【イスラム金融の基礎知識】第556回 マレーシアの2025年国家予算

第556回 マレーシアの2025年国家予算

Q: アンワル首相兼財務相が2025年予算を発表しましたが、イスラム金融は?

A: マレーシアのアンワル首相兼財務相は10月18日、2025年の国家予算を議会に提出した。2024年比で3.3%増の4,210億リンギ(約14.7兆円)の規模となった。議会での演説では、予算の意図や使用目的・金額などを示したが、この中にはイスラム金融やハラール産業などイスラム経済に関する事柄も言及された。演説の要点をみていきたい。

まず冒頭でコーラン2章22節と、13-14世紀に活躍したスンニ派シャーフィイー学派のコーラン注釈家カーディ・バイダーウィの解釈を引用し、豊かな自然の恵みを公平・公正に管理し持続可能なエコシステムを育成するためにも、政治が重要であると説いた。

イスラムに導かれる政治と経済というアンワルらしい演説は、さらに米の調査会社ディナール・スタンダード社によるイスラム経済指標で、マレーシアが10年連続で1位になったと指摘した。ただ宗教・生命・知性・家族と子孫・財産の保護というイスラム法が目指すマカーシド・シャリーアの原則に立てば、イスラム金融にはまだ改善の余地があるとした。そこで具体的な方策として、①イスラム金融機関・個人投資家と借り手企業を取り結ぶマッチング・ファンドに1億リンギ、②低所得の零細企業家を支援するi-Tekadに2,000万リンギ、③P2Pによる資金調達を可能にするクラウド・ファンディングなどに4,000万リンギ、などに予算を割り当てることを明らかにした。

またハラール産業振興のため、ハラール認証を行うJAKIMの審査官を100名増員することや、政府系金融機関のSME銀行とマレーシア開発銀行による中小企業向け融資を6億リンギ強化することも打ち出した。イスラム金融とハラール産業というイスラムに強いマレーシア経済をさらに後押しするための予算編成と言えよう。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第555回「マレーシアのイスラム金融の父」が死去

「マレーシアのイスラム金融の父」が死去

Q: アブドゥル・ハリム・イスマイル氏の業績は?

A: マレーシアの主要メディアが報じたところによると10月26日にバンク・イスラム・マレーシアの元社長(MD)のアブドゥル・ハリム・イスマイル氏が亡くなった。85歳だった。一部のメディアでは「マレーシアのイスラム金融の父・開拓者」と呼んでその業績を称え、その死を悼んである。

バンク・イスラムやゆかりの財団によると、アブドゥル・ハリム氏は1939年にケダ州で生まれた。1965年にマラヤ大学で経済学の学士号を取得、イギリスのオックスフォード大学では博士号を取得した。マレーシア国民大学(UKM)で教鞭をとった後、ブミプトラ銀行(後のCIMB銀行)チーフ・エコノミストに転身した。そして1983年、新設されたマレーシア最初のイスラム銀行であるバンク・イスラムの初代社長に就任した。イスラム銀行業の実務経験はなかったものの、彼がマラヤ大学で学んでいた時期は、タブン・ハッジの理論提唱者であるウンク・アブドゥル・アジズ氏が副学長に就く前(1968年就任)であり、在学時に彼からイスラム金融の薫陶を受けていただろうと推察される。

バンク・イスラムの社長に就任すると、同銀行を通じてイスラム銀行業だけでなく、イスラム式の保険会社や証券会社なども創業した。彼は、グループを通じてイスラム銀行産業からイスラム金融産業へと業務を拡大し、国内に根付かせることに尽力した。創業から市場開放までの10年間、バンク・イスラムが市場の先鞭をつける役割を果たし、1992年に社長職を辞した。

こうした業績が認められ、アブドゥル・ハリム氏は、マレーシアにおける金融やイスラムに関する様々な賞を受賞した。彼の死去に伴いバンク・イスラムの現CEOは「晩年まで、私たちへのアドバイスをとても熱心に語ってくれた」との思い出をメディアに語った。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第554回メイバンク、比でイスラム銀行業務拡大を目指す

メイバンク、比でイスラム銀行業務拡大を目指す

Q: フィリピンで業務を開始したメイバンクのイスラム銀行部門の現状は?

A: 前回は、マレーシア資本のメインバンクが8月にフィリピンでイスラム銀行業務を開始したことを紹介したが、その後の状況と今後の計画が同国のメディアを通じて明らかになった。

メインバンクは今年7月、フィリピンでイスラム銀行部門(IBU)を設置して預金や融資などイスラム金融商品を取り扱えるライセンスを、中央銀行から取得した。これを受けて8月にザンボアンガの支店内に初のイスラム窓口を設けた。このことからおよそ2カ月が経過したが、同銀行幹部がフィリピンのメディアに語ったところによると、開設以来すでにおよそ2,000万ペソ(約5,000万円)の預金を集めた。これは、同銀行が掲げていた2024年末の預金残高1,500万ペソという当初の目標を、すでに上回っていることを意味しているという。

また、このザンボアンガでの経験をふまえて、さらにイスラム窓口を増やす計画を明らかにした。それによると、まず今年中にイスラム窓口を持つ支店を7カ所に増やす計画を立てており、特にセブ、ダバオ、マニラ首都圏にある各支店がその対象だとしている。そして最終的には、現在国内60ほどの支店網をさらに拡大して、全ての州(81州)にイスラム窓口を設けたいとしている。

幹部によれば、この目標を達成するにはシステム上の問題だけではなく、従業員教育が重要だとしている。現在、イスラム銀行商品の販売やサービス方法についての知識の向上のための教育を、従業員に対して行っているところであるとしている。

イスラム銀行業務について、幹部によればイスラム銀行部門の売上は、2025年の収益予測に織り込むには時期尚早としていたが、現在の状況では銀行の収益への貢献が早まるだろうという期待を示した。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第553回メイバンク・イスラミック、フィリピンでイスラム銀行業務を開始

メイバンク・イスラミック、フィリピンでイスラム銀行業務を開始

Q: メイバンク・イスラミックがフィリピンでイスラム銀行業務を開始しましたが?

A: マレーシア資本のメイバンクは8月、フィリピンのザンボアンガ支店にイスラム窓口を(イスラミック・ウィンドウ)設置した。同国にとって外国銀行によるイスラム銀行業への参入は初の事例となる。

本連載でもこれまで触れてきたように、フィリピンでは2019年にイスラム銀行法が施行され、市場が民間に解放された。これを受けて今年1月にローカル資本のCARD銀行が、初のイスラム銀行業専業支店を設けた(第535回)。また中央銀行関係者からは、CARD銀行の後に続く銀行が複数存在し、そのうちの一つがマレーシア資本のメイバンクであると示されていた(第543回)。

中央銀行やメインバンクの関係者の話によれば、今年7月にメイバンクが、イスラム銀行業を営めるイスラム銀行部門の設立許可を取得、翌8月にはザンボアンガ支店内にイスラム窓口を設置した。業務は、当面の間は普通預金と当座預金の預金業務のみとし、十分な資金が確保できたところで融資業務を行うとしている。同銀行は、ムスリムと非ムスリムの双方が利用できるとしており、支店に両者が足を運べるような形となっている。ザンボアンガ支店は、ミンダナオ島最西部のザンボアンガ空港からほど近い場所に位置する。首都マニラよりもスールー諸島やボルネオ島の方がはるかに近く、またCARD銀行のコタバト支店とは200kmほどの距離にある。

開設式でメイバンク・フィリピンのアビゲイル社長兼CEOは、「フィリピンへの進出は単に自社の利益拡大だけでなく、公明性、透明性、地域社会の福祉に対するコミットメントを示すものである」とし、ムスリムが多く住む地域でイスラム窓口が設置することの社会的意義を強調した。中央銀行は他にも市場に参入する銀行があることを明らかにしており、今後の動向にますます注目が集まるだろう。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第552回:イスラム開発銀行総裁、東南アジアを歴訪

イスラム開発銀行総裁、東南アジアを歴訪

Q: イスラム開発銀行の総裁がブルネイとインドネシアを訪問しましたが、目的は?

A: イスラム協力機構(OIC)傘下の国際開発金融機関であるイスラム開発銀行(IsDB)の総裁が8月、東南アジアのブルネイとインドネシアを歴訪した。これまでの融資の成果を確認するとともに、各国との関係強化を図ることが目的であった。

IsDBのウェブサイトなどによると、ムハンマド・アル=ジャーセル総裁(元サウジ経済企画相)は8月28日から31日にかけて東南アジア歴訪としてブルネイとインドネシアを訪問した。まずブルネイでは、ハサヌル・ボルキア国王や経済閣僚らと会談を行い、両者間のパートナーシップに関する覚書に調印した。これは、ブルネイが掲げる国家ビジョン「ワワサン2035」に対してIsDBが協力するもので、具体的な内容としてはイスラム金融の促進、中小企業エコシステムの支援、能力開発、地域経済化協力の統合、気候変動の緩和と適用といった分野で両者が協力することが含まれている。また総裁は、IsDBが主導するイスラムの連帯とOIC加盟国の福祉・教育・医療・社会保護に重点を置く慈善活動についての説明を行った。

次にインドネシアを訪問した総裁は、IsDBの融資によって建てられた東ジャカルタ市の二つの病院の開所式に出席した。IsDBは、2020年にインドネシアの三つの保健プロジェクトに対して14億米ドルの融資を行なったが、この病院はその一環として建てられたものである。総裁は、小児病棟と母子病棟をもつこれらの病院がインドネシアの家族に対して世界のトップレベルの医療を提供することになると、スピーチで強調した。また、ジョコ・ウィドド大統領と会談、インドネシアがヌサンタラに新首都を建設することに関連して、公平な開発、気候変動への取り組み、ゼロ・カーボンの開発、SDGsの達成などの各分野でIsDBが協力することを表明した。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第551回:マレーシアのムスリムの投資傾向

第551回:マレーシアのムスリムの投資傾向

Q: マレーシアのムスリムはどのような投資傾向がありますか?

A: マレーシアのムスリムの約半数が投資を行っており、政府系の投資信託など比較的安全性の高い投資商品を好むことが、マレーシアのイスラム銀行の調査で明らかとなった。

調査を行ったのはホンリョン・イスラム銀行で、18歳から77歳までのマレーシア人ムスリム690名を調査対象とした。対象者のほとんどが月収1万リンギ以下で、マレーシアの月収の中央値に近かった。

調査結果によると、投資を行っているムスリムは47%で、投資対象の内訳は政府系の投資信託であるASBファンド、メッカ巡礼資金を運用するタブン・ハッジ、そして金への投資が中心となっており、これに続くのが株式投資と高額貯蓄口座であった。イスラム金融商品に対してはローリスク・ローリターンという認識が高く、実際に株式投資のような投機性の高い商品よりも投資信託といったものがムスリムから好まれる傾向が示された。

さらにムスリムの65%は、イスラム金融商品のみを選択している。これは、従来型金融商品のみ、あるいは従来型とイスラム式の両方を選択するムスリムは3分の1にとどまっていると示唆している。他方で、回答者の84%は豊かになりたいと思ってはいるものの、ファイナンシャル・プランを立てて文書化しているムスリムは23%にすぎないことも、同調査で明らかとなった。

この調査は学術調査ではないため、非ムスリムとの有意な違いを明らかにすることは目的にしていないものの、マーケティング調査として同銀行のイスラム金融商品のあるべき方向性は示している。同銀行の幹部は調査記録を踏まえた上で、イスラム金融商品がリターンを高めることで従来型銀行の商品と同じような競争力を持つ必要があることと、個人資産の運用についてのより適切な知識をムスリムにいかに提供できるかが重要であるとの認識を示した。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第550回:イギリスの三タイプのイスラム式住宅ローン

第550回:イギリスの三タイプのイスラム式住宅ローン

Q: イギリスのイスラム式住宅ローンで人気のタイプは?

A: イギリスでは、マレーシアと同様に銀行やノン・バンクからイスラム式で住宅ローンを組める。同国の情報サイトが、住宅購入プラン(HPP)と呼ばれる三つの主要な住宅ローンの特徴と違いを解説している。

イスラム金融機関は、銀行利子に代わり独自の方法を用いる。その際、伝統的な契約形態の名称がそのまま融資の呼び名に採用されている。HPPではムシャーラカ、イジャーラ、ムラーバハの三つの融資が主に用いている。

もっとも多く利用されている手法が、ムシャーラカ契約に基づくHPPだ。これは、まず初めに金融機関と利用者が住宅を共同購入し、その後利用者が金融機関の持分を分割で買い取ることにより、完済後に住宅は利用者のものになる。共同購入時に住宅価格の一部を利用者が負担することで、結果的に頭金として機能するが、住宅価格の5%から20%を利用者が最初に支払うのが標準的とされる。

次に利用されるのがイジャーラ契約に基づくHPPだ。これは、イスラム金融機関が購入した住宅を利用者にリースするもので、利用者からみれば賃貸に相当する。この方法では、利用者は対象住宅を所有できない。ただし、賃貸期間後に中古住宅として利用者が買い取ることも可能である。この方法は、マレーシアではAITABと呼ばれている。

3番目の方法がムラーバハ契約に基づくHPPだ。これは、イスラム金融機関が住宅を購入し、購入原価に金融機関の利益を上乗せした価格で、利用者に割賦販売を行う方法である。イギリスでは、この方式は商業用地・不動産開発に用いられる一方、個人向け住宅で用いられることは多くないという。

イギリスではムシャーラカ融資が主流だが、マレーシアではムラーバハ融資が中心だ。同じ東南アジアでも、インドネシアではどちらかといえばイギリスに近い。国や地域によって、考え方や特性に差があるようだ。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第549回:インドネシアの有力イスラム団体が巨額資金を移動

第549回:インドネシアの有力イスラム団体が巨額資金を移動

Q: ムハマディアの動向がインドネシアのイスラム銀行市場で注目を集めているようですが?

A: インドネシアの有力イスラム団体が1,200億円以上の預金を特定のイスラム銀行から引き上げたことに、注目が集まっている。社会貢献活動を活性化させ、イスラム銀行の買収や新銀行設立も取り沙汰されている。

今回の騒動の中心は、インドネシアで2番目に規模が大きいイスラム団体であるムハマディアだ。ムハマディアは、1912年設立の近代改革派グループで、1926年に設立された最大の保守派団体ナフダトゥル・ウラマーにつぐ勢力である。ムハマディアは、社会活動に力を入れており、数多くの学校や病院を運営していることで知られている。

そのムアマディアが6月、インドネシア最大のイスラム銀行であるバンク・シャリア・インドネシア(BSI)から、約13兆ルピア(約1,265億円)の預金を引き下ろして、他のイスラム銀行に分散させたことが明らかになった。BSIの2024年第1四半期の財務諸表によれば、同行が引き受けていた預金残高は70兆ルピアであることから、実にその18%が引き下ろされた計算になる。

今回の措置の理由についてムハマディア関係者によれば、一つは預金を集中させることで生じるリスクを分散させることと、もう一つは代わりに預金を引き受けた他行が融資を積極的に行うことで、多様な社会貢献が行なえるとしている。またこの措置は、BSIが2021年に合併した当時から検討していたとしている。

インドネシア金融庁(OJK)は7月、ムハマディアがより直接的に銀行業に参画できるよう、銀行買収や新銀行設立を支援することを明らかにした。13兆ルピアは、イスラム銀行の総資産トップ10入りできる規模である。巨大な資金を持つイスラム団体が自ら銀行を運営するという、新しい局面も視野に入りそうだ。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

 

【イスラム金融の基礎知識】第548回:インドネシア最大のイスラム銀行、ハラル・イベントを開催

第548回:インドネシア最大のイスラム銀行、ハラル・イベントを開催

Q: インドネシアのイスラム銀行が主催するハラル・イベントとは?

A: 6月20日から23日にかけて、ジャカルタ・コンベンション・センターでハラル産業の国際見本市が開催された。主催したのは、2021年に三つの国営イスラム銀行が合併して誕生した、同国最大のイスラム銀行であるバンク・シャリア・インドネシア(BSI)だ。

「BSI国際エキスポ2024」と題した国際見本市は、食品などハラル産業の企業ブース出展やファッションショー、研究者や実務家、政治家らのディスカッションなどから構成されており、マレーシアのMIHASと似通ったイベントだ。

開会式に登壇した国営企業省のカルティカ・ウィルジョアトモジョ副大臣(合併に携わったマンディリ銀行の元社長でもある)は、スピーチの中でBSIが合併後様々な成果を上げていることを強調した。例えば、同社の時価総額が79億米ドルとなり、世界のイスラム銀行トップ10入りしたと明らかにした。また国内の上位5行のうち、イスラム銀行はBSIのみであるとした。2023年の経営状況は、総資産が353兆ルピア、純利益は5.7兆ルピアであった。

同副大臣は、BSIがインドネシア社会へ貢献していることも強調した。例えば2023年にBSIは2,220億ルピアのザカート(制度的喜捨)を提供したが、これは国内最大の拠出者であった。他方、サウジアラビアへの支店開設をすすめており、開業すればメッカ巡礼者に対してよりきめ細やかなサービスを提供できるとしている。また今回のようにハラル産業に属する企業を招いてのイベントを開催することで、インドネシアをハブとするハラル・バリュー・チェーンを世界に広げることができると、今回の見本市の意義を称賛した。

イベントの様子は、BSIの公式YouTubeチャンネルで閲覧することが可能だ。ファッションショーやトークショー、会場内の様子を確認することができる。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第547回:イスラム金融とESG投資の関係性

第547回:イスラム金融とESG投資の関係性

Q: イスラム金融とESG投資はどのように結びついていますか?

A: 民間企業は利潤を追求することを目的とする存在ではあるが、健全な社会の一員としてふさわしい振る舞いが期待される。特に金融機関の場合、融資が様々な企業や産業に与える影響力は大きい。したがって、適切な融資のあり方が社会にとって適切であるかが重要となる。

企業の社会的責任(CSR)に応じた社会的責任投資(SRI)に始まり、特定の価値観や倫理観に基づいた投資信託の誕生、また最近は環境・社会・ガバナンスに重点を置くESG投資に関心がもたれている。この点について、イスラム金融は価値観の相違にどう折り合いをつけているだろうか。

ESG投資とは、「環境や社会に配慮して事業を行っていて、適切なガバナンス(企業統治)がなされている会社に投資」(MUFG公式サイト)することと説明される。したがって、どのような活動が適切な環境・社会への配慮なのかは、その社会がもつ価値観に影響を受ける。多民族・多宗教社会であるマレーシアは民族間の融和が国是であるため、調和のある社会作りを目指す活動にコミットすることが、適切なESG投資となるだろう。

他方でイスラム金融は、イスラム法(シャリア)に基づいてビジネスが行われる。そのためマレーシアのイスラム銀行とはいえ、宗教の調和を唱えてキリスト教の教会や仏教の寺院の建設費用に対する融資を行うのは難しいだろう。ただ、ギャンブル・売春・武器といった社会秩序を乱しかねない企業の活動への融資は行わない。その意味では、より良い社会づくりのあり方のある側面はイスラム法と矛盾しないと言えよう。

マレーシアでは、証券員会を中心にサステナビリティ・レポーティング・フレームワークを5月に導入するなど、ESG投資に関心を向けている。イスラム金融機関もこれら基準をイスラム法と矛盾しない範囲で適応していく必要があるだろう。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。