると、2024年の業務によって生じた利益や保有資産などに基づいて算出された同行負担のザカートは1,140万リンギであった。このうち今回サラワク州に寄付された91.5万リンギは、ザカード全体の8.3%に相当する。各州のザカート管理団体にそれぞれいくらずつ寄付したか、詳細は必ずしも毎回詳らかにされていないため、今回の報道は詳細の一端が明らかになったといえる。割合で言えば、BIMBが有する135支店のうち、サラワク州には6支店しか存在せず、全体の4.4%に過ぎない。ここから、ザカートに占めるサラワク州への割合は、支店の同割合よりも高かったことになる。

サラワク州は、人口およそ250万人であるが、ムスリムはほぼ3分の1にとどまっている。他方、最大多数派は人口の半分を占めるのはキリスト教徒で、これはマレーシア全体とは異なる宗教別人口比率となっている。ただ、他の州と同様、宗教委員会などイスラムを管轄する組織・団体は州政府内にあり、ザカート徴収団体であるタブン・バイトゥルマール・サラワクもその一つである。2024年は、企業や個人等から1億4,300万リンギのザカートを徴収、うち1億1,200万リンギを貧困層への分配に用いた。

今回受け付けたBIMBの寄付金について、サラワク州側は同州のムスリム・コミュニティの社会経済的発展を支援するために用いるとしている。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第581回 バンク・イスラム、大学生の人気就職先に選出

第581回 バンク・イスラム、大学生の人気就職先に選出

Q: バンク・イスラムが大学生の就職先として人気のようですが?

A: マレーシアの大学生の間で、バンク・イスラム(BIMB)が就職先として人気が非常に高いことが明らかとなった。自分が成長できることや良い給料が期待できること、雇用が安定していることなどが、大学生などから評価されたようだ。

GTIメディア・マレーシアが、2025年1~9月に公私大の大学生・卒業生5.1万人余りを対象として、就職希望の企業や就活で重視する事柄に関するアンケートを行った。この結果BIMBは、石油産業のペトロナス社、会計法人のアーンスト・アンド・ヤング、商社のDKSHホールディングス、アライアンス銀行や保険会社、何より9年トップだったメイバンクを抜いての1位となった。

アンケートを行った同社の担当者によれば、マレーシアの大学生・卒業生が就職先を選ぶにあたり重視するポイントは、強力なリーダーシップがあること、給与が良いこと、ワークライフバランスが取れること、自分自身の成長の機会があること、雇用が安定していること、などであった。そのためアンケートの上位を占めた企業は、キャリア展望が開けており、そのことを就活で学生にアピールしたことが功を奏した分析している。

今回のアンケートでは新しい傾向がみられた。キャリアアップのためには海外でも就職活動を行うこと、メンタルヘルスサポートが充実していることを挙げた回答者が半数以上であり、特に82%は倫理的な慣行を重視し、76%は社会的に意義のあるキャリアを求めている。また、66%がAIの導入によって自身への影響があるのでは、との懸念を抱いる。マレーシアの担当者は、AIが普及する今だからこそ、批判的思考能力、共感する力、適応能力、好奇心といった対人関係を中心とするスキルを磨き、AIには真似できないことを身につけるべきだと、学生にアドバイスを送っている。

 

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第580回 馬企業の沖縄リゾート開発にイスラム金融活用

第580回 馬企業の沖縄リゾート開発にイスラム金融活用

Q: 日本でのリゾート開発にイスラム金融の資金が活用されるそうですが?

A: マレーシアの政府系金融機関であるマレーシア輸出入銀行が11月に明らかにしたところによると、マレーシア大手不動産開発業者のブルジャヤ・グループが手がける沖縄県のリゾート開発に対して、イスラム式を含めた融資を行うことになった。

マレーシア側の報道や当事者のメディア発表等によると、ブルジャヤ・グループは沖縄県恩納村にフォーシーズンズ・リゾート・アンド・プライベート・レジデンス沖縄(フォーシーズンズ沖縄)を総工費約1,000億円かけて2027年に開業することを、2024年に発表した。ブルジャヤ・グループは、これまでにも京都でフォーシーズンズ・ホテルを手掛けた実績がある。今回明らかになったのは、総工費のうち7,000万米ドル分が、輸出入銀行からの融資となるというものである。輸出入銀行には、連邦政府の2026年予算で輸出振興を目的としたファンド(スキム・エクスポート・ロンジャカン)が創設され、この一部を活用する融資となった。同ファンドをめぐっては、中国やオーストラリアの金融機関との提携も発表されており、同様の貿易保険スキームとも連携してマレーシア企業の輸出を促進していく。

今回の融資のもう一つ特徴的な点として、イスラム式であることである。ムダーラバやムラーバハなどの具体的な契約手法と、融資対象案件にどの程度イスラム法が適用されるかは、発表や報道内容からは不明である。一般的にイスラの金融の分野では、リゾートホテル・ビジネスはエンターテインメント要素が強くイスラム法に抵触する恐れがあるのではと、注意が払われている業種である。

フォーシーズンズ・ホテルは世界的に著名な高級ホテル・ブランドで、沖縄県には初めての進出となる。開業は2027年7月の予定である。

 

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第579回 イスラム式クラウドファンディングの可能性

第579回 イスラム式クラウドファンディングの可能性

Q: マレーシアでイスラム式クラウドファンディングが普及するためには?

A: 企業や個人が資金調達を行う手段であるクラウドファンディングの普及が進んでいるが、中にはイスラム式を謳うプラットフォームも存在する。イスラム式とは、「モスクの建設費用を集める」など目的がイスラムに適うとともに、調達した資金をイジャーラ(リース)方式で運用して出資者に分配するなど手段がイスラムに則ったものを指す。このようなイスラム式クラウドファンディングは、マレーシアではどのように発展していくかについて、2024年に研究論文が発表された。

トレンガヌ州のスルタン・ザイナル・アビディン大学のムハンマド・シャフルル・イフワート・イシャク准教授らの研究チームは、クラウドファンディングやイスラム銀行等で働く7名の実務家・専門家に対して聞き取り調査を行い、マレーシアにおけるイスラム銀行とクラウドファンドの発展を探った。調査結果から明らかになったことは、調査対象者がイスラム式クラウドファンディングを通じて多くの資金がイスラム金融市場に流入していると認識している、という点だ。また、両者は競合関係になるとはみておらず、むしろ補完関係だとみなしている。

根拠としては、クラウドファンディングを利用するスタートアップ企業や中小企業の中は、イスラム銀行から融資を受けられなかった事例が多いため、クラウドファンディングとイスラム銀行が借り手を奪い合ってはいないとしている。また、クラウドファンディング自体がイスラム銀行を利用していることから、足りないものを互いに補いあっているといえる。

クラウドファンディングの課題は、銀行融資ならば必須の企業へのモニタリングや、イスラム法によるガバナンスが徹底されていない恐れがあるため、この点をどう強化するかが、クラウドファンディングへの信頼に繋がると、専門家らは見ている。

 

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。