【イスラム金融の基礎知識】第578回 FINDEX2025にみる東南アジアの銀行利用(2)

第578回 FINDEX2025にみる東南アジアの銀行利用(2)

Q: マレーシアの銀行利用の状況は?

A: 世界銀行グループが7月に公表したFINDEX2025によれば、マレーシアは他の主要国と同様2011・14・17・21・24年の調査結果が公表されている。このうち、2014年と2024年を比較してみたい。年平均5%の経済成長から一転、コロナ禍とそこからの回復をみた期間を通じての、個人の銀行口座保有率の変化である。

2014年の従来型銀行・イスラム銀行を問わず銀行口座保有率(15歳以上)は81%だった。2024年の同比率は89%なので、10年間で8ポイント増加したことになる。ただ、同比率は2021年には88%であったため、2010年代後半に銀行保有者が増え、ここ3年は頭打ちの状態のようだ。

2024年の属性別の保有率をみてみると、全体の89%より高い90%を超える属性は、都市居住者(90%)、有職者(92%)、所得階層上位60%の層(93%)、中等教育卒かそれ以上の学歴保有者(92%)である。「都市に住む高学歴で平均以上の所得がある有職者」ほど、銀行口座を保有する傾向にあると言える。

他方、10年間で8ポイント以上増加した属性は、初等教育卒かそれ以下の学歴保有者(16ポイント増)、15~24歳(11ポイント増)、女性(10ポイント増)であった。「低学歴で若年の女性」の銀行口座の保有が10年で顕著に進んだと言えそうだ。この間、男性の保有率は6ポイントの増加であった。この結果、2024年の保有率は男性89%・女性88%となり、性別間の格差はほぼなくなった。なお、2024年にもっとも保有率が低い属性が、初等教育卒かそれ以下の学歴層(74%)である。今後マレーシア全体において、さらなる銀行口座保有率増加を目指すのであれば、この層に対していかに銀行がリーチしていくかが課題といえよう。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第577回 FINDEX2025にみる東南アジアの銀行利用

第577回 FINDEX2025にみる東南アジアの銀行利用

Q: 世界銀行がFINDEX2025を公表しましたが、内容は?

A: 世界銀行はFINDEX2025を7月に公表した。これは世界中の人々を対象として、銀行の利用状況をアンケート調査したものである。これまで2011年・14年・17年・21年・24年とコロナ禍の2020年を除き3年おきに調査を実施しており、今回のFINDEX2025は2024年の調査結果の公表である。

東南アジアでは毎回、ブルネイと東ティモールを除く9カ国が調査対象である。なおミャンマーは、今回調査は行われなかった。

「銀行や金融機関に口座を保有しているか?」という基本的な質問に始まり、有無の理由やサービスの種類・利用状況などを、年齢・性別・居住地・学歴・職の有無といった属性ごとにデータを集計・公開している。また今回新たに、スマートフォンに紐付いた電子マネーの利用状況についても、詳しく質問している。他方、以前には問われた「宗教上の理由で口座を持たない」といった宗教関連の項目が、今回はなくなった。

データによると、2024年の世界の銀行口座保有率は78.7%で、前回2021年の調査に比べて4.9ポイント増加した。東南アジア諸国でこの割合を上回っている国は、シンガポール(98.0%)、タイ(91.8%)、マレーシア(88.7%)の3カ国であった。他方、平均値は下回ってはいるものの過半数が保有している国はベトナム(70.6%)、インドネシア(56.3%)、フィリピン(50.2%)で、ラオスとカンボジアは40%以下であった(ミャンマーはデータなし)。

2021年と比較すると、3年間で世界平均と同等以上に割合が高まった国はインドネシア、ベトナム、カンボジアの3カ国のみで、他の国は前回と大きな変化はなかった。コロナ禍以前より高止まっていた国、コロナ禍でも保有者が増えた国など、傾向に差が表れる結果となった。(次回に続く)

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

 

【イスラム金融の基礎知識】第576回 顧客満足度に影響を与える要因

第576回 顧客満足度に影響を与える要因

Q: 顧客満足度は何に影響を受けるかを分析した研究はあるか?

A: イスラム銀行の利用者の満足度は、何によって高まるのか。先行研究によれば、イスラム法を遵守するとともに、クオリティの高いサービスを提供することが肝要である。

バングラデシュ・ワールド大学のセリム・アフマド教授を中心とするバングラデシュ・カナダ・マレーシアの研究チームが2022年に発表した研究論文では、イスラム銀行に口座を保有するバングラデシュ在住の334名のムスリムを対象にアンケート調査が行われた。論文によれば、「コーランなどイスラムに基づいた経営」「損益共有や無利子の融資・預金のみを提供し、利子は扱わない」といったイスラム法への遵守が高まるほど、「最新の設備」「時間厳守」「接客態度」などのサービス品質を向上させるとともに、顧客によるイスラム銀行の「サービス・スタッフ・設備」への満足度向上に繋がるとしている。

また筆者らは、今回のアンケート調査の妥当性を測るため、インドネシアやオマーンのイスラム銀行利用者、マレーシアのハラル産業であるムスリム・フレンドリー・ホテルや医療観光の利用客に対するアンケート調査を行った各種の先行研究との比較を行った。その結果、今回の調査と同様イスラム法への遵守とサービス品質の高さは、顧客満足度の高さに繋がるという同様の傾向を見出した。

ただ、今回の調査はムスリムのみを対象としている。バングラデシュのムスリム人口比率やイスラム銀行の利用実態を踏まえれば、調査の方法と結果は妥当と言えるが、非ムスリムの利用者も多いマレーシアでは異なる結果が得られたであろう。またサービス品質の向上は、宗教によらずに高めることも可能だと先行研究を通じて示している。マレーシアでは、バングラデシュの傾向に加えて、宗教以外の要素も検討の必要があるといえよう。

 

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第575回 ASEANでイスラム金融普及進むも国ごとに進捗差

第575回 ASEANでイスラム金融普及進むも国ごとに進捗差

Q: ASEANでのイスラム金融の普及状況は?

A: イスラム金融のASEAN市場は、世界全体の4分の1の規模を占めるものの、国ごとに温度差がある。国際的な金融格付会社のフィッチ・レーティングスは8月に発表したレポートでこのように報告した。

レポートによると、2025年上半期のASEAN市場は約9,500億米ドル(世界全体では3.5兆米ドル)で、2026年後半には1兆米ドルの大台に達すると予想している。国別の状況をみてみると、マレーシアのイスラム銀行市場は3,000億米ドルを上回っている。他方、インドネシアのイスラム銀行市場は560億米ドル、ブルネイは100億米ドルだが、ブルネイについては国内銀行市場での比率はASEANでもっとも高く6割を占める。

ASEANのハイレベル会合でもイスラム金融の重要性の認識は共有されている。4月に開催された財務相・中央銀行総裁会議では、持続可能な資金調達とインフラ整備ではイスラム金融が重要であると強調された。また、5月に開催されたASEAN・GCC首脳会議においても、この分野で地域を超えた連携が必要であり、とりわけASEANで発行されたスクークの主要な購入者は、湾岸諸国のイスラム銀行であると示された。

しかしながら、ASEAN加盟国ごとにイスラム金融の普及には差があるしている。フィッチによれば、普及が進んでいる国はマレーシア、インドネシア、ブルネイ。限定的なのがフィリピン、シンガポール、タイ。そしてそれ以外のベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマーは、市場ルールも未整備で未発達の状況だと区分した。これらの違いは、おおむねムスリム人口や人口比率に準じているとみなせる。

フィッチは、マクロ経済の混乱が生じず、また湾岸諸国との関係が良好であれば、市場の持続的な成長が可能であると予想している。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第574回 バングラデシュのイスラム銀行、合併に向けた動き

第574回 バングラデシュのイスラム銀行、合併に向けた動き

Q: バングラデシュでは、イスラム銀行の再編が行われるそうですが?

A: バングラデシュ中央銀行は6月、5行のイスラム銀行を対象とする合併を提案、8月には各銀行の幹部と中央銀行とで会合が行われた。合併の背景には、昨年8月に崩壊したハシナ前政権と強い関係をもち、その後経営悪化が発覚した銀行の救済があるとみられる。

バングラデシュにはイスラム銀行は10行あり、その総資産は同国の銀行資産の21.45%を占めている(2025年1月現在)。しかしながら、複数のイスラム銀行の経営母体であるSアラム・グループが、ハシナ前政権との結び付きが強いとされてきた。昨年の政変でハシナ政権の崩壊を受けて、今年に入りアジア開発銀行の支援を受けた著名な監査法人が各行の経営実態の調査を行った。その結果、複数のイスラム銀行で、不良債権比率が各行が公表していた20%程度ではなく、実際には90%を超えていたことが判明した。

そこで6月、中央銀行のアフサン・H・マンスール総裁は、国内金融部門の健全化のため経営不振のイスラム銀行の合併を提案した。対象は、ファースト・セキュリティー・イスラミ銀行、ソーシャル・イスラミ銀行、グローバル・イスラミ銀行、ユニオン銀行、バングラデシュ輸出入銀行の5行である。当初はもう1行加える予定であったが、外国人・企業の持株比率が高く交渉の難航が予想されるため、合併案から外れた。

合併案に対しては、各行とも素直に受け入れているわけではなく、ある銀行は「他の4行よりも経営が健全だ」と主張、8月の中銀との会合に頭取は参加しなかった。もしもこの5行が合併した場合、総資産の合計は約2兆1,960億タカ(約2兆6,600億円)、支店数は1,145となり、現在最大のソナリ銀行を超えて同国第1位の規模の銀行となる見通しである。合併作業は、政権や選挙の動向、各行の抵抗などから時間がかかるだろうと見られている。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第573回 ターキッシュ・エアラインズ、イスラム銀行経由でエアバス機を調達

【イスラム金融の基礎知識】第573回 ターキッシュ・エアラインズ、イスラム銀行経由でエアバス機を調達

Q: ターキッシュ・エアラインズがエアバス社の新機体を調達するようですが?

A: トルコのターキッシュ・エアラインズ(TK)とドバイ・イスラム銀行(DIB)は7月28日に記者会見を行い、TKがエアバス社よりA350を調達、その際DIBからリース契約を結ぶことを明らかにした。TKがイスラム銀行を利用することと、DIBがトルコで航空機のリースをてがけることは、いずれも今回が初めてとなる。

航空業界においては、単価の高い航空機の購入やリースをめぐり、中東や東南アジアの航空会社がイスラム銀行を活用する事例がしばしばみられる。中でも、航空会社がエアバス社やボーイング社から機体を購入する際、イスラム銀行から融資を受ける事例が多い。また、航空会社がスクークを起債して資金を調達し、機体購入を行った例もある。他方、コロナ禍で冷え込んだ業界に応えて、2021年にシンガポール航空(SQ)が機体を航空機リース会社に売却、さらにそれをSQがリースバックする一連の手続きをDIBがてがけた例もある(本連載396回参照)。

報道によると、TKとDIBは「リース契約を結んだ」としているので、おそらく活用されるのはイジャーラ契約であろう。融資は米ドル、ユーロ、トルコ・リラのいずれでもなくスイス・フラン建てで行われる。資金調達手段とともに用いる通貨も多様化させることも、今回の融資の目的となっている。なお、今回の契約では何機分の機体が契約の対象かは明らかになっていない。ただTKは2023年12月にエアバスA350を70機発注する計画を明らかにしており、おそらく今回はその一環であると考えられる。

記者会見でDIBのアドナン・チルワンCEOは、「世界でもっとも多くの国に路線を持つことでギネス・ワールド・レコードを有するTKがイスラム銀行を利用するのは、トルコの航空業界にとって大きな節目だ」と意義を強調した。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第572回 IFSB総会、モロッコで開催

第572回 IFSB総会、モロッコで開催

Q: 今年のIFSB総会は?

A: 中央銀行や通貨庁など、各国のイスラム金融の監督官庁が加盟する国際的なイスラム金融団体であるイスラム金融サービス委員会(IFSB、本部マレーシア)は、7月1日から3日にかけてモロッコのラバトで第23回総会と各種のフォーラムを開催した。ラバトは、首都カサブランカとジブラルタル海峡の中間に位置する大西洋に面した街だ。

モロッコは、イスラム協力機構(OIC)傘下のイスラム開発銀行(IsDB)の地域ハブ拠点が設置されている一方で、同国自体のイスラム金融の歴史自体は浅く、2014年に銀行法が施行され、初めてのイスラム銀行であるアムニア銀行が、カタール国際イスラム銀行などの支援を受けて2017年に創業した。以降、同銀行を中心にイスラム銀行5行とイスラム窓口を持つ複数の従来型銀行によって、市場が形成されている。現在の市場規模はおよそ24億米ドルで、国内金融市場の2%程度のシェアを占めている。

総会とフォーラムでは、イスラム法への準拠、流動性資産の管理、持続可能な金融の発展、およびデジタル化のリスクの4点が、主な議題として取り上げられた。これについてモロッコの中央銀行であるアル・マグリブ銀行のアブドゥルラティフ総裁は、「現在のイスラム金融はますます国際的な金融システムに統合されつつあるが、国によって経済発展やイスラムのあり方に大きな違いがある。そこでIFSBが提示する原理原則に基づき、各国の監督官庁が各国固有の事情を考慮した独自の規制を作ることが許容されている」と指摘した。モロッコにおけるこの具体例として、アブドゥルラティフ総裁は「ムスリム利用者からの信頼にこたえるため、最高ウラマー評議会がファトワ(法学裁定)を発行することによって、イスラム金融商品を認証している」という点を挙げた。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第571回 湾岸諸国の観光産業をイスラム金融が下支えする

第571回 湾岸諸国の観光産業をイスラム金融が下支えする

Q: コロナ後の湾岸諸国の観光産業とイスラム金融の関係は?

A: コロナ禍で減少した観光客が世界的に回復している現在、観光産業をイスラム金融が下支えしようとしている。この状況を湾岸諸国のメディアが伝えている。

ドバイでは、2024年の観光客がコロナ前の2019年と比べて69%増加した。これはG20諸国の中で最も高かった。今日の観光客は、若い世代ほど旅先で両替したりトラベラーズチェックを使用したりはせずスマートフォンでの決済を好んでおり、変化の著しい分野でもある。

観光産業の拡大を下支えするのは金融である。観光施設建設のための大型融資、航空会社が航空機を建造する際の債券発行、リース形式によるホテルの運営など、金融への様々なニーズが生まれている。例えば、湾岸諸国の主要航空会社は今後5年間でボーイングとエアバスに780機の航空機を発注することになっているが、過去にはスクークで資金調達した例もある。また、ドバイで建設される5つ星ホテルは、アブダビ・イスラム銀行などの融資団から3億米ドルの融資を受けた。ホテルの建設ラッシュがサウジアラビアで起きており、複数のホテルグループが合計170軒ほどのホテル建設を計画している。

飛行機のファーストクラスやプライベートジェット、最高級ホテル等を利用する富裕層のラグジュアリーな観光も増加すると、プライベート・バンキングのニーズが高まっている。観光を兼ねて投資物件を物色したり、中には移住をする者も増えれば、富裕層の資産を管理するプライベート・バンキングの存在が重要となる。

もっとも、観光の拡大がイスラム銀行へのニーズを高めるものの、すでに湾岸諸国では金融機関が飽和状態となっており、今後は銀行間の生き残りのため合併あるいは市場の統一などが視野に入ってくるだろうと、メディアは同時に指摘している。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第570回 アンワル首相、タタールスタン訪問でイスラム金融を議論

第570回 アンワル首相、タタールスタン訪問でイスラム金融を議論

Q: アンワル首相の訪露の目的は?

A: アンワル・イブラヒム首相は、5月に4日間の日程でロシアを訪れた。この間、タタールスタン共和国で開催された国際フォーラムに参加し、イスラム金融やハラル産業などの分野での支援を表明した。

タタールスタンは、ロシア連邦を構成する国の一つで、人口およそ400万人のうち半数がムスリムである。2023年にロシアがイスラム金融制度を試験的に導入した四つの共和国の一つであり、ハラル産業のための16ヘクタールの工業団地「バルタチ」を2019年に建設するなど、この分野に力を入れている。

首都カザンでは、毎年「カザン・フォーラム」と題する展示会・講演会を開催している。これは、ロシアとイスラム諸国の経済連携の強化を目指して開催されるもので、今年で16回目の開催となった。マレーシアは、これまで閣僚級の人物を団長とする使節団が参加しており(本連載第446回参照)、今年はアンワル首相自らが一団を率いて現地入りした。フォーラムで講演を行ったアンワル首相は、この地域のイスラム経済の発展をマレーシアとして支援するという従来の約束を履行すると改めて表明した。

また、これに先だってアンワル首相は同国のルスタム・ミニハノフ首長(大統領)と会談を行った。この中でミニハノフ首長は、タタールスタンはイスラム銀行導入の試験対象地域であり、マレーシアから多くのことを学び最適な実践を採用して行きたいと表明した。対してアンワル首相は、イスラム金融やハラル産業について「議論する準備はできている」と答えた。また、タタールスタンには大きな潜在的な可能性があるので、多くの提案を行い協力して経済を発展させる必要がある点で一致した。

ハラル産業以外にも、今年の秋に両国の10代の若者200名による合同青年キャンプをクアラルンプールで開催する予定であるなど、多様な分野での関係構築を進めている。

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。

【イスラム金融の基礎知識】第569回 マレーシアのイスラム銀行、金融各誌が表彰

第569回 マレーシアのイスラム銀行、金融各誌が表彰

Q: 金融各誌がイスラム金融の賞を発表しましたが、マレーシアの受賞は?

A: 欧米を中心に英語で発行されている金融専門雑誌2誌が5月にあいついで「ベスト・イスラム金融機関賞」を発表した。様々な部門が設けられているが、マレーシアのイスラム銀行が受賞した部門を紹介したい。

賞を主催したのは1987年発刊のグローバル・ファイナンスと、もう一つは1967年発刊のユーロ・マネーだ。いずれも、融資や預金などの業務別賞と、国・地域ごとの賞を設けている。選考基準はとしてか指標を導入して優劣を競うというよりも、年間の活動内容や動向を判断材料としているようだ。

まずグローバル・ファイナンスでは、メインバンク・イスラミックが業務別で最優秀資産管理賞を。地域別では最優秀アジア賞と最優秀マレーシア賞の両方を獲得した。最優秀資産管理賞の受賞理由は、顧客に対して最新のアプリを使用しての資産管理や資産運用のアドバイスを積極的に行ったことが評価された。地域部門では、同銀行がマレーシアのイスラム金融資産の30%を保有する最大のイスラム銀行であり、総資産は世界でも5番目に大きいこと、マレーシアはもとよりアジア各地にビジネスを拡大しており、特に昨年はフィリピンでのビジネス展開が評価された。

同様にユーロ・マネーでも、メイバンク・イスラミックが最優秀アジア賞を獲得した。こちらも高評価のポイントとして、総資産が大きいこと、マレーシアだけでなくフィリピンをはじめ各国でのビジネス展開が評価された。また同誌は、ESG(環境・社会・ガバナンス)に力を入れているイスラム銀行として、パブリック・イスラム銀行に最優秀ESPマレーシア賞を授けた。グリーン住宅やグリーン・エネルギーの生産・購入・使用に関わる融資を積極的に行ったことで、マレーシア社会でのESGの普及に貢献したことが、受賞の理由だとしている。

 

福島 康博(ふくしま やすひろ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員。1973年東京都生まれ。マレーシア国際イスラーム大学大学院MBA課程イスラーム金融コース留学をへて、桜美林大学大学院国際学研究科後期博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。2014年5月より現職。専門は、イスラーム金融論、マレーシア地域研究。